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万全の態勢で臨んだ「LINEモバイル」に死角はあるのか?

ITmedia Mobile 9月13日(火)6時25分配信

 「思ったよりも、ずっとちゃんとしていると思いました」――これは、筆者がLINEモバイルのサービス詳細を聞いたあと、LINEのCSMO、舛田淳氏に伝えた言葉だ。舛田氏は苦笑していたが、実際、発表を聞いたプレスの反応も同様のものだった。上場企業に対して“ちゃんとしている”というのは失礼な話かもしれないが、予想以上に通信事業者としての姿勢を明確に打ち出し、ユーザーにもしっかりサービスの仕組みを説明しようとしている。これが、筆者の率直な第一印象だった。

【LINEモバイルの通信速度】

●MVNOとしての“基本”を押さえた料金ラインアップ

 では、何が“ちゃんとしている”のか。最初にそれを感じたのは、LINEモバイルの料金体系だ。LINEモバイルの料金プランは、データ通信の容量別に、1GB、3GB、5GB、7GB、10GBに分かれる。1GBのプランのみ、SMSや音声通話は別途契約できるが、3GB以上のプランはデータとSMSがセットになっており、音声通話をプラスすると、580円(税別、以下同)が追加でかかる。

 1GBのデータ通信のみのプランは月額500円。3GB以上のSMS付きのプランは、下から1110円(3GB)、1640円(5GB)、2300円(7GB)、2640円(10GB)となる。音声通話付きの場合は、1GBのプランからそれぞれ1200円(1GB)、1690円(3GB)、2220円(5GB)、2880円(7GB)、3220円(10GB)。同業他社と比べると、安いどころか、むしろやや高めに設定されていることが分かる。

 例えば、IIJmioの3GBの「ミニマムスタートプラン」は、音声通話付きで1600円。同等のプランはないが、6GBの「ライトスタートプラン」は2220円で、LINEモバイルより使える容量が1GB多い。1GBの低価格プランは用意しているが、全体として、価格はMVNOの“相場”から大きく離れたものではないというわけだ。

 知名度のない新興のMVNOだと、価格競争に走らざるをえなくなるケースもあるが、LINEモバイルはそれをする必要がないという見方もできる。料金プランに関しては、業界標準を押さえつつ、LINEならではの売りを加味して慎重に設定された印象だ。

 ただ、それだけだと単に競合他社より価格が高いMVNOになってしまう。ここで生きてくるのが、LINEモバイルが売りとしている、いわゆる「ゼロレーティング」のサービスだ。LINEモバイルではこれを、「カウントフリー」と呼び、1GBのプランは「LINEフリー」としてLINE内の通信がデータ通信量から除外される。3GB以上のプランは「コミュニケーションフリー」になり、LINEに加え、TwitterやFacebookもカウントフリーの対象になる。

 LINEフリー、コミュニケーションフリーはLINEモバイルの真骨頂で、「お客さまがパケ死(データ量を使い切ること)してしまうと、通信速度に制限がかかり、コミュニケーションが遮断されてしまう。今のコミュニケーションツールはLINEでありTwitterであり、Facebook。そこは残しておくべきだと強く思った」(LINEモバイル 嘉戸彩乃社長)というコンセプトに基づいて導入されている。

 嘉戸氏の言葉からは、3つのサービスがカウントフリーになるからお得だというより、基盤として使われるコミュニケーションサービスに制限がかからないという方に力点が置かれていることが分かる。MVNOとしては競合並みかやや高い程度だが、そのほかのデータ通信を使ってデータ容量がなくなっても、コミュケーションに支障はきたさない。LINEモバイルがユーザーに対して打ち出すメッセージは、このような形のものだ。

 ただし、ゼロレーティングは、言葉で説明する以上に、実施するのが難しいサービスでもある。パケットの識別にはDPI(ディープ・パケット・インスペクション)という技術が用いられることが一般的だが、「約束していても漏れが出てくる」(舛田氏)。嘉戸氏も「いかに正確に提供するのかで苦労した」といい、調整に時間がかかったことを明かす。

 実際、「Pokemon GO」だけが通信できるサービスを提供した日本通信の「ゲームSIM」では、アプリのアップデートに追従できず、マップが見えないなどの不具合が起こってしまった。LINEの通信をカウントしないサービスはFREETELなども提供しているが、これも、LINE側とは特に調整をしているわけではないという。一方で、LINEは「各社とお話をして体制を作っている」(舛田氏)。具体的には、「FacebookやTwitterも、新しいフローやIPアドレスが入るときは、(事前に情報が入るよう)連携している」(嘉戸氏)といい、漏れがないよう万全の体制で臨んでいる。

