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「タコ」なのか、柔らかロボを作り出す

EE Times Japan 9/8(木) 12:57配信

■「世界初の試み」

 全ての部分を柔軟な材料で作り上げた自律動作するロボットだ。外部との有線接続もなく、容易に製造できる。ロボットとして世界初の試みだと自負している――米Harvard UniversityのEngineering and Applied Sciencesで、the Charles River Professorを務めるRobert Wood氏のコメントだ。

 Harvard Universityの研究チームが試作したのは、全長数センチのタコ型ロボット「octobot」(図1)。8本の足を備える。

 自律動作するロボットというと、内部にモーターや制御基板、電池を内蔵したものが多い。硬い部品を一切使わない今回の開発品とは対極にある。研究チームは、柔軟なロボットの開発が進むことで、人とロボットの相互作用に革新が生まれると信じている。

 なぜタコ型なのだろうか。タコはロボット研究者にとって魅力的な対象だからだ。力強く、それでいて器用に動く足(腕)を持っている。タコは骨格を持っていないため、非常に柔軟な動作が可能だ。これを再現したい。

■燃料も自己完結する

 octobotは単に柔らかいだけではない。外部の機器と接続していないという点が、特に新しいのだという。

 研究チームはこれまでも、柔構造の本体と流体ネットワークを組み合わせたロボットの試作を進めてきた。ヒドロゲルや電気活性を持つポリマー、粒状の材料、弾性高分子材料などを用いてロボットの体を作り、内部に流体を通す管のネットワークを作り込む。外部から流体を流し込むことで、手や指が伸び、排出することで縮む動作が可能になる。

 これは昔ながらのカエルの玩具と同じ考え方だ。手元のボールを握ることで、ゴムパイプでつながったカエルが跳ねる。

 柔構造の部材だけを用い、内蔵電池や外部電源を利用しないロボットを作る手段はあるのだろうか。これまで、動力源としては単元推進薬(monopropellant)が役立つのではないかという指摘があった。しかし、試作例はない。

 単元推進薬の利点は、例えばガソリンと酸素というように2種類の物質を用いた場合と比べて反応が単純になることだ。1種類の物質が分解することによって動力が得られる。octobotではこの技術を利用した。

 50重量パーセントの過酸化水素(H2O2)水溶液*1)を単元推進薬として採用、微細な白金(Pt)触媒を用いた。触媒によって過酸化水素が水と酸素に分解し、体積が240倍に増加する。この圧力がロボットの動力となる(図2)。

*1) 過酸化水素水を単元推進薬として選んだのは、1g当たり1.44kJという高い化学エネルギー密度を備えているためだという。一般的な電池のエネルギー密度は、1g当たり0.1~0.2kJである。

■水圧を利用して動く動物とは

 Harvard Universityの研究チームはタコから柔構造ロボットのヒントを得た。しかし、流体の圧力を利用して動作しようとするなら、もう1つ参考になる生物がある。ヒトデだ。

 ヒトデやウニ、ナマコは水圧を利用して「歩く」。例えばヒトデは5本の腕を筋肉によって曲げ、運動することができる。しかし、体全体を水平移動する際には、「管足(かんそく)」と呼ばれる内部が海水でみたされた足を用いる(図A-1)。1匹のヒトデには数百本の管足が備わっている。

 管足の寸法は数ミリ単位。ヒトデの体内には血管はないものの、水管系と呼ばれる海水で満たされた半開放系の管が走っている。その管には、スポイトのゴム(ニップル)に似た「瓶嚢(びんのう)」と管足が対になって多数ぶら下がっている。瓶嚢が収縮すると、対になった管足にのみ海水が流れて足が伸びる。管足の先には吸盤が付いており、図のように垂直な面を上ることも可能だ。

 ヒトデの動作は遅い。だがゆっくりと強い力を出すことができ、管足を使って二枚貝の殻をこじ開けることができるほどだ。管足を波のように動かして砂の中に深く潜り、エサを捕まえることもできる。雑食性で生存に必要なエネルギーが少ないため、水深数センチの潮間帯から水深6000mの深海底まで、熱帯から北極の氷に閉ざされた海に至るまで生息域を広げることができた。

