ここから本文です

半導体業界、次なる買収ターゲットは?

EE Times Japan 9月13日(火)10時40分配信

■大型M&Aが続く半導体業界

 2016年の世界半導体業界は、これまでの9カ月近くで既に、2015年に続く超大型合併買収の波に襲われた年となっている。2015年と異なっているのは、2016年の方が買収契約の数が少ないにもかかわらず、買収金額がかなり高額の案件があるという点だ。例えばソフトバンクは、ARMを3兆円超の現金で買収すると発表している。

 このように買収金額が上昇していることを受け、湧き上がってくる疑問は、「現在買収ターゲットとして残っている企業は?」「“掘り出し物”といえる企業は?」などではないだろうか。

 半導体メーカーが引き続き買収に意欲的である要因としては、半導体業界の成長が全体的に減速していることの他、コストの上昇、ベンチャーキャピタルによる投資の減少、利益率の低さなどが挙げられる。

 しかし、米国の市場調査会社であるIC Insightsでマーケットリサーチ担当シニアアナリストを務めるRob Lineback氏は、EE Timesのインタビューに対し、「2016年の半導体市場では、“残存効果”が起こっている。メーカー各社は現在も、2015年に発表された合併買収に反応しながら、有利な地位を得ようと画策している」と述べる。「つまり、M&Aの波によって、さらなる波が引き起こされているのだ。買収がうまくいかなかった(あるいは買収合戦に乗り遅れた)企業が次のターゲットとなっている。こうした状況が落ち着くまでには、この先1年を要するだろう」

■買収先が減っていく?

 英国のプロフェッショナルサービスファームPricewaterhouseCoopers(PwC)のコンサルタントであり、US Semiconductor Advisoryの責任者を務めるRakesh Mehrotra氏と、同じくコンサルタントでUS Technology Deals Leaderを務めるRob Fisher氏は2016年8月、EE Timesの取材に対し、「合併買収の余地はまだ十分にある。過去18カ月間と比べると、ペースはやや遅くなるものの、合併買収の波は今後も続くだろう」と述べている。

 また両氏は、「今後は、よく似たレベルの中規模メーカーが、規模を拡大するために合併買収を行うとみられる。また、合併買収を試みたもののうまく実行できなかった企業が、より規模の大きい企業の買収ターゲットとなるだろう」と述べる。

 EE Timesは、どの企業が次なる買収ターゲットになるのかを確認すべく、複数の業界アナリストや観測筋にインタビューを行った。どのメーカーが、なぜ必要とされるのか、その理由について説明していきたい。

■今後、統合が進むと予測される分野は?

 PwCのMehrotra氏とFisher氏は、簡潔に、「アナログ/ミックスドシグナル技術」と「サーバ/データセンター市場」の2つの分野を挙げている。

 両氏は、「アナログ/ミックスドシグナル技術は、IoT(モノのインターネット)市場で成功を収める上での鍵となる。同市場では、現実世界の信号を正確に測定、モニタリングできる技術の他、特に電池駆動のデバイスの電力消費量を効率的に管理するための技術が不可欠だからだ」と述べる。

 また両氏は、「より細分化された一部の分野では、合併買収に向けた準備が整っている。こうした分野ではこれまで、合併買収活動が比較的少なかった」と付け加えた。

 IoTは、非常に幅広い分野を網羅しているため、さまざまな技術分野をターゲットとした合併買収が行われることになるだろう。

 米国の市場調査会社であるSemico Researchの社長を務めるJim Feldhan氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「メーカーが、IoTへの対応準備として自社の製品シリーズを完成させるためには、コネクティビティ/無線、マシンビジョン、パワーマネジメント、センサー、MEMS、セキュリティ、マイコンなどに関連するアナログ技術が必要だ」と指摘する。

 さらに同氏は、「MEMSやセンサー市場は、今後も変化し続けるだろう。2015年に合併買収が相次いだのは、多くのメーカーが、自社の技術をセンサーフュージョン向けに対応できるようにしたかったからだ」と付け加えた。

 市場調査会社であるIHS Markitでパワー半導体担当シニアアナリストを務めるJonathan Liao氏も、Feldhan氏のこの見解に同意する。Liao氏は、「IoTは、電球から貨物船に至るまで、インターネットに接続可能なあらゆるモノを対象とする。このため、IoTを目指す企業は、さらなる多様化の実現を目指し、合併買収戦略においてターゲットを細かく絞り込んでいく必要があるだろう」と述べる。

 さらに、合併買収活動に向けて機が熟したとされるもう1つの市場が、サーバ/データセンター市場だ。

 PwCのコンサルタントたちは、「サーバ/データセンター市場では現在、プロセッサメーカー各社が競争を繰り広げていることから、合併買収の新たなフィールドになるとみられる」とみている。「プロセッサメーカーは通常、自社のプロセッサ製品を補完するために、プログラム可能なハードウェアアクセラレーションを入手しようと、FPGA技術の獲得に必死だ。特に、ARMサーバ市場では、現在まだ初期の段階ながら競争が激化していることから、こうした中での足掛かりとなり得るターゲット企業に注目が集まるだろう」(両氏)

