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夏の映画興行で大番狂わせ 『シン・ゴジラ』が本命『ファインディング・ドリー』を抑えて興収トップへ

オリコン 9月12日(月)8時40分配信

 今年の夏興行は異変ぶりが顕著であった。とともに、予想を裏切らない大ヒットもあった。両者が重なり合いながら、映画の夏が過ぎていった印象が強い。それを大枠、3つの点から指摘してみたい。(1)『シン・ゴジラ』の予想を大幅に上回る大ヒット (2)米映画メガヒット続編の意外な結果 (3)米映画新興アニメの健闘、以上の3点である。(1)(2)が異変で、(3)が想定内。(1)(2)のなかに今年の特徴があるとして、(3)には他作品の異変とも関係があるようにも見え、総体的には異変ぶりのほうが目立つ夏興行であったと言って差し支えない。

【ランキング表】夏休み映画興行ランキングTOP5(興行収入も)

◆夏興行の1位は『シン・ゴジラ』。最終興収75億円超え視野

 『シン・ゴジラ』は、最終で興収75億円超えが視野に入ってきている(9月11日時点での推測)。ランキング表には、さらにその上の数字を提示したが、その手前、70億円を超えてくれば、夏興行のトップになる。75億円超という数字は、今後もある程度の勢いを維持できるとの判断のもと、はじき出した。75億円を突破すれば、動員500万人という線が見えてくる。これまで、500万人を上回ったゴジラ映画は、1950年代から1960年代全盛期の6本しかない。『シン・ゴジラ』は、この意味からも歴史的なゴジラ映画に名を連ねる公算が高くなってきた。

 『シン・ゴジラ』は、原点返りをベースに、ゴジラの出現をめぐる日本の政治情勢や防衛体制の右往左往ぶりを、克明にして細心に、ダイナミックに描いた。ゴジラの神秘性が際立ち、CGで重厚さと巨大さを増したビジュアルには、荘厳さと神々しささえ加味されていた。ゴジラの出現が、まるで日本における軍事衝突や大災害を想定したかのような話の展開と、ゴジラのビジュアル(動きも含め)との総合化のなかに、観客を惹きつける大きな訴求力があったと思う。

 庵野秀明総監督への異様な期待感は、まさに映画の“現物”の只中で大きく叶えられ、それが様々なツールを通して広範囲に伝播し、落ちの非常に少ない興行展開に現れた。ここが、とにかく重要な点だ。若者から年配者まで幅広い男性層中心に集客できたのは、まさに作品にさきのような強大な力があったからである。ファミリー層や女性層への訴求性が男性ほどではなかったのは、これもまた中身の特異性が大きいだろう。『シン・ゴジラ』は、女性層中心になりがちなヒット傾向にも、楔を打ち付けた点も見逃せない。

◆『シン・ゴジラ』と『君の名は。』大ヒットの根底にある共通点

 この予想を覆す興行の根底に、SNSを中心にしたネット情報の拡散があると思う。これは、製作・配給元の東宝の関係者も強く指摘している。そもそも、『エヴァンゲリオン』の庵野秀明総監督の諸作(本人も含め)は、ネットとの親和性が非常に強いのだ。これは、8月26日からの公開なので夏興行には入れなかったが、100億円超えが確実な『君の名は。』の興行とも共通する点が多い。

 実にこの2作品は、興行の初発の段階で火がつくや否や、その後の展開に爆発的な威力が加味されたことで、同じ情報拡散の根をもっているのだ。これは、映画ヒットのメカニズムの大激変であり、逆にいえば、中身の伴わない作品はテレビスポットなどでいくらうわべの宣伝をしても、人々に強く届かない時代になってきたことを示す。いわば、徹底して中身が問われる時代がやって来た。

