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Y!mobile、そして日本通信とも――U-NEXTが複数のMVNEとタッグを組む理由

ITmedia Mobile 9月6日(火)18時6分配信

 MVNOシェア第4位(MM総研調べ)のU-NEXTが、矢継ぎ早に大型の発表を行っている。7月1日には、IIJをMVNEとした「U-mobile PREMIUM」をスタート。これまで、同社はフリービットをMVNEとし、「LTE使い放題」プランを提供していたが、使い放題プランの主軸はPREMIUMに移す方針だ。

【「U-mobile SUPER」はY!mobileと同じ?】

 8月10日には、老舗のMVNOである日本通信から事業を継承すると発表。詳細はまだ協議中だが、今後、徐々にその全貌が明らかになっていく見込みだ。日本通信は裏方に回り、U-mobileのMVNEとして、サービスを支える方針。これによってU-mobileのシェアも、楽天モバイルを抜き、3位に浮上する可能性が出てきた。

 ほかにも、U-NEXTは「U-mobile SUPER」として、Y!mobileの通信サービスを、再販の形で提供している。ベンチャー企業のMVNOであるロケットモバイルにもU-mobile SUPERを提供しており、MVNOとMNOをつなぐ、MVNE的な動きも見せている。

 これらの発表からは、U-NEXTがネットワークに大きく手を入れようとしていることが見えてくる。フリービット1社だったMVNEを増やし、それぞれのMVNEを使い分けるようとしているようだ。一方で、1つのMVNOが、複数のMVNEからネットワークを借り、それらを併存させながらサービスを提供するというのは、珍しいケースともいえる。同社の狙いや戦略を、取締役の通信事業担当役員の二宮康真氏と、コミュニケーションネットワーク事業本部 部長の浅賀生太氏に聞いた。

●U-NEXTはマーケティングやコンテンツの投資を優先する

――(聞き手:石野純也) IIJに続き、日本通信をMVNEにすることを発表しました。まずは、その狙いを教えてください。

二宮氏 もともと、MVNEはフリービットさんだけでしたが、今後は各MVNEの方向性も変わってくると思っています。1社だけとの取引では、リスクとまでは言わないまでも、最新技術の提供が遅れる可能性もあります。ということもあり、限定することなく、マルチMVNEで複数社からネットワークを借りています。

―― 競争を促し、コストを抑えるような狙いはあるのでしょうか。

二宮氏 単価の交渉などまで、深く考えて提携しているわけではありません。どちらかというと、ユーザーから見たとき、きちんとしたサービスをいかに提供できるかに主軸を置いています。

浅賀氏 大きなきっかけになったのが、電気通信事業法の改正です。(MNOがMVNOに対して)相対の条件を出せるようになってきたのが、今回、MVNEを増やした狙いになります。

―― その点を、もう少しかみ砕いて教えてください。

二宮氏 各社とも、どういう投資をされていくのかが変わってくると思います。場合によっては、このユーザーにはこのMVNEといったような形で提供した方が、優れたサービスになる可能性もります。コンシューマーだけでなく、法人向けも考えたとき、こちらの方が有利になるという考え方もあります。

―― ここまでユーザーが多いMVNOが、自社で直接相互接続していないのも珍しいと思います。将来的に、自社で全てをやる方向に切り替えるという可能性についてはいかがですか。

二宮氏 100%将来やらないというわけではありませんが、MVNOは(二次MVNOまで含め)500社を超えた競合関係が形成されています。一定の投資をどこまでするのかは、考えなければなりません。確かに、このユーザー数なら、本来は相互接続を直接してもいい規模感なのかもしれません。ただ、それが本当に正しいことなのか。今後はもっと莫大な投資が必要になりますからね。

 前々からいろいろなところでお話はしていますが、われわれは、われわれ自身の強みをきちんと分析しています。L2(レイヤー2接続)はしていませんが、一定のマーケティング力はあり、MVNOもうまく立ち上げられたと自負しています。また、映像や音楽を含めたコンテンツも持っています。これらを絡めながら、ユーザーの喜ぶサービスを作っていく。一気通貫でやるのが、U-NEXTの方向感です。

 そうすると、やはりU-NEXTはマーケティングやコンテンツの投資を優先させたいですし、サービスの拡充も考えています。一方でL2の部分は、各企業(MVNE)と連携すれば解決することです。

浅賀氏 HSS/HLRを持った「フルMVNO」を目指すところがありますが、あれを実現しようとしたときに、考えている投資の範囲で収まるのかということもありますね。

―― なるほど。電気通信事業法改正から、フルMVNOの登場を見越しての、マルチMVNE化だったわけですね。日本通信のMVNOを継承する枠組みも、基本的にはその一環ということでしょうか。

二宮氏 日本通信さんをMVNEとして、新規でサービスを作り、ユーザーを獲得していくというのが、基本的な考え方です。既に発表していることですが、コンシューマー向けはMVNEに特化し、法人向けやグローバルをやっていくというのが、日本通信さんの方針です。(コンシューマー向けの部分は)われわれと連携することで、ユーザーを増やしていける。日本通信さんは帯域を持っているので、コストメリットもあります。

―― つまり、U-mobile PREMIUMのような形で、日本通信を使ったプランが増えるということですね。

二宮氏 方向感としては、そちらで考えています。

●日本通信のサービスはどうやって引き継ぐ?

