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【インタビュー・後編】グランドマスター・フラッシュが「ゲットダウン」に託した“メッセージ”

cinemacafe.net 9月11日(日)21時0分配信

今回のインタビューを通して強烈に感じたのは、ヒップホップの立役者でもあるフラッシュが抱く、若い世代へこの物語を伝えなくてはいけないという確固たる使命感だった。「俺たちにとってこのことが何のプラスになるか? それは彼ら(ジェイデンとシャメイク)のような若者だよ。俺が思うに、俺やネルソンの年代の者たちだけがこの作品を作っていたら、限界があったんだと思う。でもこの若者たちが、このような驚くべき方法で作品を作ったから、視点を拡大することができたんだろう」。フラッシュは、ジェイデン、シャメイクの方へ身体をぐっと傾けて問いかける。「ところで、この作品のパイプとなる役を担っている君たちは、自分の演じている役についてどう思うんだ?」。

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ジェイデンが演じるエゼキエルの親友ディジーは、主人公たち“ゲット・ダウン・ブラザーズ”の中でも独特な雰囲気を持つキャラクターだ。主人公のグループとは別に、スプレー缶を持ち歩き、グラフィティライターとして活動するディジーは、アフロヘアにリメイクのデニムジャケットという出で立ちで、いかにもアーティストといった風格。これまで『幸せのちから』における子役から、『ベスト・キッド』におけるカンフー、『アフターアース』におけるSFアクションなど、様々な作品に出演してきたジェイデンだが、音楽やファッションといった様々なフィールドで活躍する彼にとって、本作の役は最も彼らしいキャラクターなのではないだろうか。フラッシュの問いかけに対してジェイデンが答える。「世界中の若者たちにとって、この作品を見ることはものすごく重要だと思うよ。みんな、グランドマスター・フラッシュがいなければドレイク(※1986年生まれのトロントのラッパー)も存在しないということを知らない。若者たちは現代の音楽に熱中しているけれど、それがどこから来たのか、起源を知る必要があるんだ。そうすれば理解が深まり、もっとありがたみがわかるようになるから。この作品は若者たちにそういったことを教えてくれるはず。それにもっと上の年代の人たちで、この物語を知っている人たちにとっても、生き生きとした映像で見ることによってもっとよく理解できるのではないかと思うよ。この作品は音楽のありがたみを得られるための情報を与えてくれる。全てのジャンルの音楽に対してね」。

続いて話し始めるのは、そこにいたもうひとりの若者、シャメイク・ムーアだ。今年になって日本公開された彼の主演映画『DOPE/ドープ!!』では、90年代のラップに夢中な若者という役柄を、本作のワイルドなキャラクターとは真逆と言えるナードな佇まいで演じている。リラックスした穏やかな口調で、シャメイクは話し始める。「まさにこの作品を見たときに、これは若者たちにとっては教育になると思ったよ。若者だけではなく、観るもの全てが学ぶものがあると思う。何も知らない人にとって、まるで学校で授業を受けているみたいに。みんなきっとグランドマスター・フラッシュの名前くらいは聞いたことがあるとしても、彼が実際に何をしたのかということは知らないだろうしね。僕が言おうとしていることは、いま、現代のヒップホップに傾倒している人は、この作品を見て学ぶことができるということさ。彼らの目を覚まさせてくれると思うよ」。本作でシャメイクが演じるシャオリン・ファンタスティックは、ジェイデン演じるディジーたちグラフィティライターの憧れの的であり、ギャングのファミリーとともに生活を送っている。グランドマスター・フラッシュとの出会いが彼をDJへの情熱へと向かわせるのだが、ギャングとしての人生と音楽との間で苦しむ姿は、観るものの心をなんとも締めつける。表現することの自由さと、人生に捕らわれてしまう苦しみ、そのどちらもが描かれる本作において、シャオリンという役を通した感慨をシャメイクは述べる。「多くのラッパーたちは自ら選んでこの道を進んでいるけれど、シャオリンには選択肢はなかったんだ。この作品を観た人には、学校には行きたい、でも自分のクリエイティビティを表現したい、その両方選ぶことはできるのだろうか? と思っている人たちもいると思う。僕の中国の友だちにも、自分が置かれた環境から抜け出そうとしている奴がいるよ。フラッシュが、僕らがこの役を演じていることによって、観るものが自分と同じだと共感するはずだと言ったけど、この70年代の話のように、いまでも僕らも同じことを感じているんだよ」。

