ここから本文です

爆発的ヒット『君の名は。』 昔からの新海誠ファンが抱く複雑な感情とは?

ITmedia ビジネスオンライン 9/12(月) 7:25配信

●新人記者が行く:

 8月26日に公開されたアニメ映画『君の名は。』が、公開10日間で累計動員数300万人、興行収入38億円を突破する大ヒットとなっている。都会の少年・瀧と、田舎の少女・三葉が、奇跡的なきっかけで出会い、恋をする――という爽やかで真っすぐなラブストーリーだ。

【『君の名は。』の画像をもっと見る!】

 『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』の新海誠監督、小説『世界から猫が消えたなら』でも知られる川村元気プロデューサーがタッグを組んだ本作は、これまでの新海監督ファンとはまた違う層にリーチした。

 その様子は動員数や興行収入からも見て取れる。前作『言の葉の庭』(2013)は、これまでの新海監督作品で最大のヒットだったが、動員数は10万人、興行収入は1.5億円。公開館数も最大全国23館と、『君の名は。』とは規模が大きく異なる。

 『君の名は。』の爆発的ヒットを、これまでの新海監督ファンはどう見ているのか?  一般ファンのヒデタカさんとケンジさんに、複雑な胸の内を聞いた。

●編集部より

以下、『君の名は。』についてのネタバレが含まれるため、未鑑賞の方はご注意ください。

●『君の名は。』どうだった?

――『君の名は。』を見ての感想を教えてください!

ヒデタカ: 面白かったです。これまで新海監督は“遠距離恋愛”を主題にして作品を作ってきたけど、どこか悲恋の要素や何かを犠牲にする要素があったんですよ。でも『君の名は。』は、何も犠牲にしないハッピーエンドで、「よかったねー!」とさわやかな気持ちで終われる。

ケンジ: 僕は2回見ました。初回は過去の新海作品を引きずっていたのもあって、「こういう方向(エンタメ)に行ったか」と頭を抱えました。でも2回目を見たときはそういうのはなくなって、「ある意味完成されているな」と納得した。複雑な感情ですが、好きか嫌いかでいえば、好きなのかな……?

 ただ、「この作品の監督は、新海監督じゃなくてもよかったのかも」という感覚があります。それこそ細田守監督とか、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(通称『あの花』)のチームがやっても素晴らしい作品ができていたかもしれない。一方で、『星を追う子ども』(2011)からの大衆向け路線変更が完成してよかったなあというある種の安心感があります。

ヒデタカ: あー、俺も“新海監督作品”としてじゃなく、1つのアニメ作品として面白く感じました。現実社会の光景を非常にきれいに描いているし、聖地巡礼をするのも楽しそう。今の高校生は『君の名は。』と同じような生活をリアルで送れるのかもしれない。それを考えるとうらやましい!

――なるほど。『君の名は。』の魅力を語っていただけますか?

ケンジ: 中学生・高校生・大学生を狙った作品で、ちゃんと対象層に届いている。新海監督の初期作品は“背景は重要だけど人物は記号的(取替えがきく)”という描写だったんです。でも『星を追う』からだんだんキャラクター性が強くなっていって、『君の名は。』ではキャラがいきいきしていた。ギャグシーンも取り入れて、劇場では観客の笑い声も聞こえてきましたね。

ヒデタカ: 今までの作品では考えられなかったよね。

ケンジ: 「泣ける」「切ない」だけじゃなくて、「笑わせる」こともできる。喜怒哀楽をキャラクターが見せられるようになったのは、すごい変化だなと。あと、パンチラが描かれていたことにも驚きました。

 『雲のむこう、約束の場所』(2004)の沢渡佐由理の着替えシーンや、『君の名は。』の冒頭シーンでも下着姿は描かれましたけど、パンチラという形で見せるのは初めてじゃないかなって。新海監督の案ではないかもしれないけど。

ヒデタカ: キャラクターデザインは『あの花』『心が叫びたがってるんだ。』の田中将賀さん。アニメファンにも、今の中高生にもとっつきやすい絵柄ですよね。それに元スタジオジブリのスタッフが動きをつけている。

