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「朝鮮人虐殺」記述なし 中学生向け副読本原案横浜市

カナロコ by 神奈川新聞 9月10日(土)13時40分配信

 横浜市教育委員会が新たに作成中の中学生用副読本の原案に、関東大震災における朝鮮人虐殺に関する記述がないことが分かった。市教委は「(朝鮮人虐殺の記述を)入れるか否かは検討中」と説明するが、これまでの副読本ではデマを信じた軍隊・警察や自警団に朝鮮人が虐殺・殺害された史実が記載されてきた。市民団体は「このままでは教訓を学ぶ機会が奪われる」と歴史教育の後退を懸念する声が上がっている。

 年内の配布を目指している副読本「Yokohama Express」の作成は市教委指導主事が担当。横浜の歴史を学ぶページは5月下旬に原案がまとまり、関東大震災に関しては市街地がほぼ壊滅し、がれきを埋め立てて山下公園ができたことが説明されているだけで、朝鮮人虐殺には触れていない。

 情報公開請求で原案を入手した市民団体「歴史を学ぶ市民の会・神奈川」(北宏一朗代表)の後藤周さんは「横浜こそは虐殺の現場。多くの外国人が暮らすこの街で過ちを繰り返さないためには歴史的事実から学ぶ必要がある」と指摘。同会の佐藤満喜子さんも「東日本大震災では地震が来たらまず逃げよとの伝承が多くの命を救った。歴史を知らなければデマに踊らされる人が出て、犠牲を生む。防災教育としても虐殺の史実を教えるべきだ」と話す。

 市教委の三宅一彦指導企画課長によると原案は「あくまでたたき台」といい、文面は9月下旬に確定させるという。三宅課長は「個人的には人権と防災の視点から(朝鮮人虐殺の記述を)入れるべきだと思っている」と話している。

◆歴史教育後退を懸念
 歴史教育の後退が懸念される背景には2015年まで使われてきた副読本「わかるヨコハマ」を巡る市教委の対応がある。朝鮮人虐殺の記述に対する保守系市議の筋違いな批判と要求を受け入れてきたからだ。

 12年に横山正人市議(自民)により軍隊・警察の虐殺への関与と「虐殺」という記述に疑義が差し挟まれた結果、副読本の回収、軍隊・警察の関与を記した文章の削除、「虐殺」から「殺害」への書き換えという対応を市教委はとってきた。元中学校教諭でもある後藤周さんは「従来の記述は多くの歴史教科書で当たり前に見られるものなのに」と首をひねる。

 14年には小幡正雄市議(ヨコハマ会)がわかるヨコハマの活用度を問題視し、グローバル人材育成をうたう「Yokohama Express」に刷新することになった。原案では横浜の歴史に関するページ自体が大幅に圧縮されている。

 懸念は、この日要望書を提出した歴史学者からも表明された。田中正敬・専修大教授は「人災の部分を切り離せば関東大震災の歴史的事実を説明できなくなる。議会で問題にされる傾向こそは学問や教育が政治的影響を受けている表れではないか」。山田昭次・立教大名誉教授も「国は国家責任から逃れるため震災直後から虐殺の事実を否定しようとしてきた」と政治権力による歴史否定の原点を指摘した。

最終更新:9月10日(土)13時40分

カナロコ by 神奈川新聞