ヒップホップ黎明期をフィクションとして克明に描くこと、そういったミッションに加え、フラッシュと同様にバズは、本作における主人公の若者たちに、ある思いを託している。「シーズン1全体を通して、全登場人物が常に選択肢の間でバランスを取っている。エゼキエルの学校の先生は、彼に『インターンシップをしなさい』と勧める。でも彼の両親は『ダメだ。インターンシップなんてバカバカしい。音楽をやりなさい。これはもっとリアルだ。素晴らしいものだ』と言う。でも、これを観ている我々は、彼らがやろうとしているヒップホップが、今後世界を変えるものだと知っているんだ。何が正しくて何が間違っているか、若いときはみんな自分自身に問いかけるよね。我々が提供してあげられることは、それは必ずしも思っているほどシンプルではないということさ。そうすればみんな孤独を感じなくても済む。ふたりともこの若者たちをとても上手く演じているよ」。

さらに、話さずにはいられないとばかりにフラッシュとネルソンが語り始める。

フラッシュ:人生で起こるいろんなことに対して、この若者たちは必死に努力しているんだ。それぞれが違うゴールを目指しているし、抱えている問題も違うものかもしれないが、それでもみんな何かを達成しようとしている。それこそが、この作品を見る若者たちがこの物語から得るものだろう。何かを得るために努力する姿勢さ。普通の家庭の子どももいれば、素晴らしい両親を持つ子どももいる。みんながどこかにたどり着くために頑張っている。バズはこの作品に様々な感情を盛り込んでいるんだよ。この主人公たちのストーリーは、誰でもない(Nobody)ものが、何者か(Somebody)になってく様子を描いているんだ。そういうことは現実に起こるんだよ。

ネルソン:ちょっと話させてもらっていいかい? この若者たちが当時のステップを踏み、スラングを使い、あのムーブメントを再現するとき、僕はあの時代に戻ることができたんだ。ジェイデンやシャメイク、ジャスティスたちが時代を変換して、物語を超越しているんだ。この作品は過去と現在を表している。彼らは「ああこれは僕の父たちの話だ」とは思わないだろう。「この登場人物たちも僕と似ている」と思うはずだ。興味やムーブメントや文化が、この若者たちのエネルギーによって変換されているんだよ。

フラッシュ:この作品は何層にもなっているんだ。バズは全てのエネルギーを調和させている。最初の頃、俺は彼の仕事をただ見ていたんだよ。「どうやって仕上げるんだろう」と思っていた。作品を観ればわかるけど、あらゆる要素の全てが繋がって、交差するんだ。これこそさっき言ったように、俺が彼にDJを思い起こさせた部分さ。俺がどうやってDJのテクニックを思いついたかというと、違うジャンルの音楽を交差して繋げたんだ。バズはこれを映像でやっている。これは大変な仕事であるし、誰もができることではないと思う。


近年、映画監督の制作のフィールドとして、「Netflix」をはじめとする動画配信サービスでのオリジナル作品が、新たな表現のかたちとして大きな注目を集めている。資金面での違いはもちろん、これらの表現フォーマットの変化は、今後のクリエイターたちにとっては大きな焦点となることは間違いないだろう。「ゲット・ダウン」においても、これまで映画監督としてのキャリアを積んできたバズが手掛けるドラマだということは、大きな注目を集める要因のひとつだ。実際にバズが監督としてクレジットされているのは第一話のみだが、話を進めていくと、ほかのシーンにおいてもクリエイティブを統括する役割として、バズの存在は大きく影響しているようだ。「僕たちはこの作品を製作するにあたって様々な言語やスタイルを構築したんだ。だから、(第二話以降のエピソードで)たとえどんなに素晴らしい監督が撮影しても、僕がかなり関わって撮影中にフィードバックを与えなければならない。言語やスタイルがこの作品独特のものだからね。だから、基本的な部分をそれぞれの監督が演出しているだけど、僕もかなり参加している。僕としてはずいぶん静かにしているつもりだけど。横柄な態度ではなく、静かに、ね(笑)。僕が言えることは、どんな作品でも、僕はとても野心的に作る。僕の時間は全て捧げるよ。完全に週7日間、昼も夜もね」。