ケンジ: 作画監督はジブリでたくさんの作品を手掛けていた安藤雅司さん。本作は新海監督の役割がこれまでより限定的だよね。ビデオコンテはいつも通り監督が手掛けていたようだけど。

ヒデタカ: 新海監督は細田監督とよく比べられるけど、東映アニメーションのアニメーター出身の細田監督と、ゲーム会社出身の新海監督だと、全然ルーツが違うんです。ある意味新海監督は、今回初めて“アニメの作り方の師”を得たのかもしれない……。

――確かに新海監督は、1作目の『ほしのこえ』(2002)が作品のほとんどを1人で作っていることで話題になり、キャリアをスタートしています。

ケンジ: 音楽についても語っていいですか? RADWIMPSを起用していて、作品の内容やキャラデザになじんでいた。“宣伝のためのタイアップ曲”じゃなくて、作品のための曲という気がしましたね。これまでの音楽は天門さんやKASHIWA Daisukeさんによるピアノ曲が中心で、孤独感が強い印象でした。

ヒデタカ: RADWIMPSは、俺たちの世代とはちょっとズレるけど、今の中高生がよく聞いているのかな?

ケンジ: 僕たちにとってのBUMP OF CHICKENみたいな立ち位置なのかもしれない。『ONE PIECE』の映画の主題歌になったこともあったし。あと、声優も人気の火付け役となっていると思う。特に、主人公の瀧を演じている神木隆之介くん。神木くんは新海監督の大ファンを公言していて、確か『秒速5センチメートル』(2007)が好きすぎて自分で全編アフレコしたと話してた。

●ここに文句を言わせてくれ!

――逆に文句を言いたい部分はありますか?

ケンジ: ストーリーはかなりツッコミどころがありますよね。彗星の軌道がおかしかったり、時間のズレに気付かないところとか。そこはちょっと甘かったかも。

ヒデタカ: 入れ替わったシーンで、瀧の体の中に入った三葉がバイトに行くじゃん。あれが偉すぎると思った。俺だったらまず学校に行けない。サボると思う。新海監督の作品は、SF的な要素はあるけど、重視はしてないよね。重要なのは“男女の出会いと別れ”であって、こまけえこたぁいいんだよ!

ケンジ: 後半のあのシーンは少なからず震災を思い出させるし、重ねる人もいるだろうね。その事実をいい方向へシフトさせることで、「復興」をイメージさせているのかも。でも、新海監督ってそこまで社会的なメッセージを込めたりするような人でもなさそうだから、これは深読みが過ぎるかもしれないけど。

ヒデタカ: そこはそこまで考える必要はなくて、喪失感の演出だと思っていたけどなー。

ケンジ: 細かいことを気に出すときりがなくて。「おばあちゃん、もっと活躍すると思ってた」とか、「奥寺先輩、なんだったんだ?」とか、「これって、ゼロ年代的なループものの系譜にあるのか?」とか……。あと、見た中高生に聞きたいのは、「この話が理解できたのかな?」というところ。視点がくるくる切り替わるし、記憶もなくなっていくという設定に、ついていけたのかな? 僕は実は我慢できずに小説版から読んで、ストーリーを把握した状態で鑑賞したので、初見の人の感想が分からないんです。

――確かに、「ここについてもうちょっと知りたい」というところは残りました。クライマックスシーンは特に。

ケンジ: もし「よく分からなかったなー」と思ってもう1回見に行くつもりの人は、小説版を読んでみてほしい。あと、外伝小説の『君の名は。Another Side:Earthbound』も発売されていて、そちらもオススメ。こちらは『ほしのこえ』や『雲のむこう』『秒速』でも小説を手掛けた加納新太さんが書いているんだけど、三葉の母親の話だったり、テッシーが抱える思いだったり、瀧と三葉以外の登場人物にもフィーチャーしています。

ヒデタカ: 俺はそんなにツッコミポイントは見えませんでした。「そういうものだ」と受け入れれば、何も考えずに気持ちよく見れる。今から見る人には、「考えるな、感じろ!」とアドバイスしたい。

ケンジ: まあ、確かに……。葛藤や心の声が極力抑えられているし、そうやって見る方が楽かもしれない。

●“新海作品の魅力”とは?