 もちろん、メカニズムの変化や中身の重要性は、今に始まったわけではない。ネット情報は、すでに当たり前のように人々の周りに、あるいは人々とともにうるさいくらい日々まとわりついている。こうした状態になってから、けっこうな歳月が経つ。だから注目すべきは、人々が慣れ親しんでいるネットの情報ツールと極めて親和性のある作品が、この期に至って、立て続けに登場したことのほうだろう。いわば、『シン・ゴジラ』と『君の名は。』の価値は、ネットの情報回路の巨大空間のただなかで“発見”され、膨大なエネルギーで押し上げられたことに特異な形がある。映画興行には、昔から“口コミ”という言い回しがあるが、これは全く形を変えた現代流の“口コミ”のなせる業ではなかったか。

◆前作が100億円を超えていたハリウッド続編3作品の苦戦

 ここから、(2)の部分に移るが、前作が100億円を超えた3作品のそれぞれの続編が、実に意外な結果をもらたしたのである。『ファインディング・ドリー』(夏興行2位:興収68~69億円)『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(5位:27億8000万円)に『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(6位:26億5000万円)が、すべて前作から成績を下げた。とくに後者の2作品は、前作の30%を切ったほどだ。2作品の大幅ダウンのなかに、一つひとつヒットのスケールを小さくしている米映画の厳しい現状が見えてくる。

 2作品の前作はそれぞれ、3D映像、CG映像の持ち味が大きな関心を呼んで、100億円を超えた。ただその魅力にみえた部分が、今ではそれほどではなくなっている。その魅力、持ち味に、日本人が飽きてきたからだと思う。映像の革命、物量の誇示は、かつてとは異なった中身をもつ作品であれば、効果を発揮することもあろうが、今回のような“踏襲”では、人々を率先して動かすことが難しくなったのである。

 それでも、『ドリー』がかろうじて前作の約75%をキープしたのは立派だった。いつもながら、ピクサー=ディズニーのブランド性は健在であり、ここでは数少ない米映画のヒットの踏襲ができている。ただ、その理由としては、中身がアニメ(CG)である点が極めて大きいと、改めて思わざるをえない。極端に言ってしまえば、アニメが今、米映画と日本人をギリギリつなぎとめているかのような印象さえもつ。

◆日本アニメでは『ONE PIECE FILM GOLD』が3位の健闘

 この認識が、(3)につながってくる。CGアニメ『ペット』(4位:43~48億円)の健闘である。昨年夏に『ミニオンズ』を大ヒットさせた製作会社イルミネーションによる新作で、45億円あたりがひとつのめどになりそうだ。すでに『ミニオンズ』の実績があるので、この成績は意外ではない。『ペット』は、ファミリー層と若い男女に人気が高く、ピクサー作品と似た客層に強みがある。人間たちから切り離されて、ニューヨークの街を冒険するペットの世界がスリリングに描かれ、各キャラクター造型も申し分がなく、実に楽しく観られる。アニメだと、日本の観客は安心しきって観ているのだ。

 ただ、米映画のアニメの根強い人気は、『ジャングル・ブック』(7位:24億円)のような良作を、あまり目立たないようにしてしまっているのが気になった。これが冒頭で言った他作品への影響、つまり異変のことである。CGのリアル映像が、アニメのキャラクター人気に後塵を拝しているのだ。『ジャングル・ブック』のようなファミリー向きのディズニー作品にまで、アニメ偏重の嗜好性が、色濃く反映されるようになってきたことに危惧をもつ。この異変を見ずして、今年の夏興行は語れないと思う。

 日本のアニメでは、『ONE PIECE FILM GOLD』がトップに立った(夏興行全体では3位:52億円)。見事な活劇に感動したのだが、ただ惜しいかな、客層の幅が従来のファンからはみ出していかない。宣伝面への注文になるかもしれないが、次回作では、新たな戦略を生み出してほしいと切にお願いする。認知度抜群の日本アニメにしても、本当にボヤボヤしていられない時代なのである。(※興収は9月11日時点での推定)
文:映画ジャーナリスト・大高宏雄

最終更新:9月12日(月)17時59分

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