 ヒトデにはもう1つoctobotに似た点がある。神経系だ。ヒトデは神経を用いて複数の瓶嚢を連携して動かすことはできるが、脳のような中枢神経系を持たない。

 柔構造ロボットにはヒトデから学ぶことがあるのかもしれない。

■エンベデッド3Dプリント加工を用いた

 研究チームは、octobotの製造技術にも心を砕いた。金属部品をネジや溶接で固定するような手法は使えないからだ。

 採用した製造技術は大きく3つに分かれる。モールド加工とソフトリソグラフィ、エンベデッド3Dプリント(EMB3D)加工だ。モールド加工といっても射出成形ではなく、片側が開放されている型の中に流動材料を流し入れる。

 3つの製造技術はシームレスに結合できるため、ロボットに用いる柔軟な素材を変えたとしても適用できるという。研究チームによれば30種類の設計のoctobotを合計300弱試作できたのは、エンベデッド3Dプリント加工を中心とした製造技術の組み合わせが優れていたからだ。

 試作に必要な工程を順に説明しよう。流動性の材料は全て市販品を利用した*2)。まずは、約1cm角でほぼ直方体の形状をした制御部を、モールド加工とリソグラフィー加工を組み合わせて事前に作り上げておく。制御部は上層と薄い中間層(厚さ35μm)、下層からなる。上層と下層の材料は一般的なエラストマー(PDMS:ポリジメチルシリコーン)だ。中間層には流路を描くようにフォトレジスト加工して、上下層の間に挟み混む。

 制御部と並行して、アセタール樹脂を機械加工し、octobotの形を彫り込んだ型を作っておき、数段階に分けて熱で重合する材料を流し込む。まずは足の部分だ。

 この時点では構造を持たず一様なタコの足だけが形成されて、タコの頭の部分には何も入っていない。次に巨大な頭の一部に先ほどの制御部をはめ込む。型にはピンが形成されているため、位置合わせの精度は高い。制御部の表面にある燃料注入口やガス排出口にはあらかじめポリイミドテープを貼り付けてある。その後、タコの後頭部に相当する部分にモールド加工を施す。この部分は燃料貯蔵タンクになる。この部分は大気圧の半分に相当する50kPaの圧力に耐える。

 ポリイミドテープを外し、揮発性インクを制御部に流し込んで固化を待ち、テープをはがす。これで制御部内部のパイプは確保できた。その後、アセタール樹脂の型全体を熱で重合する材料で満たす。余った材料はスキージー処理で取り除く。

 octobotで独特なのは、次の工程だ。エンベデッド3Dプリント加工である(図3)。揮発性インクを使って、octobotの化学回路を表面下、柔軟材料の内部に描いていく。この時点では制御部を除くoctobotの構成材料には流動性が残っており、シリンジ(注射針)を通じて、揮発性インクでoctobotの内部に回路を作り上げることが可能なのだ。

 シリンジの移動速度を変えることで、回路の太さを自在に制御できる。足には酸素をためて膨らますためのアクチュエーターが必要だ。この部分は太い回路として形成する必要がある。ちょうど鉛筆で四角形を塗りつぶすような操作で形成した(図中左下の工程)。触媒を備えた反応室もエンベデッド3Dプリント加工で形成、白金の微粉末を含んだインクを用いた。反応室と制御部の間は揮発性インクで連結する。

*2) 制御部には英Dow CorningのSylgard 184、揮発性インクには、米Sigma-AldrichのPluronic F127などからなる混合物を、体の大半部分は米Smooth-OnのEcoflex 30などを用いた