――そもそも、お2人の「新海誠作品との出会い」はいつでしたか?

ヒデタカ: 俺は2003年です。雑誌『ニュータイプ』についてきたDVDに、『雲のむこう』のパイロット版予告が入っていた。背景……特に雲の描写が「『天空の城ラピュタ』みたいだ!」と引かれて、ハマりました。

 そのDVDには『新世紀エヴァンゲリオン』や『攻殻機動隊』の映像も入っていて、俺にとってアニメ・漫画の世界との出会いと新海作品との出会いが一緒だったんです。その頃は中学生だったから、『ほしのこえ』のDVDはすぐには買えなかったけど、上映されていた下北沢の映画館に聖地巡礼はしました。『雲のむこう』の公開をむちゃくちゃ楽しみに待って、それからはリアルタイムで追いかけていました。一番好きな作品は、エンタメが好きなのと初めて見た思い入れもあって『雲のむこう』です。

ケンジ: 僕はヒデタカさんよりは出会いは遅くて、2010年ごろ。女友達が熱烈にオススメしてきたこともあって、DVDで『秒速』を見ました。僕が驚いたのも背景描写で、とにかく「今まで見たことがない」と思うくらいキレイだった。1日に何回も再生しましたし、今でもたまに“流しっぱなし”にしますね。ネットだとラストに「落ち込んだ、つらい」という反応がありますけど、僕はガッツリした恋愛の経験がなかったからか、共感や没入はあまりなくて、1つの恋愛ものとして見ていました。好きなのは『秒速』。やっぱり最初に見た作品のインパクトは大きいですね。

ヒデタカ: 『ほしのこえ』『雲のむこう』はどうでした?

ケンジ: 実はあんまりハマらなかったんですよね。先に『秒速』という“進化版”を見てしまったからかもしれない。特にグラフィック面で、個人で作った『ほしのこえ』と、制作体制ができてきた『秒速』とでは大きな違いがありますから。もちろん、それぞれに違った良さはありますけど。

ヒデタカ: ああ……TYPE-MOONでいうと商業デビュー作の『Fate/Stay night』を先にプレイしてしまったので、同人版の『月姫』がピンと来ない感じ? 分かります。

――新海作品の特徴はなんですか?

ヒデタカ: まず大きいのは、背景の美しさと、光の使い方。特に夕方の雰囲気がすばらしくて、すごく切なくなりますね。“マジックアワー”を描くのがうまい。

ケンジ: それから独特のせりふ回し。聞いているこっちが「あーっ!」と頭を抱えたくなるような詩的で恥ずかしいせりふや心の声が多い。特に初期作品はそういうところが目立ちますね。『秒速』の「その瞬間、永遠とか、心とか、魂とかいうものが何処にあるのか、わかった気がした」とか、「ただ生活をしているだけで、悲しみはそこここに積もる」とか……。

ヒデタカ: せりふの“間(ま)”も特徴的。ちょっと独特のテンポがある。聞いただけで「新海節だ!」と言いたくなるような……。minoriのエロゲー「ef - a fairy tale of the two.」のオープニングを新海監督は担当しているんですが、その会話の雰囲気なんかまさに「新海だ!」と言いたくなる。

ケンジ: あとは男女でせりふを交互に言い合うシーンも特徴ですね。だんだんと掛け合い間が短くなっていって、2人の思いがぐっと近づく……見ているこちらのテンションも合わせて上がっていく。『秒速』だと「昨日、夢を見た」「ずっと昔の夢」。『君の名は。』でも「大事な人、忘れちゃだめな人、忘れたくなかった人」あたりがそうでした。

 ……でも、“新海監督の作風”というのは、ちょっとまとめるのが難しいかもしれません。

――そうなんですか?

