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【英EU離脱】投票から2カ月余り 英国はどう変わった?

BBC News 9月9日(金)13時28分配信

欧州連合(EU)を決めた6月23日の英国民投票から2カ月余り。ブレグジット(英国のEU離脱)への道が実際にどうなるのか、まだはっきりしていない。実際に投票後に英国内の様子がどう変わったのか、最新状況をいくつか紹介する。

経済

もし英国がEU離脱を決めれば、ただちに景気と消費者心理に影響が出ると、国民投票前には多くのエコノミストが予測していた。しかし今のところ、数字で実証されていない。

今後の事業展開について企業は慎重に計画しているのかもしれないが、買い物が大好きな国民として、私たち英国人は落ち着いて、お金を使い続けているようだ。注目の英製造業購買担当者景気指数(PMI)によると、英国のサービス部門は8月に記録的な前月比の成長を遂げた。サービス部門には、金融サービスから飲食業や小売業に至る様々な業種が含まれ、英国経済の約8割に相当する。

8月には英国の消費者信頼感も、ブレグジット投票以前の水準には達しないながらも、改善をみせた。この信頼感の改善は、支出傾向に反映されている。英国の消費者は7月、クレジットカードを1億6800万回使った。これは6月単月や、過去6カ月平均よりも多い。

消費者はモノを買い続けているというこの傾向は、英国の小売売上高からもみてとれる。売り上げは全般的に3年前から増え続けており、7月には気温上昇とポンド安に後押しされた結果、前年同期比で5.9%増だった。

確かに7月には、ドル高による燃料費高騰を主要因として消費者物価指数が0.6%に上昇し、インフレ率も上がっているが、国家統計局は、国民投票による「あからさまな影響はない」と判断している。

最新PMIによると、英製造部門は8月に大幅に回復。製造業の成長を裏付けるように、国家統計局によると4月から7月にかけて英国の工業生産高は17年来最速のペースで成長した。

英国外に目を転じると、ブレグジットの投票結果による衝撃が取り沙汰されたものの、実際にはユーロ圏経済は成長を続けている。マークイット社によると、ユーロ圏の経済活動は8月の時点で過去7カ月来のピークに達した。

新首相

EU残留を推進したデイビッド・キャメロン氏は、国民投票の翌日に首相辞任を発表した。保守党代表選はアンドレア・レッドソム氏の撤退で予想外に短期間で終わり、テリーザ・メイ氏が新首相となった。EU離脱運動を主導したボリス・ジョンソン氏は、共にEU離脱を推進したマイケル・ゴーブ氏によって代表への道を阻まれたものの、メイ氏によって外相に任命された。

メイ新首相の内閣には、ブレグジット担当相のデイビッド・デイビス氏と、リアム・フォックス国際貿易担当相もいる。デイビス、フォックス、ジョンソン各氏は全員、ブレグジットを推進し、そのための役割を担っているが、互いの権限の範囲をめぐって衝突したと伝えられている。

金利

国民投票以降、イングランド銀行(中央銀行)は景気活性化のために、いくつか施策を実施している。まず、政策金利を0.5%から0.25%へと、記録的な水準まで引き下げた。英国の金利引き下げは2009年以来初めて。

イングランド銀行はさらに、量的緩和枠を700億ポンド拡大すると発表。また、低金利資金を一般家庭や企業に提供するため、1000億ポンドを金融機関に政策金利に近い金利で貸し付ける計画を発表した。

利下げの影響のひとつとして、債券利回り低下による年金収支の赤字拡大がある。利回りが下がると、年金基金の投資収益が減るためだ。

通貨

国民投票の翌日、6月24日に、ポンドは劇的に急落した。それ以来、景気やEU関係の展望の不透明感ゆえにかなりの低水準で推移しており、8月15日には1ポンド=1.2869ドルと3年来の最安値を付けた。

