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「たばこ白書」受動喫煙の肺がんリスク強調、「屋内全面禁煙」はなぜ進まないのか?

弁護士ドットコム 9/9(金) 10:45配信

他人のたばこの煙を吸いこむ「受動喫煙」によって、肺がんのリスクが確実に高まる−−。厚生労働省の有識者会合は8月31日、このような内容を盛り込んだ報告書をまとめた。いわゆる「たばこ白書」と呼ばれる報告書で、公共施設のほか、飲食店など室内の全面禁煙も提言している。

厚労省によると、受動喫煙が原因で亡くなる人は、国内で年間約1万5千人と推計されている。たばこ白書は、日本における受動喫煙の防止対策は「世界最低レベル」とする世界保健機関(WHO)の判定にふれながら、肺がんだけでなく脳卒中などについても、因果関係を推定するのに科学的証拠が十分であるレベルだと判定している。

厚労省は、不特定多数が利用する施設での「屋内全面禁煙」も視野に入れた法整備を検討している。喫煙者のほか、飲食店などによる反発も予想されるが、はたして「屋内全面禁煙」を法制化すべきだろうか。受動喫煙に関する係争をあつかう岡本光樹弁護士に聞いた。

●「罰則のある法規制を導入すべきだ」

「飲食店などでの『屋内全面禁煙』を法律で義務化すべきだと考えます。

今回の『たばこ白書』も、『わが国でも喫煙室を設置することなく屋内を100%禁煙化を目指すべきである』と提言しています。

日本を含め168カ国以上が『たばこ規制枠組条約』(略称FCTC)に加盟し、そのガイドラインも屋内全面禁煙の法制化を勧告していますし、白書によると49カ国以上で屋内を全面禁煙とする罰則のある法規制が施行されています。

わが国では、いまだに多くの労働者や施設利用者が、職場や飲食店での受動喫煙にさらされ、苦痛や健康被害を受けています。早急に是正されるべきです。

そして、規制には罰則が必要です。わが国では、健康増進法と労働安全衛生法で、受動喫煙防止の努力義務が規定されていますが、今後、受動喫煙対策を前進させるには、より実効性のある罰則規定が不可欠になると考えます。

●日本で進まない理由とは?

「意識調査では、過半数以上の人々が、法律や条令による屋内全面禁煙の義務付けに賛成しており、反対を上回っています。それにもかかわらず、法制化が進まないのは、政治家と『たばこ利権』と財務省の問題が大きいといえます。

政治家は、タバコ業界からの政治献金にとらわれず、国民の健康被害や世論に目を向けていただきたいです」

●「喫煙室の設置を許容するのであれば、基準を厳格にすべき」

「法制化に際しては、ほかにも、(1)分煙・喫煙室設置の問題点、(2)小規模飲食店の問題、(3)飲食店産業への経済影響、(4)路上喫煙禁止条例との関係、(5)加熱式タバコ、などが議論されると考えられます。

(1)については、漏れや清掃・接客時の受動喫煙問題が、白書でも指摘されています。

もし、喫煙室の設置を許容するのであれば、イタリア、フランス、フィンランドのように厳格な設置基準を課すべきです。私の意見としては、厳格な許可制を設けて、煙が漏れる場合は不許可にすべきだと思います。また、行政が補助金を出すことにも反対です。

(2)については、神奈川県と兵庫県には受動喫煙防止条例がありますが、100平方メートル以下の小規模飲食店は罰則の対象外とされています。しかし、これはナンセンスで、むしろ狭い店舗こそ、受動喫煙防止の必要性が高いといえます。

(3)全面禁煙の法制化が、飲食店産業にマイナスの経済影響を与えるのではないかという反対意見が主張されることがあります。しかし、広域的な法制による経済への悪影響は認められず、白書でも『減収なし』と報告されています。

なお、個別的に見れば、喫煙客に依存した経営をおこなっている一部の喫茶店やバーなどでは、経営努力をしなければ売上は下がるかもしれません。しかし、健康犠牲を前提とした経営は『公共の福祉』に反していると思います。神奈川県条例のように、会員制の店舗などを許可制の対象とする方法もありますが、リスクの低減化や労働者への配慮など諸々の条件を付けるべきです。

(4)日本は海外と異なり、路上など屋外で喫煙規制が先に進んだことで、屋内で喫煙する自由を主張する声も聞かれます。しかし、屋内と屋外とは規制目的が異なるので、『他者危害』である屋内の受動喫煙を防止すべきという立法目的を減じることにはなりません。

もし例外的に、先ほど述べた許可制を導入する場合も、そこで働く人が受動喫煙から守られる措置がとられるべきです。

(5)最近、非燃焼の加熱式タバコが、受動喫煙の有害性を減らした商品として、急速に普及しつつあるようです。これに対して、神奈川県は条例改正で、兵庫県は解釈によって、加熱式タバコも受動喫煙防止条例の規制対象としています。今後の法制化においても、加熱式タバコの位置づけを施設類型に応じて明確化する必要があります」

【取材協力弁護士】
岡本 光樹(おかもと・こうき)弁護士
1982年岡山県生まれ。05年東大法卒、06年弁護士登録。国内最大手の法律事務所などを経て、11年に独立。企業法務や労働案件、受動喫煙に関する係争・訴訟、家事事件などを幅広く扱う。第二東京弁護士会で人権擁護委・副委員長や受動喫煙防止部会長などを務める。
事務所名:岡本総合法律事務所
事務所URL:http://okamoto.2-d.jp/akiba.html

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:9/9(金) 11:22

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北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。