ケンジ: 新海監督はどんどん進化していく人なんですよ。インタビューでは、過去作のことは忘れてしまったみたいに言っていましたが(笑)。僕としては、『ほしのこえ』『雲のむこう』『秒速』は似た空気を持っている作品で、新海監督が自分の中にあるものをアニメとして描いて、それをファンの側からのぞき見るという感覚があった。でも、4作目の『星を追う』からは、監督の方から「見てくれ!」と与えてくるような感じで、ファンの側が受容するようになったと思っています。

ヒデタカ: リアルタイムで追いかけていて、正直『星を追う』は「なんだこれ?」と思ってしまった……。「スタジオジブリ作品のような映画を作りたい」という気持ちだったんだろうけど、カットや曲の使い方が「ジブリで見た」となってしまった。これまで実際の街の光景をたくさん描いて、SF設定があっても現実感があったのに、ファンタジー世界がメインになったのも驚いたし。

ケンジ: 『秒速』までの3作品はどちらかというと男性向けで、男性が見て「ああ……分かる……」と共感できるもの。『星を追う』以降は、女性向けも意識しているんじゃないかな。実際、『星を追う』から女性ファンも増えてきているらしいです。

 ただ、どの作品も“距離のある恋愛”をモチーフにしているという意味で、根底では似ているのかもしれません。『ほしのこえ』と『秒速』は物理的な距離だし、『雲のむこう』は離れてしまった世界、『星を追う』は死別、『言の葉の庭』は年齢差。そして『君の名は。』につながっていく。

●ぶっちゃけ、今どんな気持ちですか?

――『君の名は。』は公開10日で興行収入38億円を突破し、60億円越えも視野に入っています。新海監督は“国民的大ヒット作”の監督になったわけですが、それについてはどういう思いを抱いていますか?

ケンジ: 売れたのは、たくさんの人に知られたという意味では良かったと思います。でも、今回の作品は新海監督の集大成だけど、一般化されたという気持ちがある。「オレたちの新海じゃない!」と思っている過去のファンは多いんじゃないかな。

ヒデタカ: 新海監督は、前は舞台あいさつで直接言葉を交わせるくらい、“会いに行ける監督”でした。それがいつのまにか庵野秀明や細田守と名前が並ぶようになった。遠くなっちゃったな……。すごいことだけど、『君の名は。』だけを見て「新海監督いいよね!」と言わないでほしい……。せめて『秒速』を見てから。細田監督作品でいうと『サマーウォーズ』を見る前に『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』を見てほしい、みたいな。

ケンジ: でもこれって、応援していたインディーズバンドがメジャーになって寂しい気持ちになるのと同じ。昔からのファンが障害になっちゃいけない。今作でハマった若い子たちにはぜひ過去作も見てもらいたいですね。

ヒデタカ: こじらせ男子への耐性をつけてほしい。

――今後、新海監督には、どんな作品を作ってもらいたいですか?

ケンジ: インタビューで新海監督は「本作でやっと、長編をコントロールできるようになった」と語ってるんですね。だから、今回の集大成の“その先”を見せてほしいです。『君の名は。』はエンタメとして完成しているけど、物足りなさがある。今の技術力で、『秒速』みたいな作品を作ったらどうなるのかが知りたい。

ヒデタカ: 大衆向けは一区切りにしてほしいですね。『君の名は。』は、新海作品の系譜と、ジブリ作品の系譜と、『あの花』などのアニメの系譜を持っている。視野が広がった新海監督の作品を見たいです。

――ありがとうございます!

ケンジ: そういえば、『君の名は。』でどうしても分からなかったことがあって。瀧は三葉をいつ好きになったんだろう……?

ヒデタカ: あーっ、分からなかったです! いきなり好きになったよね……? 女子高生、リア充に解説してほしい!

(その後、2人による新海誠トークは1時間以上続いた……)

最終更新:9/12(月) 7:25

ITmedia ビジネスオンライン

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。