 回路を描き終わった後、全体を90℃に保つと、回路以外の母材の樹脂に架橋が生じて柔軟性を保ったまま固化する。

 その後、octobotを型から取り外し、4日間90℃のまま4日間保つ。すると揮発性インクで形成した回路部分が自然に取り除かれる。こうして過酸化水素水溶液や酸素が通じる直径50~数百μmの通路が完成する。この部分の加工は試行錯誤によって確立した手順なのだという。

 型から取り外した時に残っていた余分な部分をレーザーカッターで切り離すと、全工程が完了する。

■エレクトロニクス部品を使わない

 octobotは、エネルギー源としてはもちろん、制御用にもエレクトロニクス部品を使っていない。実は柔構造トランジスタなどの試作が一般に進んでおり、必ずしも今回排除する必要はなかった。だが、octobotは化学的に動力を得ているため、「化学回路」による制御を試みた形だ(図4)。

 試作した化学回路は、エレクトロニクス用語で表現すると2個のトランジスタと2個のキャパシタを用いた非安定マルチバイブレーター(発振器)と等価だ。この発振器はoctobotの柔軟な制御装置に流路として実装されている。

 octobotの管系は大きく4つの部分からなる。液体燃料貯蔵室と燃料調整器(発振器)、触媒を備えた反応室、ガス作動部と排出部だ(図5)。

 液体燃料貯蔵室は2つあり、それぞれ0.5mLの燃料を蓄える。貯蔵室以下の装置も全て2つ備わっており、ピンチ弁を中心とする燃料調整器が2系統の流路を自律制御する。それぞれの系統に足が4本ずつ接続されており、足の互い違いの動きを実現する。

 燃料調整期には毎分40μLの燃料が流れ込み、6.4mLのガスが生成する。従って、計算上は12.5分間動作し続ける計算だ。

 自律制御の内容はこうだ。2系統を図5に従って青系統、赤系統としよう。液体燃料貯蔵室からは青、赤どちらの系統にもほぼ同じ圧力がかかる。圧力は燃料の消費に従い、時間の経過に応じて下がっていく。2つの系統には同じ量の液体燃料が通過するはずだ。ところが、例えば図5のように赤系統の流量がわずかに多いと、赤系統のピンチ弁(図5の下側)が青系統の管を締め付ける形となり、青系統には燃料が流れなくなる。こうして、赤系統以下の4本の足だけが動く。

 時間が経過すると赤系統の燃料の圧力が下がってくる。すると今度は青系統の燃料が流れ始め、赤系統の流量を絞る。こうして、2つの経路の燃料の流量が交互に最大値と最小値に達し、発生ガスの量、足の変位量へと連なっていく。

 なお、燃料の流量やスイッチング周波数は、燃料貯蔵室の圧力と、放出確認バルブ以下のインピーダンスの関数になっている。

■化学マイコン制御が可能に

 octobotの動作はかなり限定的だ。動作も遅い。それでも構わない。なぜなら今回の試作は柔軟な部品だけを用い、外部制御機器や外部電源を使わない自律ロボットが可能であることを示す概念実証だからだという。

 octobotの試作は概念実証にとどまらず、豊かな子孫を生み出す素になると研究チームは示唆している。なぜだろうか。

 今回の研究では発振器による限定的な制御のみを取り入れた。しかし、エレクトロニクスでいう論理ゲートを流体で実現した他の研究チームによる先行研究が複数ある。NANDやNOR、XOR、XNORはもちろん、フリップフロップやゲインバルブを他の研究グループが試作済みだ。

 これらの論理ゲートを組み合わせることで、理論的にはどのような「マイコン制御」も可能になる。例えば高い自由度を備えたアクチュエーターを運動制御することで、飛んだり、泳いだりできるだろう。アクチュエーター自体が備える弾力性を生かした設計も可能だ。人体の四肢が備えるような屈曲と伸展、外転と内転といった運動である。

 最終的には、管系による動作を圧力センサーとして使うという戦略を思い描くこともできるという。真のクローズループフィードバックを備えた制御装置を実現できるということだ。このようにして環境と相互作用できるロボットに至るとした。

最終更新:9/8(木) 12:57

EE Times Japan

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