イングランド銀行による利下げや景気浮揚策によって、ポンド安は続き、現在は1ポンド=1.33ドル前後で推移している。1年前の1.57ドルから15%減だ。ユーロに対しては1ポンド=1.19ユーロほどで、前年の1.35ユーロから12%下がっている。

ポンド安の直接的な影響として、イギリス人観光客にとって海外旅行が割高になった。製造業者にとって部品の輸入コストも増えた。

一方で、ポンド安のおかげで海外からの旅行者はイギリスを訪れやすくなり、イギリス国内の観光業はポンド安の恩恵をこうむっている。旅行業界用のデータ・サービス「ForwardKeys」によると、英国行きフライトの予約は国民投票以降、7.1%増えたという。

中国からの欧州旅行を専門とするツアー会社「カイッサ・ツーリスティック」によると、今年夏の英国旅行の問い合わせや予約は昨年同期比2割増だという。アイルランドの格安航空会社ライアンエアーは、海外からロンドンやマンチェスター、リバプール、リーズ、スコットランドの各都市を訪れる旅行者が増えていると言う。

交渉

メイ首相はすでに、アンゲラ・メルケル独首相やフランソワ・オランド仏大統領など複数のEU加盟国首脳と会談しているが、英国のEU離脱期日と、今後の英・EU関係をめぐる正式交渉はまだ始まっていない。EU幹部たちは、交渉を始める前には、2年の期限付き離脱手続きをスタートさせるリスボン条約第50条の発動が必要だという立場だ。

英政府はまだ、離脱交渉で何を目指すのか詳細は明らかにしていない。自由貿易と移民削減をどう均衡させるかについて、政権幹部の間でも意見が食い違っているとの報道もある。メイ首相は、早くても2017年初めより先に第50条を発動させることはないと表明している。

ヘイト・クライム(憎悪犯罪)

6月23日の国民投票以降、ヘイト・クライム(憎悪犯罪)の件数は明確に急増している。警察によると、国民投票直後の4日間で、通報されたヘイト・クライムの数は57%も増えた。

全国警察署長委員会(NPCC)公表の修正データによると、イングランド、ウェールズ、北アイルランドの各地で6月16日~30日の間に通報された憎悪犯罪や憎悪による事案は、合計3219件で、前年同期比37%増だった。

さらに7月1日~14日の憎悪犯罪および事案は、3235件。直前の2週間からは0.5%増だったが、前年同期に対しては29%増えていた。7月15日~28日の件数は3236件で、直近2週間とほぼ同数だが、前年同期比では4割増だった。

一方で、スコットランド警察によると、スコットランドでのヘイト・クライム通報件数は特に増えていないという。

受理件数が急増したのは、通報される件数が急増したからなのか、実際の事件が急増したからなのか、正確に把握するのは不可能だ。ほとんどのヘイト・クライムは通常、通報されずに終わる。

政府はイングランドとウェールズのヘイトクライム対策を強化する方針を示しており、警察の取り組みも見直し対象となる。

住宅価格

住宅購入については、ブレグジットについて消費者心理が冷めてしまったと示すデータがいくつかある。

英住宅金融大手「ネーションワイド」によると、8月には住宅価格が前年比5.6%増とわずかに上向いたが、これはおそらく購入希望者の数が減っているだけでなく、売却希望者も減っているからと思われる。

売りに出されている家の数は30年来の低水準にある。そのため、住宅価格の上昇はもっぱら落ち着いている。銀行や住宅金融公庫が承認する住宅ローンの7月の件数が、1年半の間で最低だったというイングランド銀行の統計も、この傾向を裏付けている。

英住宅金融貸付組合(CML)とは対照的なデータだが、より長期的な将来を見ているイングランド銀行の数字の方が、現在の不動産市況を正確に示しているのかもしれない。

今後の展望では、英国の住宅価格は市場が一息つく間、短期的に下がり続けた後、また上がり始めるとみられている。不動産鑑定士の英国王立チャータード・サベイヤーズ協会による上の表では、今後3カ月は価格下落が続き、その後の12カ月間でまた上昇するという回答者の期待感が表れている。

