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【千葉魂】 岩下包むサブローの優しさ フリー打撃で対戦し糧与える

千葉日報オンライン 9/6(火) 11:46配信

 マウンドの先には、大ベテランの姿があった。9月2日のロッテ浦和球場。岩下大輝投手は練習で、実戦復帰に向けた2度目のフリー打撃に登板をした。打席には前日1日に引退を発表したばかりのサブロー外野手が立っていた。全身に震えを感じた。1球1球を丁寧に、かつ思いっきり投げた。

 「サブローさんが引退を表明した直後のタイミングでしたから。だいぶ緊張しました。でも本当にありがたかった。自分のために打席に立ってくださった。こんなことはめったにない。幸せでした」

 マウンドを降りた岩下は恐縮しながら、頭を下げた。少しばかりのアドバイスをもらった。忘れまいと必死に聞いた。

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 岩下は昨年10月に右肘内側側副靭帯(じんたい)再建術を受けた。術後3週間はギプス固定し、入院。6カ月後にシャドーピッチング開始で、9カ月後に通常のピッチングが目標という長いリハビリを続けた。まだ高校を卒業してプロで1シーズンしか経験をしていない若者に突き付けられたあまりに重い現実。それでも必死にリハビリをこなした。石垣島キャンプでは全体練習を横目に、黙々と陸上競技場でトレーニングを続けた。孤独な日々を乗り越えて、ようやく7月にブルペン入りをした。その姿を2軍で調整を続けていた大ベテランは注目していた。投手と野手。接点はほとんどないまま、日々を過ごしたが、ずっと我慢をしながら、懸命に前に進もうとする若者のことが気になっていた。だから、フリー打撃にいつ登板をするかも把握していた。9月1日の引退会見を終えると、ポツリとつぶやいた。「明日は岩下が投げる日やな。浦和に行かないとアカンなあ」。現役生活の最後に、復帰に向けてマウンドに登る若者と対峙(たいじ)することで、その後の彼の人生の少しでも糧になればと思っていた。

 打席では本気で挑んだ。6本の柵越えをした。引っ張るだけではなく、右方向に流し打ちをして、スタンドインさせた。それはプロ生活22年で培った技術だった。マリーンズを誰よりも愛したサブロー。未来のチームを支えることになる後輩たちにも愛を注いだ。「イースタンリーグに7球団あるけど、ウチが一番、いい人材がいると思う。本当にそう思う」と常日頃から口にしていた。注目をしていた一人が岩下だった。だから、実戦復帰を目前に控えたこの時に率先して打席に立った。1362安打、127本塁打、655打点の大打者として対峙し、一流の技というものを見せた。

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 「この経験を生かしたいと思います。これ以上のバッターと対戦することなんてなかなかない。今日は緊張をしたけど、もう誰と対戦をしても緊張をすることはないと思います」

 ストレート、スライダー中心に60球を投げ、マウンドを降りた岩下の表情はなにか手応えをつかんだかのように晴々としていた。今後、どうあるべきかの道しるべを見つけたような顔だった。岩下は近々、ファームで実戦登板をする。そして1軍を目指す競争に、ようやく参戦をする。長いリハビリの日々。遠回りをしていると思ったこともある。だけど、こうやってユニホームを脱ぐ大ベテランと対戦し、その能力を評価された時、なにか明るい希望が沸々と湧いてきた。

 「これまでの日々が遠回りになるか、いい経験となるかはこれからの自分次第だと思います。サブローさんのアドバイスや今日対戦した経験を忘れることなく頑張ります。目指すはマリーンズの誰よりも勝つ投手です。誰よりも勝ってチームに貢献をしたい。一年間、なにもしなかったので、しっかりと皆さんに恩返ししたいです」

 岩下はそう言って、キラキラと光輝く自分のあるべき姿を語った。そんな未来の希望を背負う若者の姿をサブローは目を細めて、見守っていた。その目はあの勝負師だった強い視線から、優しい瞳へと変わっていた。マリーンズの伝統と誇りは確実に次の世代へと引き継がれていく。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

最終更新:9/6(火) 11:46

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