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iPhone7に見るイノベーションの新たな進化

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月12日(月)16時17分配信

 米アップルの「iPhone(アイフォーン)7」を早速試してみた。感想は、「別に」だ。専門家は多くの改良点を称賛したが、アップルは既存ユーザーに納得のいく買い替え理由を提供していないというのが大方の一致した見解だ。

 なぜか。iPhoneにしろ、パソコンやタブレットなどの端末にしろ、なぜ以前ほど急速に変化しないのか。理由はたくさんあるが、一番の問題は、最先端技術を進化させることが、かつてないほど技術的に難しく、費用と時間がかかるようになっていることだ。われわれの端末は最も根本的なレベルで非常に複雑化しているため、これ以上進化させるには物理の限界に逆らうしかなくなっている。

 だが絶望する必要はない。これら端末内部の技術は、新しい種類の端末や新たな体験への可能性を開く形で進化している。 大半のパソコンの頭脳となっている半導体を製造する米インテルは、アップルと似たような状況にある。両社とも従来、中核製品の改良を2年おきに行っていたが、今はそのペースを落としている。

かつてないほど新しい機能を可能に

 インテルは現在は、より多くのトランジスタをチップに搭載できる新技術を3年ごとに提供していくと述べている。最新のプロセッサー「Kaby Lake(カビーレイク)」については、従来技術の「最適化版」と称している。つまり、パソコンや関連端末の改良が小規模化しており、それら製品の販売減速の一因になっているということだ。

 iPhoneも、シリーズ初の大型画面モデル「iPhone 6」と「iPhone 6 Plus(プラス)」の発売から2年後にあたる今年、デザインの一新が見込まれていた。しかしアップルが代わりに提供したのはバッテリー駆動時間の向上、プロセッサーの高速化、防水機能、カメラ性能の向上(iPhone 7 Plusへの背面カメラ2台の搭載)だった。同僚のジェフリー・ファウラー記者の言葉を借りれば「実用的だが驚きはない」。

 しかし、よく見てみると、両社の技術はかつてないほど新しい機能や応用を可能にするものでもあることが分かる。

 例えば、インテルの最新のマイクロプロセッサー。従来のコンピューティング処理はわずかに高速化するだけにすぎないが、前世代製品の推定2倍の速度のグラフィックスプロセッサーが搭載されている。また、従来のHD(高精細度)動画の4倍の画素数を持つ4K動画にも対処できる。このこと自体は大した意味は持たないかもしれないが、バーチャルリアリティー(VR、仮想現実)がパソコンの次のキラーアプリになる可能性があることを考えれば、それが持つ意味は大きい。

VRやARをiPhoneに取り入れる下地

 アップルも新型iPhoneの心臓部となるA10チップに改良されたグラフィックスプロセッサーを搭載している。それこそ、アップルのマーケティング責任者フィル・シラー氏が「写真用のスーパーコンピューター」と呼ぶ新型カメラを支えているものだ。アップルはiPhone 7の大幅に向上したグラフィックスはゲーマーにとってメリットになるとうたっているが、同社が取り組んでいるとうわさされるVRや拡張現実(AR)をiPhoneに取り入れる下地になる可能性がある。

 これら機能はまだ初期段階にすぎない。ハードウエアメーカーはチップ性能の改良ペースの減速に、特定のタスク向けにカスタマイズしたチップを開発することで主に対応している。 これらチップは、パソコンやスマートフォンの「頭脳」を長年担ってきた汎用(はんよう)チップよりも特定の処理を高速化できる。ガートナーの調査部門責任者マーク・ハン氏によると、それらは人工知能(AI)や、機械で画像を認識し検査や計測を行うマシンビジョン(MV)、音声処理などに応用されているという。

 例えば、画像処理や表示能力の向上を受け、アップルや同社の競合他社は、3次元(3D)動画やVR形式での3D再生といった3D機能に消費者を移行させようとしている。その他の特殊チップは、自動運転車向けのMVやAIの一形態であるディープラーニング(深層学習)、アップルの「Siri(シリ)」やマイクロソフトの「Cortana(コルタナ)」、アマゾン・ドット・コムの「Alexa(アレクサ)」などの仮想アシスタント機能の実現に使用されている。

ヘテロジニアスコンピューティング

 ガートナーのハン氏によると、こうした特殊チップは、端末の用途に応じて異なるチップを使用する「ヘテロジニアスコンピューティング」と呼ばれるトレンドの1つ。例えば、アップルは先週の新製品発表会で3種の新チップを披露した。iPhone 7の心臓部となるA10、第2世代の腕時計型端末「Apple Watch Series(アップル・ウオッチ・シリーズ)2」の改良版S1チップ、ワイヤレスヘッドホン「AirPods(エアポッズ)」のW1チップだ。

 言い換えれば、アップルが提示したのは、用途に応じてカスタマイズしたチップを搭載したデバイスのエコシステムだ。これは、チップを超越したヘテロジニアスコンピューティングの一形態であり、それがデバイスレベルで見て取れる。

 この方向性に進んでいるのはアップルだけではない。インテルはMVやAI、サーバー、IoT(モノのインターネット)に特化したチップ会社を相次いで買収している。

 アップルとインテルはこうした進化によって、次世代に不可欠な機能を創造する開発業者の手に技術を委ねている。3Dインターフェースや屋内マッピング、コンピューターとの新たな相互通信を可能にするAIなどの機能だ。

 忘れてならないのは、アップルやその競合による技術の「漸進的な」進化が史上最も価値のある新興企業の一部を生み出しているということだ。配車アプリのウーバー・テクノロジーズや民泊仲介サイトのエアビーアンドビーなどがそうだ。一見ささいなイノベーション(技術革新)が大きな変化につながった格好の例が、2003年にアンドロイドフォンに最初に登場し、アップルが2010年にiPhone 4に導入したことで最大のインパクトを与えた「前面カメラ」だ。それが写真投稿アプリ「Snapchat(スナップチャット)」の誕生につながるとは誰が予想しただろうか。

By CHRISTOPHER MIMS

最終更新:9月12日(月)16時17分

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