●「通信の秘密」や「ネットワーク中立性」にも配慮

 もっとも、筆者も過去の連載で指摘したように、ゼロレーティングは、導入の仕方によっては「通信の秘密」や「ネットワーク中立性」に反するものになってしまう。短期的にユーザーメリットがあることは確かだが、一方で、通信が除かれることはプライバシーの侵害につながるし、強力な事業者が通信量をカウントしないサービスを任意に決めるのは、競争の形をゆがめる結果にもなりかねない。

 こうした懸念にも、LINEモバイルは正面から向き合っている。LINEモバイルの嘉戸氏は「カウントフリーは、すごく議論を巻き起こすもの」として、通信の秘密やネットワーク中立性への懸念があることを認め、LINEモバイルでは、次のような対策を取ったという。

 舛田氏が「通信の秘密については、利用規約などの包括的な事前同意では十分でないというのが、LINEモバイルの考えです」と語るように、LINEモバイルでは、申し込みの際に、個別に何を見ているかを説明され、そこに同意しないと先に進めないようになっている。同意文には、MVNEがIPアドレス、ポート番号、ヘッダの一部を機械的、自動的に識別していることが、きちんと明記されている。

 これを行うことで、電気通信事業法上の問題をきちんとクリアした格好だ。日本インターネットプロバイダー協会などが策定した「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」にも沿ったもので、ここにも「ユーザーが明確かつ個別に同意している場合、(通信の秘密を侵害する)違法性が阻却される」と書かれている。

 通信事業者としては当然やるべきことではあるが、MVNOの中には、こうした同意をきちんと取らずにDPIを既存ユーザーにまで広げて適用しているところもある。通信事業者としての歴史や経験が浅いMVNOだけならまだしも、最近では、ソフトバンクがキャンペーンとして自社の「スポーツナビ」だけをカウントフリーにするなど、運用が厳格に守られているとはいいがたい状況があった。これに対し、LINEモバイルは、少なくともユーザーに対して通信経路で何をしているのかを正面から説明しようとしている姿勢が見え、評価できる。

 また、DPIを行うためには、「誰が見ているのか、何を見ているのか、どうやって判別しているのかを説明しなければならない。誰がということになると、MVNEの設備になる」(嘉戸氏)という。そのため、LINEモバイルはMVNEをNTTコミュニケーションズであると明かしている。ネットワークに対する信頼性を演出するため、最近ではU-NEXTやDMM.comなどがMVNEがどこであるかを明示しているが、MVNEまでつまびらかにするのは珍しい。これをあえて公開したのも、信頼性を高める戦術の一環と見ていいだろう。

 一方で、ネットワーク中立性に対しては未解決のままだが、「日本におけるネットワーク中立性に関するルールについては、ネットワークの混雑に対処する観点からの帯域制御のみを対象としており、混雑制御を超える部分の中立性ルールについては未確定であるという認識」(嘉戸氏)で、ゼロレーティングの正当性に関しては、まだ確定した見解がない。

 ネットワーク中立性は「特定のコンテンツを優遇することにつながり、その事業者の寡占を招く」というような考え方が元になっているが、現状ではMVNOの規模を考えると、それを理由に規制に踏み込むのは難しいかもしれない。電気通信事業法では、第6条で「利用の公平性」を掲げているが、これはあくまで通信事業者とユーザーの関係を示したもの。先に挙げたガイドラインでも、ユーザー間の制御に差がなければ、公平に反しないとされている。

 LINEモバイルも、今後の議論の行方は見守っていくといい、「懸念が発生した場合は誠意をもって対応する」(嘉戸氏)構えだ。こうした法令を守るのは、あくまで事業を行う上での大前提だが、MNOも含め、既存の通信事業者の中で、ここまで踏み込んだ見解を示しているところは少ない。ここも、LINEモバイルがユーザーに対して誠実な姿勢で取り組んでいると感じた部分だ。

●端末もしっかりフルラインアップで提供、LINEならではのサービスも

 端末についても、ローエンドからミッドレンジ上位あたりまで、しっかり取りそろえてきた。LINEモバイルの参入発表時、筆者は本連載で複数メーカーがLINE側に接触していることを報じていたが、そのラインアップは予想以上に広く、幅広いユーザーをカバーできる品ぞろえになっている。

 格安というところでは、ZTEの「Blade E01」があり、コストパフォーマンス重視であれば、同じZTEの「Blade V7 Lite」やASUSの「ZenFone Go」も選べる。もう少し値段が張っても、プラスアルファの機能を重視したいというのであれば、税込みで3万円台前半になるHuaweiの「P9 lite」や、富士通の「arrows M02」「arrows M03」もある。国産のハイエンド端末には、シャープの「AQUOS mini」も取りそろえた。

