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「モレスキン」世界で愛されるノート 心の離れたファンを取り戻したブランドの「物語」

ZUU online 9/10(土) 11:40配信

1997年創業の会社ながら世界で年間1000万部を超える売り上げを誇る「モレスキン」。「そんなすごいノートなのか」と思って実物を見ると拍子抜けするかもしれない。長方形でオイルクロスの硬く分厚いカバー、クリーム色の紙、ページを留める黒いゴムバンド、四隅の角は丸く、裏表紙にはモノをはさむポケットがあるが、あまり普通のノートと変わらない。

しかし定価を見ると目を疑うかもしれない。種類によっては一冊2000円~3000円などはざらだからだ。なぜそこまで高いノートが売れているのかというと、その歴史によるところが大きい。

■ゴッホ、ピカソ、ヘミングウェーらが愛したノートを復刻

モレスキンノートはイタリアのmodo&modo社から、「パリで販売されていた伝説のモレスキンノートを復刻した」という触れ込みで発売された。

何が伝説かいうと、大勢の著名人がこよなく愛しながら市場から消えた幻の逸品という話である。愛好者とされる人物はゴッホ、ピカソ、マチス、オスカー・ワイルド、ヘミングウェーなどそうそうたる面々だ。さらに紀行作家ブルース・チャトウィンが「パスポートはなくしてもこのノートはなくせない」と熱烈に推奨したために有名になったという。

オリジナルは19世紀後半に作られ始め、1986年には生産を終了。しばらくは入手できなかったが、97年にモレスキン社が誕生、98年に復刻されて再発されている。

■ファンにとっては一大事の「メード・イン・チャイナ」表記

2006年にmodo&modoがSGCapital Europe(現Syntegra Capital)に買収され、社名が「モレスキン社」に変更された。そのとき、ある小さな変化がノートにもたらされた。

「manufactured in China」と表示されたのである。これはファンの間では一大事件だった。世界中から「利益目当てに質を落とした」と批判を浴びたのだ。

紙がざらざらになった、インクがにじむ、カバーから異臭がする、使い心地が悪くなった--真偽のほどはともかく、こうした失望の声が相次ぎ「もう使うのをやめた」という人も出た。元の「イタリア製」モレスキンを買い占めたり、ネットオークションで探し求める人もいた。

しかしこうした騒ぎの一方で、今までと比べてそんなに悪くない、普通に使ってるという層も少なからずいた。

どちらかというと激しく反発した人には「熱心な愛好者」が多かった。モレスキンに惚れ込み、崇拝に近い感情を持つ人たちだ。

別にモレスキン社はものづくりへのこだわりを捨てたわけではない。創業以来製品コンセプトはイタリア本社が行っていたが、元から製造拠点は海外が多く特にアジア地域が占めていた。このときも、単に「中国製」と明示しただけだったのである。

つまり「さすがイタリア製の上質ノート」と愛していた人たちのモレスキンも、大半は非イタリア製だったのだ(本社によれば現在一番生産拠点があるのは中国とベトナム)。

■実用性だけでここまでの売れた訳ではない

原版のノートが支持された理由として、実用性があるのは間違いないだろう。その手のノートの中で堅牢で使いやすいモレスキン型は、需要ある少数にぴったりだったのではないか。旅行カバンの中でも運べる。

画家が画材と一緒に持ち運び、気に入った景色を素描したりアイデアを記すのにも使いやすかったはずだ。「立ったまますぐメモしやすい」という利点で、硬い表紙のメモ帳を愛用する新聞記者などは少なくないようだ。

しかしノートを販売していた製本業者は家族経営レベルの小さな会社だったとされる。小さいながら良心的な製品を作っていたという所だろうが、なぜ再販版はここまで世界的ベストセラーになったかというと、別の要素が理由といえそうだ。

■「物語」のアピールで愛好者を増やす

mod&mod社は復刻にあたって「製品には“物語”が重要」として宣伝も重視した。小冊子をはさんでいかに過去の著名人に愛されてきたかをアピールし、各地の図書館に「伝説の品を復刻させるまでの物語」の記録とともに寄贈して展示した。

有名人のモレスキンを賞賛を引用したり「ありふれた大量生産ノートとは違う」とイメージを醸成したりして、会社としても、ものづくりにこだわる姿勢を示した。

結果「高品質で何か神秘的な素晴らしさがあるかのようなノート」となり、それに影響された人々が愛用しだした。信者のように自分から「ノートの素晴らしさ」を探し出す人が出たのだ。

中国製で激しい拒否反応になったのはこうした「イメージ」を傷つけるものだったからだ。当時の中国像はまだそれに対応できていなかった。

急激な産業化の歪みに対応できず、環境破壊、劣悪な労働環境、コピー・粗悪品というイメージを世界に与えてしまっていたからだ。

逆に「イタリアの職人の精魂込めた手作り」が通用したのは長年イタリアが培ってきた文化的なイメージのおかげだろう。

■ブランドが大切にするもの

ロールスロイスは「金銭的な価値は消えても質は永遠に残る」として当時としては異例なぐらい堅牢性やスピード、デザイン性を備えた作りにこだわった。

シャネルは装飾過剰なドレスの中で近代女性にふさわしい機能的でありつつシックな服装をもたらし革命を起こした。

「最初は」それだけ納得できる「質」がブランドにもあったのだ。

しかし今日では競合作品は豊富で技術革新も激しい。有名ブランドにかつてと同じ質の優位があるかは分からない。

しかし現在でも消費者は、確立されたブランドの好ましいイメージに強くとらわれ続けている。ぜいたくな消費は「物を買ってるのではなく経験を買っている」という言葉もある。これはモレスキンの支持者にも当てはまるといえそうだ。(ZUU online 編集部)

最終更新:9/10(土) 11:40

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