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昨季は嫌われていたのに、いかにして「名将」になったのか 広島カープの緒方監督

ITmedia ビジネスオンライン 9月8日(木)7時34分配信

 悲願のVが目前となった。プロ野球の広島東洋カープが快調に白星を重ね、25年ぶりのセ・リーグ優勝を果たそうとしている。今季は5月22日にリーグ首位に立って以降、一度もその座を明け渡すことなく独走状態をキープ。全国の鯉党の人たちにとっても、待ちに待った歓喜の瞬間はもうすぐそこだ。

【緒方監督は性格をどのように変えた!?】

 ここまで優勝から遠ざかっていた25年の間、Aクラス入りはわずか5シーズンしかなく、Bクラス止まりだった20シーズンうち屈辱的な最下位に沈んだことも2度あった。長きに渡って暗黒の時代から抜け出せなかったカープが一体なぜ、これほどまでに大きな変貌を遂げたのか。経験豊富なベテランと成長を遂げつつある若手がうまく融合したことは言うまでもないが、実は今季から指揮官に、微妙な変化があった点についても見逃してはいけない。就任2年目の緒方孝市監督のことである。

 正直に言えば、この緒方監督は昨季まで周囲に余り評価されていなかった。特に鯉党の人たちからはかなりウケが悪く、ネット上でも何かと緒方批判が沸き起こっている様子が散見できた。要所の試合をところどころで落とし、采配の面に疑問を投げかけられていたことも叩かれた理由の1つだ。しかしながら、そのベンチワーク以外においても就任1年目の緒方監督は、よくバッシングを浴びせられていた。言い方は悪いが、メディアを通じて発せられる自分のコメントが「独りよがり」で「ぶっきらぼうな性格」がにじみ出てしまっていたのだ。

 昨年のシーズン序盤は試合後、報道陣の取材に応じる際も緒方監督は自分から一方的に話し始めて、質問を一切受け付けずに終わらせてしまうことが多々あった。“独演会方式”を貫けば、記者から手厳しい質問攻めにさいなまれる必要もなく、都合の悪いことを口にせずに済むからだ。

 ただ、さすがにそれで許されるわけがない。一部のネットユーザーの間でも「緒方監督は何でコメントがありきたりでつまらないのか」などと指摘されるようになり、ひいてはメディアからもブーイングが強まり始めたことで、さすがに球団側も指揮官の姿勢を問題視。地元メディアからの強い要望もあって緒方監督はシーズン開幕後しばらくしてから、ようやく質問を受け付けるようになった。

●感情的になって“逆ギレ”することも

 だが、そうは言っても人の性格はそう簡単になかなか変わるものではない。ましてや、緒方監督は指揮官としてのルーキーイヤーで元来の「ぶっきら棒な性格」であることから、そこまでの余裕もなかった。結局、メディアから質問を受けてもはぐらかしてほとんど答えになっていなかったり、挙句の果てにはコメントに窮すると感情的になって“逆ギレ”することも多々見られた。

 そういう流れがあったので、メディアとの関係性は良好と言えない状況が続いていた。だから、ギクシャクしていたメディアの向こう側にいるファンには緒方監督の真意がなかなか伝わりにくい事態を招いてしまい、それで多くの鯉党からも輪をかけて反発を食らう一因となってしまっていたのだ。明らかに、このころは地元のメディアやファンからも「緒方監督で本当に大丈夫なのか」と疑心暗鬼の目が向けられていた。

 そんなムードの中、本拠地マツダスタジアムで迎えた2015年・レギュラーシーズン最終戦。ここで1つの“事件”が起きた。

 10月7日の中日ドラゴンズ戦は勝てばAクラス入りとなり、クライマックスシリーズ(CS)進出を果たせる負けられない一戦だったが、チームは痛恨の黒星を喫してしまった。もちろんCS出場を信じて集まっていたスタンドからは落胆のため息と怒声が複雑な感じで入り混じり、球場内にはなんとも言い難い感じで緊迫した雰囲気が漂っていた。

 それでも、この日はホームゲームの最終戦。たとえ緊迫しようがどんな形で終わろうとも1年間声援を送り続けてくれたファンにあいさつと御礼を口にしなければならない責務が監督にはある。ところが当日、緒方監督は用意されていたマイクの前に立つことはなく、グラウンド上でのあいさつが行われなかったのだ。

 これに対し、ネット上のユーザーたちが怒りを爆発させて噛み付きまくった。「監督が本拠地最終戦であいさつしないなんて前代未聞」「緒方の“ぶっきら棒”がここに極まれり」「カープのダメダメ指揮官は最後まで酷い態度だった」――。中には「緒方監督はCSに行けなかったからファンに野次られ、罵声を浴びまくるのが怖かったんじゃないのか」などと指揮官の意図的な“逃走”を疑う声まであったほどだった。

●“発信力”がアップした理由

 ところが、そんな評判最悪だった緒方監督が今季からガラリと変わった。負の流れは実を言うと「強権発動」によってピタリと止まったのである。昨オフ、広島・松田元オーナーが2016年も緒方体制を引き続き全面バックアップすると強い姿勢で打ち出したからだ。

 カープのドンから「何があってもオマエとは一蓮托生だ。次のシーズンはオレに恥をかかせるな。オマエも少し心を入れ替えなきゃイカンぞ」と直接ゲキを飛ばされたこともあって緒方監督は、自らのやや内向的な性格を思い切って改善しようと決意。試合後のコメントによる“発信力”が今季から急に高まったのは、そのためである。

 「今季の緒方監督は試合で活躍したヒーローを『○○が本当によくがんばってくれた』と当たり前のように激賞し、さらに陰のがんばりを見せた選手についても誉めることを忘れずに自ら触れてしっかりとスポットを当てている。そして負けても『選手は悪くない。オレの責任』と潔い。

 そういう監督のコメントはスマホでチェックできるので、選手たちはいつも食い入るように見ていますよ。誉められれば、誰だって悪い気はしないですからね。『あ、今日はオレのこと言ってくれている』『監督もなかなか、いいこと言ってくれるなあ』などと主力たちもささやき合っていますね。

 今季は鈴木誠也(外野手)のことを『神ってる』と評し、大きな話題を呼んだ。この『神ってる』に関しても選手たちの間で、すっかりブームになっているくらい。監督の試合後の言葉が明らかにチームのムードをよくし、選手たちを乗せている。昨季あれだけ批判されていたのが、ウソのようです」(チーム関係者)

 ちなみに鯉党の間でも、緒方監督のコメントは好評のようだ。ネット上を見てみると「昨季とは明らかに言葉の重みが違う」「まるで名将のようなコメントだ」などと、おおむね絶賛されている。

●“緒方マニュアル”をヒントに

 一時は断崖絶壁に追い込まれてブーイングを浴びせられていた指導者が心を入れ替えれば、周囲の支持率が集まって評価も一変する。そういう成功例を緒方監督は、しっかりと身を持って証明した。

 今や広島カープを再建させた「名将」として持ち上げられている緒方監督にも、実は先に触れたように再三に渡ってダメ出しを受けていた暗い過去があったのだ。世のビジネスパーソンの中にも「どうしたら部下の信頼を得ることができるのだろうか」と悩んでいる人がいると思う。

 そういう方々にはぜひ、この“緒方マニュアル”をヒントにしていただきたい。「どうせオレは嫌われている」「自分には上に立つべき資質はない」などと諦めて投げやりにならず、部下に対する自らのスタンスと接し方を変えれば逆転のチャンスはまだまだ残されているのである。

(臼北信行)

最終更新:9月8日(木)7時34分

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