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FRBが利上げへ向かう本当のわけ

ニュースソクラ 9月8日(木)12時0分配信

決して語らない資産バブル懸念

 8月26日に開催された米国ワイオミング州のジャクソンホールでの恒例のシンポジウムで米連邦準備理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長が講演をした。世界が注目していたのはイエレン議長が昨年12月以来見送られている利上げを年内にも行うと発言するか否かであった。

 イエレン議長はこの中で「フェデラルファンドレートの引き上げの論拠はここ数か月で強まった」と言明している。最重視していた雇用の伸びも過去三か月平均で19万人と堅調に推移しており、6月利上げを見送った一因である5月の雇用指標の弱さが一時的なものであったと振り返っている。

 その後、スタンレー・フィッシャー副議長がテレビ出演して「年2回利上げがあってもおかしくない」と発言してイエレン発言を補強した。昨年12月に初の利上げに踏み切って以来、FRBは狼少年のごとく利上げを示唆しては見送ってきたが、今回は投資家も利上げに備えておかねばならない。

 筆者が今春、FRB関係者と面談した時に印象的だったのは、FRBは雇用情勢の好転と物価の上昇懸念を強く持っていることだった。イエレン議長の今回講演でも「インフレ率が目標の2%を越えない一時的な(transitory)影響として石油価格ならびにドル高に伴う輸入物価高のなごり」を挙げていた。

 当時、面談したFRB関係者も原油下落とドル高がなくなればほぼ完全雇用状態を達成した中で賃金・物価の上昇が迫ってくる、との認識を示していた。バーナンキ前議長が自伝の中で明らかにしていたように、「フットボールのクオーターバックはパスする相手が現在立っている位置にパスするのではなく、走り抜けた位置を目指してパスする」のと同じく、金融政策変更がフルに効いてくる2年後の経済の姿を想定して動くのが中央銀行の使命である。

 米国の実体経済の拡大を持続的にするためにもFRBは9月遅くとも12月には再利上げに踏み切るであろう。

 FRBが表に出していないが、気に懸けていることにリーマンショックの傷が癒えて再び資産価格が高騰していることがある。かつてFRBのタルーロ理事が「低金利の環境が長く続いていることは金融の安定を阻害するリスクがあるか、という問いに対する答えはおそらくイエスである」とスピーチの中で間接的に語りかけた問題である。

 よく知られているようにリーマンショック直後に急落した株式、不動産などの資産価格はその後、金融超緩和が続く中で大きく上昇を続けてきた。ニューヨーク株価は史上最高を更新し、ケース・シラー指数でみた住宅価格も2007年のピークをわずか2%下回るところまで戻している。

 こうした結果、米国の純資産価値はGDPの500%に達した。戦後、この水準を超えたのは1990年代末のITブーム、2000年代の住宅ブームの二回だけである。もちろん、資産価格が高いからといってバブルとは限らないし、金融規制も強化されているので金融機関が破綻する可能性も低下している、と言ってよい。

 しかし、バーナンキ前議長が量的緩和の段階的な縮小をにおわせただけで、新興国も含めた世界の金融・資本市場金融市場で動揺が起きた(いわゆるテーパリング・ショック)ように金融市場のセンチメントは振れやすい。実体経済のインフレなき持続的成長のみならず、資産価格の安定のためにもFRBの意思表示が必要と思われる。

 長期停滞論に火を点けたサマーズ元財務長官は、その解決策として彼自身「政府が大規模なインフラ投資を行い、低成長を脱する、そのためにFRBが国債を購入し続けることを約する」というヘリコプターマネー構想を示した。

 フィッシャー副議長が「生産性の低下のような長期的な問題の解決に金融政策は適していない」と発言、やんわりとかわしていた。つまり、高齢化のような人口動態の変化やかつての鉄道、電気といった技術革新がみられないことが長期停滞の原因とすれば、このような財政・金融政策のポリシー・ミックスは有効ではない、ということだ。

 この点はジャクソンホールでのイエレン議長スピーチでも最後の方で「生産性の引き上げのためには教育水準や職業訓練の向上、公的・民間部門におけるR&D投資の拡大、規制緩和が必要」と指摘しており、フィッシャー副議長に同意を示している。サマーズ氏の考えを退け、金融政策は生産性向上といったサプライサイドには効果がなく、次に金融政策がとるべき道はヘリコプターマネーのような緩和策でなく、利上げとしているわけだ。

 ただ同時にイエレン議長は、「米国の金融政策は名目金利の水準が過去ほど高くない(今後、引き上げても3%程度と1965-2000年の平均7%に達しないとコメント)としても、資産買い入れ、フォワード・ガイダンスなどの政策手段の充実により、仮に景気後退局面が訪れて金融緩和が必要になったとしても十分に対応できる」と危機対応を含む利下げの可能性も忘れず指摘している。

 ただただ利上げに進もうとしているわけではなく、財政政策、構造改革とならび金融政策も引き締め、緩和のどちらの場合でも最大限の経済調整努力をしていくことに言及することも忘れていない。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:9月8日(木)12時0分

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