同じNetflixオリジナル作品「ハウス・オブ・カード」においても、デヴィッド・フィンチャーが制作総指揮を務めており、フィンチャーが監督としてクレジットされているのはわずかだが、全体としては統一されたトーンが貫かれている。本作においても、バズ・ラーマンが描き出す世界が全6話において一貫したものとして描かれており、今後ドラマシリーズ製作におけるクリエイターたちの関わり方に、バズの言葉はヒントを与えてくれるかもしれない。「僕だけがやることを考案するのじゃないんだよ。みんなのやることを考案するんだ。でもそれをどうやってやるかは、前例がないんだ。たくさんの人が来て助けてくれているけど、結局は(製作総指揮の)僕が中心にいなければならない。そうでなければ、この物語で語ろうとしている人々が受けるにふさわしいレベルの基準とリスペクトを受けられないんだ。僕はフラッシュをがっかりさせるわけにはいかないし、歴史をがっかりさせるわけにもいかないんだよ」。

10年の歳月を経て本作の企画を温めてきたというバズだが、やはりこのタイミングでNetflixと手を組んだことは、Netflixへの注目度とその勢いに寄るものが大きいのではないかと思われる。Netflixとのパートナーシップについて、率直にバズは語った。「Netflixはいま独特な立ち位置にいると思うよ。TVはきっとダメージを受けるだろうね。Netflixの作品はTVではない。映画かと言うと、それもわからない。とにかく長編だ。Netflixはとても興味深いよ。韓国もヨーロッパも、日本も、世界中を相手にしている。それに、創造性の基準を高くすることに献身している。いまの映画界では、もし最近のヒット作が恐竜を描いたものなら、『バズ、恐竜の映画を作れるか?』と言われる。しかもきっとミュージカルのね(笑)。Netflixの場合、もし最近のヒット作が大統領の話だったら、それとは全く違う作品で何か作れるか? と聞いてくるんだ。ほかの人がやっているものと全く違うものを作れるか? と。だからNetflixはクリエイティビティへの自由を提供してくれるところだ。とてもよくサポートしてくれる」。

「僕にとっては、これまでで最も大規模なコラボレーションだった。こんなに多くのアーティストたちをチームに迎えたことはない」。そうバズが語るように、本作のクレジットにはこの上なく豪華な名前が並んでいる。インタビューに応じてくれたフラッシュ、そしてネルソンをはじめ、クール・ハーク、カーティス・ブロウ、Nasといったヒップホップ界におけるレジェンドが本作の意思に賛同し、ヒップホップの黎明期を描く本作を、よりリアルに、よりドラマティックなものに仕上げている。

「ブロンクスの何も持っていなかった若者たちが、2枚のレコードに情熱を捧げ、執着したということ…この作品では、若者たちのストーリーを神話のように描いているんだ。そうして彼らが作り上げたものが世界を変えた。このことは素晴らしいメッセージだと思う。何も持っていなくても、一生懸命やることで、小さいものから美しいものを作り出すことができるんだ」。昨年大ヒットを記録した『ストレイト・アウタ・コンプトン』をはじめ、これまでにも『Style Wars』(1983)、『ワイルド・スタイル』(1983)、『8マイル』(2002年)、『ハッスル・アンド・フロウ』(2005年)、Nasのドキュメンタリー『タイム・イズ・イルマティック』(2014年)など、多くのヒップホップを描いた映画は作られてきたが、本作で最も印象的なのは、バズが語るように、ヒップホップのはじまりを神話的に描くことから生まれる、希望に満ち溢れた生き生きとした力強さだろう。主人公たちは、それぞれの葛藤の中から、自らの力と仲間たちとの協力で、自分自身のスタイルを見出していく。物語が進むにつれ、次第に輝きを増していく主人公たちの表情には、思わず胸に迫る感動を覚えざるをえない。

「今日はここで全てのヒップホッパーに言いたい。別に説教しようとか、ああしろこうしろと指図するつもりはない。視点が変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。ただ、見て欲しいんだ。それだけだ」。フラッシュは最後に力強くそう語った。この言葉は、決してヒップホッパーだけに向けられたのではないと思う。これは、いまこそ“Somebody”になろうと必死にあがく、すべての“Nobody”に向けられた言葉なのだ。

「ゲットダウン」はNetflixにて配信中。

最終更新:9月11日(日)21時0分

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