ここから本文です

来週の日銀の決断は?

ZUU online 9/13(火) 12:20配信

9月20・21日の日銀金融政策決定会合は、「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、マネタリーベースを「年間約80兆円」増加させるとともに、日銀当座預金残高の金利を-0.1%とする「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の現状維持を予想する。

日銀は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点から、「量的・質的金融緩和」・「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行う。

■黒田総裁が原油価格下落以外の原因も指摘

8月27日のジャクソンホールでの講演で、黒田日銀総裁は、インフレ期待を2%程度へ持ち上げるリアンカリングの途上で、原油価格の大きな下落が起き、外的なショックに対する頑健性がまだ低いため、インフレ期待が後退してしまったことを指摘した。

更に、9月5日の講演で、黒田総裁は早期に2%の物価上昇が実現しなかった原因について、原油価格の下落に加えて、2014年の消費税率引き上げ後の個人消費を中心とする需要の弱さ、そして2015年夏以降の新興国経済の減速や、そのもとでの国際金融市場の不安定な動きを挙げており、その分析が総括の中心となろう。

企業部門が貯蓄超過である中、その貯蓄超過を上回る財政拡大により、ネットの資金需要を生み出し、それを間接的にマネタイズする、日銀の金融緩和の効果も強くなり、総需要とマネーが拡大し、インフレ期待を持ち上げる必要があった。ネットの資金需要は、企業貯蓄率と財政収支の合計で、マネーを膨らませる源、且つアベノミクスのデフレ完全脱却への推進力である。

実際には、消費税率引き上げを含む緊縮財政などにより、ネットの資金重要を逆に消滅させてしまい、日銀の金融緩和の効果は失われ、ポリシーミックスが機能せず、総需要は停滞し、インフレ期待が後退してしまったのは明らかなように思われる。

■グローバル要因も企業活動を萎縮させた

緊縮財政に加え、グローバルな景気・マーケットの不安定感も企業活動を萎縮させ、ネットの資金需要を消滅させる力となり、日銀の金融緩和の効果を更に減じてしまった。

一方、過去とは違い現在は、原油価格が持ち直してきていることに加え、政府は財政政策を引き締めから緩和に転じ、グローバルな景気・マーケット動向も、G20などで合意した各国の総合的な政策対応などにより徐々に安定し、ネットの資金需要は復活してくると考えられる。

原油価格下落、緊縮財政、グローバルな不安定感という、早期に2%の物価上昇が実現しなかった原因について、今後のこれらの方向感は逆になるとみられる。日銀の金融緩和の効果は、今後は増していき、2%の物価上昇の実現性も増していくと判断されるだろう。そう判断されれば、9月の金融政策決定会合での総括が、マイナス金利の深彫りなどの追加金融緩和に直接的につながる可能性は小さいと考える。

■デフレ脱却のために、間接的なマネタイズサポートの可能性

7月29日の金融政策決定会合で、ETFの買い入れ拡大の「質」のみの追加金融緩和を行ってから、日本経済・マーケットのファンダメンタルズは改善し、ドル・円も100円のラインを割っていないことも理由となろう。

内閣支持率は上昇しており、日銀への政治的な緩和圧力は弱く、9月下旬に召集される臨時国会で、消費税率引上げ延期法案、経済対策の補正予算案、TPP関連法案の議論を順調に進めるため、マイナス金利政策を含めたアベノミクスの副作用を、野党から批判されるのを政府は好まないだろう。

ただ、2%の物価目標が日銀の金融政策のみで、2年という早期に実現できるものではないことが、様々な原因の分析で総括されることになろう。

デフレ完全脱却を目指し、財政政策、成長戦略と構造改革による、企業活動の活性化で生み出したネットの資金需要を、ポリシーミックスとしての日銀の金融緩和の継続で、間接的にマネタイズしてサポートするという、スタンスに転換すると考えられる。

■政府と日銀の協業で、ハイブリット目標を目指す

よって、2%の物価目標は早期に「2年」という期限を設けたものではなく、政府との協働で中長期的に目指すものとされるだろう。その変更は金融引き締めではなく、2%の物価目標の実現まで粘り強く、金融緩和を継続していくスタンスを強調していくとみられる。

そして、2%の達成時期は、財政政策や海外経済・マーケットの動向にも依存すると判断し、早期達成には、政府にも一定の責任があることを示す可能性がある。

黒田総裁が、量、質、金利の三次元以外のアイデアも、議論の俎上から外すべきではないと述べていることを考えると、政府との協働をより強調するため、物価に名目GDP成長率を加えた、ハイブリッド目標とする可能性もあると考える。