―― 日本通信の既存ユーザーは、どうなるのでしょうか。b(-mobile)からU(-mobile)に、アルファベットが1文字変わったりはするのでしょうか(笑)。

二宮氏 それは、今まさに検討をしているところですね。ただ、(ブランドを変えると)ユーザーが混乱する恐れもあります。極力ユーザーが混乱しないことが、望ましいと考えています。

―― 金額面には触れられていませんでしたが、日本通信のMVNOは買うのでしょうか。それとも、無償で譲渡されるのでしょうか。

二宮氏 今は、そこは言えません。第3四半期の決算を見ていただければと思います。

―― そんなにすぐ、結論が出るものでしょうか。

二宮氏 そこまで時間をかける案件ではないと考えています。

―― 日本通信の場合は業態変更です、それとは違いますが、これだけMVNOが増えると、消えるところも出てくると思います。そういったMVNOを買って、規模を拡大していくことはあるのでしょうか。

二宮氏 上位のところ(MVNO)は、割と考えていることかもしれません。

浅賀氏 それをMNOにやってもらうのか、われわれのような中間のMVNOやMVNEがやるのかは、今後の課題になると思います。

二宮氏 ただ、MVNEが変わるとAPNの書き換えが必要なったりするので、そこは課題になるかもしれません。

―― ちなみに、b-mobileのユーザー数を合算すると、楽天モバイルを抜き、3位に踊り出ます。

二宮氏 うまくいけば、ですけどね(笑)。

―― 今後は、「MVNEのMVNE」として、MVNOとMVNEの間に入るようなこともしていくのでしょうか。

二宮氏 視野には入れています。企業によっては、独自の会員を持たれているところがあります。(そういった企業が)どこのMVNEが合っているかが分かれば、タイムリーに(MVNOのサービスを)投入できます。

―― MVNOに対するコンサルティングのような形ですね。

二宮氏 そうですね。

●音声定額サービスは早急に準備する

―― Y!mobileのネットワークを使ったU-mobile SUPERも、マルチMVNE化の一環と考えていいのでしょうか。あのプランは、どういうユーザーに向けたものなのかも、ご説明ください。

二宮氏 通話メインで考えている方への訴求として、必要だと考えました。ですから、データ容量も、一番売れているのは低いもの(Super Talk S)になります。

―― そういえば、ドコモ回線のプランには、中継電話を使った音声定額がないですね。

二宮氏 あまりプロモーションはしていませんが、パックプラン(月額800円で60分の無料通話分が付く「でんわパック60」)があります。あるにはあるのですが、(業界全体の流れが)われわれの思った方向とは違ってきて、「何分いくら」ではなくなっています。ここについては、早急に準備する予定です。

―― 通話もやはり定額にしていくとういことですね。

二宮氏 通話は卸値も決まっているので、データをどうカスタマイズして使い放題を作っていくのかが重要になります。IIJさんのLTE使い放題と、通話し放題の設計がうまくいけば、それらをパッケージングして販売したいですね。

―― Y!mobileのプランはMNOと同じになっていますが、ここはもう少し違いを出せないものでしょうか。

二宮氏 こうご期待というところですね。

―― ドコモ、ソフトバンク(Y!mobile)ときた中で、残る1社はいかがですか。

二宮氏 auさんとは限りませんが、(MNOの種類を増やす)可能性はあります。

●ゼロレーティングはホワイトではない?

―― 次に、足元の状況を教えてください。

二宮氏 6月末でポストペイドが43万6000、プリペイドが34万1000で、合計で70万を超えたところです。1年前と比較して伸びているのが対面販売で、ここは強化しています。量販店、併売店の数が増え、獲得が堅調に伸びています。

―― 先ほど、コンテンツまで一気通貫にやるというお話がありましたが、このMVNOの伸びは、VODにとってもプラスになっているのでしょうか。

二宮氏 はい。その側面はありますね。今は(U-mobileの通話SIMに)U-NEXTポイントを600ポイントつけていますが、これは、新作映画を1本無料で見られるという考え方です。ユーザーにとっては、かなりいいサービスなのではないでしょうか。

