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泉谷・アサヒ会長、「会社に来て、知らないことが増えていれば、大丈夫」

ニュースソクラ 9月12日(月)10時0分配信

アサヒグループホールディングス・泉谷直木会長兼CEO(3)

 ――経営者が社員に目線を合わせて語るのは大切ですが、実力経営者と言われるようになると、ワンマン経営になって死ぬまでやるなんて言い出しかねません。
 経営者は間違えるんですよ。KKDという言葉があるでしょう。経験、勘、度胸。この勘の部分で間違えるんです。勘には3つあって、1つは単なる直感です。漠然とした予感とか、本能的直感とか、あるいは思い付きが、当たる時期があります。

 2つ目は専門的勘で、要するに経験知です。積み重ねた経験から、瞬時に判断できる。例えばビールでは、毎年出る新製品が生き残れるかどうかは、5月の連休あたりの売れ行きを見れば、経験的にだいたいわかります。こういうのは経験者の強みで、自分が一番わかっていると思いがちです。

 ところがもう1つ、戦略的直観というのがあります。「観る」方の直観です。明確な傑出した思考力とかビジョンを持っていることによって、突然、ひらめくのです。これには全体観や大局観が要りますし、教養も必要です。ビジョンや使命感を持つには、アンテナを張り巡らせていなければいけない。

 さらに歴史観や人間観を持つと、戦略的直観は働くのです。ところが、これはよく磨いていないと、どんどんさびて行きます。

――慢心したら駄目なんですね。

 経営者で怖いのは、経験知による専門的勘に満足して、「オレの時代はなあ」とすぐ言い出すようになることです。10年前の話をされては困るのですが、権力者が言うと、誰も抵抗できない。

 10年先を見る戦略的直観をどれだけ持ち続けられるかが重要です。毎日、会社に来て、知らないことが増えていれば、大丈夫です。頭が新しいことを求めているわけですから、日々、直観を磨いている証拠です。

――戦略的直観によって何か成功した例はありますか。

 経営者がうまく行ったと言う場合は、後付けの話が多すぎますね。今度の当社によるヨーロッパのビール会社の買収が、成功するかどうかはわからないでしょう。買うところまでは成功しますよ。

 ただし、その先をやるのは、実はみんなの力なんです。私の力ではない。スターがたくさん生まれて成功させることができるのです。私がどうこうというより、会社の歴史を作らなくては意味がない。

――英国のSABミラーと今年契約した、同傘下のイタリア、オランダ、英国のビール会社4社の買収を決断したのは…。

 それは3300億円の投資をするわけですから、経営者が最終的に責任を持って判断しなければ、決められませんよね。

 これは10年前から狙っていた案件です。2008年に当時のインベブがアンハイザー・ブッシュを買って、DEレシオ(有利子負債÷自己資本)が4倍くらいに上がりましたが、巨額のキャッシュフローによって借金を返済するので、どんどん下がりました。

 またメキシコの会社を完全子会社にして、DEレシオが上がりますが、再び下がり2倍を切るようになった。ずっと見ていて、14,15,16年あたりで動き出すとにらんでいたら、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)が巨額の資金調達を始めたというウワサが銀行筋から流れてきたのです。

 それが世界トップのABインベブによる同2位のSABミラー買収の話になったわけです。独禁法の問題が起きますから、傘下で売却される企業が必ず出てくる。ビッグチャンスだと、私はアナリスト説明会でも公言していました。

――買うか買わないか、二つに一つの意思決定ですね。

 それは戦略的直観という難しい話ではなくて、理屈はありますが、最後は「えいやー」なんです。世の中のM&A(合併・買収)の半分は失敗しています。失敗するのを前提に、失敗しないためにはどうすすればよいのか、考えました。

 買うのが目的になると、ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)で、買ってから統合作業に取り組むため、いろんな問題が後から出てくるんです。ポストでなく頭文字は同じPMIでも、プレ・マージャーに変えて、先に調べよう。5億円や10億円つかっても、後で統合にてこずって何百億円と損することを思えば安いものです。

――ヨーロッパの会社を買うのは初めてですけど、成長戦略にどのように組み込むのですか。

 買収する会社を合計すると、1000億円弱の売り上げで150億円くらいの営業利益があるので、それだけ当社の利益を押し上げます。イタリアの「ペローニ」やオランダの「グロルシュ」といったブランドをアジアなど広く世界に輸出する。それで足場がしっかりできたら、「スーパードライ」を投入してグローバルブランドにすることも考えられます。

 こうした相乗効果を第1弾、第2弾とすれば、第3弾としてグローバル市場で独自のポジションを確立します。他に例のない代替性無きアイデンティティーを持つポジションを占めるのです。

 世界で複数のプレミアムビールをそろえて、きちんと造って売る、そんな会社はありません。世界トップのABインベブは並外れて巨大になりましたが、方向が全く違います。

 我々は世界で、ハイネケン(オランダ)、カールスバーグ(デンマーク)、モルソン・クワーズ(米国)、タイベブ(タイ)と並んで、やって行けます。そのために代替性無きアイデンティティーを打ち立てるのです。

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:9月12日(月)10時0分

ニュースソクラ

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