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“キャバ嬢”蒼井優と“失業者”オダギリジョーの、みずみずしい肌触り…映画『オーバー・フェンス』

dmenu映画 9/6(火) 22:30配信

びっくりするほど“ボーイ・ミーツ・ガール”な映画になっていた。山下敦弘監督の新作、『オーバー・フェンス』の話である。もちろん、それは原作(=佐藤泰志)ありき、でのことなのだが、映画化に伴って改変された主人公たちの描写は、いっそうその度合いを色濃く押し出されている、気がした。

男は不意に、女と出会う。いつもながらに缶ビール2本と出来合いの弁当を買って、家路につこうとしたときのこと。見も知らぬ女が“連れ”に向かって、何やら鳥の求愛ダンスを真似してみせているところに出くわす。奇矯な女。男の無為な日常に飛び込んできたココロ動かされる風景。物語の始まる予感――。

オダギリジョーが演じる中年男、白岩は東京で離婚をし、一切合切を捨てて故郷・函館へと戻ってきており、今は職業訓練校に通いながら失業保険で暮らす毎日である。殺風景な淋しい部屋でひとり、缶ビール2本と弁当に口をつける光景は、山下監督の過去の映画でいえば『苦役列車』(12)のやさぐれた主人公・北町貫多のよう。いや! 貫多は孤独でやさぐれてはいても(人としての)欲望でたぎっていた。白岩はもっと世捨てびとのほうに近く、やるせない。そこには“ボーイ感”などない。

蒼井優が扮した、聡(さとし)という変わった名を持つ女もそうだ。キャバクラで働くちょっと人生にくたびれた女で、しかも次第に分かってくるのだが(ワケありな)情緒不安定な体質でもあって、こちらも“ガール感”からは遠い。が、しかし、白岩と聡、オダギリジョーと蒼井優が画面の中で一緒に並ぶと“ボーイ・ミーツ・ガール”な空気があたりに広がる。つまり、もどかしさも含めて二人のぶつかり合いが、とてもみずみずしいのだ。

不遇の作家・佐藤泰志の「函館三部作」の締め括り、さらには『海炭市叙景』(10/熊切和嘉)、『そこのみにて光輝く』(14/呉美保)と、大阪芸大出身の演出家リレーのアンカーを務めた山下監督。ここまで“男と女の映画”に正面切って取り組んだことはなかったのではないか。感情を失っていた男は少しずつ生気を取り戻していき、傷ついた羽根をカラダの奥に折りたたんでいた女はもう一度、空を飛ぼうとする。ある意味、古典的なルックのこの原作に対し、山下監督は衒いなく向き合って、正攻法で挑んだ。横に寄り添っていたのは「函館三部作」の撮影をすべて担当、そして山下監督とは『マイ・バック・ページ』(11)以来のタッグを復活させた名手、近藤龍人のカメラアイ。“ボーイ・ミーツ・ガール”というアングルで捉えれば、二人が組んだ『天然コケッコー』(07)ぐらいみずみずしい肌触りだ。

クセのある職業訓練校の男たち……松田翔太、北村有起哉、松澤匠、満島真之介、鈴木常吉らとの各エピソードがまた確実に、白岩の背景を形づくるエレメントとなって胸に積もってゆく。“佐藤泰志の世界”ではあるからヘヴィな人間関係も描かれるが、『オーバー・フェンス』というタイトルの響きのとおり、「函館三部作」の中では最もアッパーな作品に仕上がった。互いにもがき苦しみつつ「まばゆい光を受けたフェンス」を超えようとする白岩と聡。そのとき、迷子の大人である二人は、“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語を改めてやり直そうとするのである。

『オーバー・フェンス』
9月17日(土)、テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー 蒼井優 松田翔太 北村有起哉 満島真之介 松澤 匠 鈴木常吉 優香
配給:東京テアトル+函館シネマアイリス(北海道地区)
公式サイト:http://overfence-movie.jp/
(C)2016「オーバー・フェンス」製作委員会

文=轟夕起夫/Avanti Press

最終更新:9/6(火) 22:30

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