―― モバイルで見ているのでしょうか。

二宮氏 U-NEXTはマルチプラットフォームのサービスなので、長い映画となると、自宅で見る傾向が強くなります。モバイルでサービスに入っていても、実際に見ているのはWi-Fi経由だったりします。

―― 通信量をカウントしない「ゼロレーティング」を提供するMVNOも増えていますが、ポイントを付けてサービス側を事実上値引くのは、発想が逆ですね。

二宮氏 そもそも、使い放題というテーマでサービスを作っているので、ゼロレーティングをやる意味も薄れています。

―― 確かに、特定の相手との通信どころか、全ての通信が定額ですからね(笑)。

浅賀氏 どちらかというと、ゼロレーティングはダイヤルアップ時代からの老舗企業というより、新興企業が始めていますが、そこに関しては、ガイドラインや現行法と照らし合わせたとき、まったくのホワイトかといえばそうでもありません。サービス面で必要なのかというのとは別に、そういった懸念もあります。

―― MVNEを多様化しつつありますが、現状だと、主力はやはり定額プランなのでしょうか。

二宮氏 どれが主力かは、なかなか言いづらいですね。

浅賀氏 販路によって変わりますからね。U-mobile PREMIUMを始めて、メディアの方には「フリービットさんと仲が悪くなったのか」といわれることもありますが、そんなことはありません。ダブルフィックス(二段階プラン)はありますし、安く抑えたい方には小容量のプランの方も人気で、量販店では引き続き堅調です。一方で、容量を気にせず、一定の速度で使いたい方には、U-mobile PREMIUMを提供しています。ある程度の比率はありますが、これだけしか売れないというわけではありません。

●現地販路を開拓してプリペイドSIMも好調

―― プリペイドも多いですね。

二宮氏 純増はなかなか難しいのですが、毎月、同じ数、安定的に増えています。

―― プリペイドは海外ユーザーのシェアも高いと聞きましたが、いかがですか。

二宮氏 販売網としは、海外の旅行代理店が多いですね。販路は海外で、日本に来てからアクティベーションしていただく形になっています。ただ、ここは増えてはいるのですが、爆発的にというとそうでもありません。ここは政府を含めて、もうちょっと(訪日外国人の受け入れ推進を)なんとかしてほしいところです(笑)。

浅賀氏 (シェアが高いのは)現地販路の開拓が、ほかのMVNOに比べて、早くできていましたからね。流れとしては、国内の観光名所での販売から、空港、機内といった形でだんだんと(外国人の国へ)近づいていき、現地売りになりましたが、最初にそこを押さえていたのが、今のシェアにつながっているのだと思います。

二宮氏 あとは、カスタマーセンターを多言語でやっているのも大きいかもしれません。

―― 何カ国語ですか。

浅賀氏 英語、中国語、韓国語、タイ語、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語の、合7言語です。

二宮氏 それに伴って、B2Bの多言語翻訳サービスもやっています。今主流なのは端末もセットになった比較的高額のものですが、われわれのサービスは特定の電話番号に電話をかけていたき、フェーストゥフェースで翻訳ができるものになっています。

―― それを、カスタマーセンターでやっているということですか。

二宮氏 そうですね。ゆくゆくは、プリペイドSIMを使っていただいている間は、プラスいくらかで、滞在期間中に通訳を受けられるようなところに発展させていければと思います。

●取材を終えて:MVNEを併用することの課題も

 矢継ぎ早に発表された、U-mobile PREMIUMや日本通信の事業継承は、U-NEXTのマルチMVNE戦略に基づいているという。その背景には、ドコモに対する禁止行為規制の緩和や、HSS/HLR開放が現実味を帯びてきたことがあるようだ。確かにU-NEXTはMVNOの中では大手だが、フルMVNOを目指すようなネットワークに強い企業ではない。NTTコミュニケーションズやIIJなどとは、毛色が異なるMVNOといえるだろう。

 こうした市場環境や自己分析を踏まえ、コンテンツ配信やサービス設計など、自社の得意とする分野に集中しつつ、規制緩和で多様化したMVNEを上手に選択する。これが、U-NEXTの狙いだ。MVNEのマルチ化は、この規模になったからこそ取れる戦略で、他社が簡単にまねできるものではないため、差別化にもなりそうだ。

 ただし、MVNEを複数併用することの課題も残されている。プラン変更の際に、ユーザーがわざわざMNPをしなければならないのは、その1つだ。現状では手数料もかかるため、プラン変更のハードルが非常に高くなっている。また、理屈では分かるが、実際、MVNEの違いでどこまでサービス内容に差が出せるのかも未知数だ。一方で、インタビューからは、第2、第3の策を用意していることもうかがえた。今後発表されるサービスにも、注目しておきたい。

最終更新:9月6日(火)18時6分

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