商用物件については、展望はもっとはっきりしている。商用物件専門業者のCBREによると、ロンドンのオフィス物件に対する需要は、国民投票前の一時下落からすでに回復した。首都の企業が使用する面積は、7月時点で前月比24%増の100万平方フィート(約9万3000平米)近くに達している。

移民

英国を訪れる人数に関する統計はいずれも、ブレグジット投票前のものだ。最低1年間英国に入国する人数から出国人数を引いた今年3月までの年間純移動数は、32万7000人と記録的水準に達した。しかしこれは前年比で微減しただけだった。

ポーランドのほか東欧7カ国から英国に移民し定住する人数は減少しつつあるが、ブルガリアとルーマニアからの純移動数は6万人と過去最高だった。

貿易

英国家統計局(ONS)のデータによると、国民投票以降のポンド下落によって、製造業者の輸入コストは増大している。製造業者の6月の投入物価格は前年比0.5%減だったのに対し、7月は同4.3%増だった。最も顕著に値上がりしたのは、輸入食品と金属だった。

英国は長いこと貿易赤字状態、つまり入超状態にある。

下表を見ると、英国はサービス部門では輸入より輸出が多いのが分かるが、モノの貿易赤字を相殺するほどには至っていない。

国民投票のあった6月、英国の貿易赤字は輸入拡大によって51億ポンドに増えた。

ポンド安がさらに進めば、輸出産業の製品価格が海外で下がるため、貿易赤字は減るかもしれない。しかし輸入品や原材料価格が上昇するため、英国内のインフレ圧力が高まる可能性もある。

建設

英国の建設業界は6月のブレグジット投票の直前から縮小が始まっていたが、8月には回復したもようだ。最新の建設業購買担当者景気指数は7月の45.9から9月には49.2に上昇した。ただし拡大・縮小の分岐点50は下回っている。

統計によると、将来の不透明感ゆえに8月の建設業界にはブレーキがかかっていた様子で、特に住宅建設ではその傾向が顕著だった。しかし複数の企業が、売り上げは予想よりも堅調だったと答えている。

原材料の急騰という結果も重要だ。投入物価格は2011年7月以来、最速ペースで高騰している。

アスファルトやセメント製造業の業界団体「英鉱物生産協会」によると、国民投票の3カ月前には好況を示していたが、拡大分は今後18カ月でゼロに戻る見通しだという。

雇用

英国の完全失業率は国民投票に向けて4月から6月にかけて減少した。失業者は5万2000人減の164万人になり、失業率は4.6%となった。しかし投票後の状況についての統計がまだ揃っていないため、雇用市場への影響について結論を出すことがまだできない。

英求人雇用連盟(REC)の調査によると、雇用市場は7月に劇的に停滞し、新しい正規雇用の件数は2009年5月以来最も急激に減少した。回答者の多くが、ブレグジット(英国のEU離脱)による将来への不安を理由に挙げている。短期採用を増やす企業が増える傾向にあるという。

個々の企業についてとなると、状況はまちまちだ。

世界最大のセキュリティー会社G4Sは、英国の労働人口と経済成長が縮小しかねないと警告している。英国有数の金融機関ロイズは、3000人を解雇するなど、(決定は国民投票以前だったとしながらも)人員削減を加速化させている。

一方で日本のソフトバンクは、英国の半導体設計大手ARMを240億ポンド(約3兆3500億円)で買収し、従業員の数を5年で倍増させると発表。製薬会社グラクソスミスクラインは英国内に2億7500万ポンド(約385億円)に投資する方針で、マクドナルドは5000人を新規採用する予定だという。

(英語記事 Brexit Britain: What has actually happened so far? )

(c) BBC News

最終更新:9月9日(金)13時28分

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