 個人的な印象では、Huaweiの「P9」など、もう少しハイエンド寄りの製品があってもいいように思えたが、開始間もないMVNOとしては、十分なラインアップといえる。そもそもLINEモバイルはドコモのネットワークを使用していることもあり、ドコモ端末はそのまま利用できる。端末のセット販売は、あくまでドコモ以外から移ってきたユーザーの受け皿だ。そこに、これだけのバリエーションがそろっていれば、十分といえる。

 ユーザー数に対して端末の種類が多いようにも思えるが、「調達サイクルを最大限短期間で回すようにしている」(舛田氏)ため、在庫を抱えるリスクも低くなるという。こうした体制を取っているため、在庫を抱えすぎた結果、セールで大幅に割引せざるを得なくなるということもなさそうだ。

 一方で、端末ではLINEらしさを出さなかった。「LINEスマホ」のようなものを期待していた向きもあるが、規模が限定されるMVNOだと、どうしても調達台数は少なくなる。そのため、幅広く流通しているSIMロックフリー端末と比べ、どうしてもコストパフォーマンスを出しづらくなる。開始間もない今は、ケースなどのアクセサリーで“LINEらしさ”を出す方が、現実的といえるだろう。それでも、これだけのラインアップをきっちりそろえてきたことは、高く評価できる。

 よりLINEらしさが出ているのは、マイページなどがLINEと連携しているところにある。LINEでは、公式アカウントの仕組みを使い、データ残量などをワンタッチで確認できる。事前の連携設定は必要だが、Webに飛び、都度IDやパスワードを入れるよりも、手順として分かりやすい。ユーザー同士でデータ容量を融通し合う仕組みも入っているが、それも公式アカウントからワンタッチで行える。現時点ではできることは限られているが、拡張の仕方次第では、よくある質問にそのままLINE上で答えたり、プラン変更をコマンドで行えたりといったこともできそうで、よりLINEらしさを出せる仕組みといえるだろう。

●知名度の高さは群を抜いているが……

 予想以上に、通信事業者としての流儀を踏まえたサービスだったLINEモバイルだが、やはりその知名度の高さは群を抜いている。10月1日まではあくまで「ソフトローンチに近い」(嘉戸氏)形で、契約者数も2万に限定しているが、本サービスが始まればその勢いを増すはずだ。MVNO市場では、楽天モバイルやU-mobile、イオンモバイルなど、既存事業のブランドを生かした事業者が伸びているが、LINEモバイルもその一角に食い込むことができるかもしれない。

 ただし、そのためには、乗り越えなければならない壁がいくつかあるようにも感じた。もっとも大きな課題が、販路だ。「チャネルは増やしていきたい」(嘉戸氏)というものの、現状では、まだWebのみの提供で、独自ショップもなければ、家電量販店での取り扱いもない。一部の流通はLINE側に接触しているようだが、実現にはまだまだ時間がかかる。LINEモバイルのサービスを始めた理由の1つに「スマホの比率を上げていきたい」(舛田氏)というものがあり、フィーチャーフォンユーザーも大きなターゲットになっているが、そうであれば、よりリアルな販路の重要性が増すはずだ。

 販路とも関連するが、端末も現状では一括販売のみとなっており、5万円を超えるAQUOS miniなどを購入するハードルは高い。舛田氏も「オフラインであれば、割賦のようなものはあった方がいい」と述べており、こうした販売の仕組みは、販路を拡大する際に導入される可能性は高そうだ。

 また、LINEモバイルの話を聞く限り、通信品質は重視しているようだが、ユーザー数の増加とのバランスをどう取っていくかのかじ取りも、まだ見えていない部分だ。現状では、MNOとほぼ変わらない速度が出ているが、これはユーザー数が少ないため。MVNOは借りている帯域をユーザー同士でシェアする仕組みのため、同じ属性のユーザーが集まりすぎると、特定の時間に通信が極端に遅くなってしまうことがある。現状では、ビジネスマンが多く、お昼休みにあたる12時台が、MVNOにとって頭の痛い時間帯だ。

 LINEのMVNOということで、ユーザーの属性が既存のMVNOよりも多様になれば、トラフィックが分散され、速度が安定する可能性もあるが、現時点ではそれも断言できない。ユーザーが殺到して、混雑しすぎる可能性もゼロではないため、本サービス開始まで、予断を許さない状況といえる。逆にいえば、こうした課題が1つ1つクリアになっていけば、LINEモバイルの存在感はさらに大きくなりそうだ。

最終更新:9月14日(水)13時2分

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