日銀がコミットメントする2%の物価目標と、政府がコミットメントする+1.5%の実質GDP成長率を合わせて、+3.5%程度の名目GDP成長率を目指す目標が加わってもおかしくはない。

ポリシーミックスを意識した政府・日銀の共同目標として、日銀単独で物価目標を達成しようとするこれまでの金融緩和策の手段と効果の限界論を払拭する有効な方法となろう。

日銀は現行の金融緩和策を粘り強く継続していき、政府は短期的には財政拡大で、中長期的には成長戦略と構造改革による潜在成長率の引き上げで、そのハイブリッド目標を目指すことになる。

■金融政策継続には潜在成長率と名目GDPの上昇が鍵

9月8日の講演で、中曽日銀副総裁は、日銀が実質金利を押し下げると同時に、政府が成長戦略により自然利子率を押し上げ、そのスプレッドで景気刺激効果を強くする必要があることを指摘しており、ポリシーミックスへの志向は強まっているようだ。

物価目標で期待インフレ率上昇などを通して実質金利を押し下げ、名目GDP目標で潜在成長率上昇などを通して、自然利子率を押し上げることができれば、2%の物価上昇への動きをより強くできる可能性がある。

潜在成長率による自然利子率の押し上げという考えは、金融政策も、これまでの短期的な視点から、より中長期的な視点に変わってきていることを意味するだろう。

2%の物価が困難でも、成長率が予想以上に加速すれば政策目標は、達成にしっかり向かっていると考えることができるし、原油価格が下落し物価が下がっても、交易条件改善は名目GDP成長率の押し上げ効果があるため、原油価格の下落に悩まされることもない。

または2%の物価目標を達成した後も、潜在成長率が上昇しておらず、名目GDP成長率の上昇が不十分で持続的でないのであれば、金融政策が緩和的な状況は継続することになり、緩和政策の長期化による時間軸効果が作り出せることになろう。

■名目GDP拡大が政府の重要課題

名目GDPを縮小から拡大に転換させたのが、アベノミクスの最大の成果であり、政府の骨太の方針の表題が「600兆円経済への道筋」とされ、名目GDPの拡大が政府の最重要課題であることと整合的だ。

名目GDP成長率への政府・日銀のコミットメントが、マーケットでより強く信任されれば、時間軸効果で短中期金利を押し下げ、期待成長率と期待インフレ率の上昇により長期金利を押し上げるため、イールドカーブは自然にスティープニングするはずだ。黒田総裁も講演で指摘し始めた、現行の政策のコストである金融機関の収益の圧迫を軽減することができる。

資産買い入れプログラムの変更のみで、無理矢理イールドカーブをスティープニングさせると、実質長期金利は上昇してしまい、株価を下押すなど緩和効果を削いでしまうというリスクを減じることもできよう。

更に、名目GDP(=総賃金)の拡大へのコミットメントが弱く見える中、政策により物価だけ押し上げて、家計に余計な負荷をかけるというインフレ政策が、不人気である側面も是正することができる。

そして、これまでの資産買い入れプログラムが、2%の物価目標を「2年」で目指すためのものであれば、中長期的に目指すためのものに変更するため、日銀はプログラムを柔軟化する可能性があろう。

■日銀による買い入れ資産の枠組み変更は?

現行の買い入れ総額を減らさずに、買い入れ資産の枠組みを変更するかもしれない。

国債買い入れを80兆円から70-90兆円へ変更、国債の年限別買い入れ目標の追加、または買い入れ国債の平均年限を7-10年レンジの拡大、国債以外の資産の買い入れ額もレンジを広げて柔軟化するかもしれない。

現行の社債に、財投機関債、政府保証債、地方債などを加え、国債以外の債券の買い入れオペの範囲を広げる可能性もある。外債は為替政策の所管が財務省である、という制度上の制約が強いとともに、為替介入と誤解されるリスクがあるため、今のところ買い入れの対象とはならないだろう。

現在30兆円程度の残高のある、貸出支援基金の金利を0%から-0.1%に引き下げ、日銀当座預金残高のうち、マイナス金利が適用されている20兆円程度(コール市場で裁定取引が完全に行われれば10兆円程度)の金融機関の収益に対する、マイナスのインパクトをオフセットすることも議論されるかもしれない。

これらの政策の柔軟化は金融緩和の効果をより強化するものと日銀は説明するだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:9/13(火) 12:20

ZUU online