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慢心見抜き助言も 宍戸開が語る故・地井武男さんの人柄

日刊ゲンダイDIGITAL 9月12日(月)9時26分配信

 旅番組やグルメ番組のリポーターから、本格派ドラマまで幅広く活躍中の宍戸開さん(50)。デビューしてすでに28年。俳優としてのイロハを教わったのが俳優の地井武男さん(享年70)だ。

  ◇  ◇  ◇

 その瞬間、目と目が合ったんですよ。地井さんはニヤッとイタズラっぽい笑みを浮かべ、僕を見上げていました……。

 いるはずのない地井さんがなぜここに……。ビックリして「えっ?」「なんで?」と頭の中はパニックでした(笑い)。

 ちょっと説明が必要ですね。20年ほど前、渋谷のNHK放送センターのスタジオでのこと。僕が仏壇職人を演じたドラマの収録中で襖を開けるシーンでした。そのドラマに地井さんは出演していません。なのに、本番前のテストとはいえ、緊張の糸がピーンと張りつめている中、スッと開けたら、地井さんがチンマリと座ってた。僕はそれを知らされていなくて、「ドッキリ!」番組よろしく、まんまと引っかかったわけです。

 あとで聞いたら、地井さんはご自身が司会をされているBS放送の音楽番組「BSジャズ喫茶」を局内の2つ隣のスタジオで収録していて、僕が近くにいるのを知り、休憩時間に冷やかしに来たのだそうです。それだけならまだしも、悪乗りしてセットに入り込み、僕を驚かせようとした……。

 それで一気に現場の雰囲気が和やかになり、無事、収録は終わったのですが、まったく関係のないスタジオに入り込んで出演者を驚かせるなんて、地井さんじゃなきゃ許されません。

 お人柄のよさがしのばれますし、まあ、それだけ僕を気にかけてくれたってことですね。初めて仕事でご一緒したのは90年から92年まで日本テレビ系で放映された「刑事貴族」シリーズ。僕は村木刑事役で、交番勤務から刑事に昇格した設定のため途中から加わり、地井さんは「タケさん」とみんなから慕われる武田警部補役でした。

■セリフもアクションもハートが必要

 88年の大河ドラマ「武田信玄」でデビューして3年目。下積み期間がなく、親父(宍戸錠さん)からも何も教わらなかったので、いつも現場では体当たり。ようやくカメラの限られたフレームの中でどの位置に立てばいいかとか、セリフの間合いを意識し始めて、俳優の楽しさを感じられるようになった頃です。

 そんなある日、刑事部屋での会議のシーン。突然、地井さんが僕にこう言ってきたんです。

「開、おまえ、俺の言葉、聞いてるか」

「え?」……。一瞬、戸惑ったものの、真意はピンときました。僕は若い刑事役だから、台本通りにセリフを言って、カッコ良く写ろうって、それだけを浅はかに考えていたんですね。

 芝居はいくらセリフが決められていても、相手から振られたらちゃんと聞いて返す、言葉のキャッチボールが大事。さらにキャストのチームワークも。「セリフもアクションもハートが必要」とズバリ指摘してくださったんです。

 それ以来、「刑事貴族」が終わるまで、地井さんとずっと一緒。何より演技を間近に見ることができたのは大きな財産になりました。

 名脇役は出しゃばらず、かといって、その人ならではの個性や存在感がキラリと光るもの。また、ご自身が主役の時は役柄に応じた自己主張をちりばめる。

 地井さんはそのサジ加減が実にうまい。自然体で身についてらっしゃるんです。例えるならシューマイ弁当のカラシ。弁当全体が引き締まるでしょ? 

 しかも、ちゃめっ気があって温厚でオシャレ。いつもニコニコしてらっしゃるから現場がとても和やかでした。亡くなられて4年。今でも憧れであり、目標とする役者さんです。

最終更新:9月12日(月)9時26分

日刊ゲンダイDIGITAL