 Semico ResearchのFeldhan氏は、「今やほぼ全ての企業が、合併買収の格好の標的となり得る」と指摘する。

 とはいえ、IC InsightsのLineback氏は、「全体的にみると、買収対象の優良候補となるのは、売上高が10億米ドル未満の中規模の半導体チップメーカー(特に、Intersilのような売上高5億米ドル前後のメーカー)や、パワーマネジメントや無線通信、組み込みプロセッシングソリューションなどの市場でリーダーシップを持っているメーカーなどのようだ」と述べる。

 同氏は、「時間の経過とともにターゲット企業の数が減ってくると、合併買収による事業の成長や拡大を目指す企業が、プレッシャーを受けるようになる」とも説明した。

 まずは、2016年9月13日にルネサス エレクトロニクスが買収すると発表したIntersilを取り上げたい。

 IHS MarkitのLiao氏は、ルネサスはIntersilが持つ、パワーマネジメントやデータコンバーターといった汎用アナログ製品群を手に入れることになり、ルネサスにとっては大きな価値があると述べる。

 Liao氏が「ルネサスはIntersilの買収によって、より幅広い分野、とりわけ産業分野での顧客を得ることになる」と考える一方で、IC InsightsのLineback氏は、ルネサスの狙いは車載になるとみている。Lineback氏は、Intersilを買収することで、ルネサスは車載や航空宇宙の分野で存在感を高めることができるだろうとしている。

 実際、2015年におけるIntersilの売上高は5億2200万米ドルで、そのうち3分の2は産業およびインフラシステム(車載および航空宇宙向けを含む)分野での売上高が占めている。

 ただし、Intersilの売上高は、2010年以来、縮小している。2010年の売上高は8億2200万米ドルだった。2015年も、2014年の5億6300万米ドルから7%減少している。

■Maximの行方

 Deutsche Bank(ドイツ銀行)のアナリストは最近、研究レポートの中で、「半導体市場における合併買収が長期にわたり続く要因となっているのは、成長の減速とコストの上昇だ。このため今後も、さらなる合併買収が続くとみられている。こうした中で最も注目を集めているのが、Maxim Integrated(以下、Maxim)だ」と述べている。

 Maximをめぐる買収については、これまでにもさまざまなうわさが飛び交ってきた。

 IC InsightsのLineback氏は、「MaximはこれまでM&Aの波には参加してこなかった。だが、Texas Instruments(TI)やAnalog Devices(ADI)とは、“買収される対象として”交渉を進めていたともいわれている」と述べる。同氏は「ただし、TI、ADIともに、金額の面から買収合意には至らなかったと考えられる。その後ADIは、Linear Technology(リニアテクノロジー)を148億米ドルで買収すると電撃的に発表した」と語った。

■Xilinxの魅力

 半導体業界のM&Aにおいて、最も魅力的だと考えられる買収ターゲットは、Xilinx(ザイリンクス)を置いて他にはないだろう。

 Semico ResearchのFeldhan氏は、「Xilinxは魅力的だ。その理由は、IntelがAlteraを“よい買い物”だと判断したのと同様で、サーバアプリケーションや通信インフラ市場アプリケーションにとって重要となるプログラマブルなファブリックを手掛けている点にある」と説明する。

 Feldhan氏は、「Qualcommはサーバやその他のインフラ製品向けのウェハーテストを行っているため、Xilinxは同社にとって価値がある。しかし、XilinxはAlteraよりも高い買収額を要求すると考えられ、Qualcommは現時点ではその額を投じる準備はないと思われる」と指摘している。

 確かに、Xilinxの時価総額は137億3000万米ドルと非常に高額だ(2016年8月時点)。

 Intelは、2015年末にAlteraを167億米ドルで買収し、「データセンターとIoT市場で、FPGAを搭載したプロセッサの開発をリードしていきたい」と語っている。

 IC InsightsのLineback氏は、「プログラマブルロジックは、サーバプロセッサや通信、一部のIoTアプリケーション分野で関心の高い技術だ」と指摘し、「QualcommがIntelのAltera買収に匹敵する買収先を探しているのであれば、Xilinxとの取引は理にかなっている」と述べた。

 同氏は、「Qualcommは同社のSoC(System on Chip)を、IoT機器などの組み込みシステムやサーバに搭載しようとしている。このためQualcommにとってプログラムロジックは欠かせない要素である。とりわけIntelが同様の路線で進んでいくとなると、なおさらQualcommにとって、Xilinxはノドから手が出るほど欲しい存在となるだろう」との見解を示した。

■見逃せないLattice

 Lineback氏は、「Xilinxと同じように、Lattice Semiconductor(ラティス セミコンダクター)も魅力的な存在だ」と述べている。

 Reuters(ロイター通信)は2016年2月、「Lattice Semiconductorは、米国の投資銀行Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)に依頼して売却先の候補となるメーカーの情報を集めている。その中には、中国企業も含まれている」と報じた。

 中国政府系の技術企業であるTsinghua UniGroupが、2016年5月に米国証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)に提出した書類(Schedule 13D)によると、Tsinghua UniGroupは、Lattice Semiconductorの発行済み普通株式の約8.65%に当たる1029万5154株を取得している。なお、Schedule 13Dは、公開会社の5%以上の株式を取得した者がSECに提出する報告書である。

 Semico ResearchのFeldhan氏は、「Lattice Semiconductorには、中国とのつながり以外にも利点がある。プログラマブルロジックに特化しているわけではなく、IoTアプリケーションにも長けている。さらに、Xilinxほどハイエンドの製品を手掛けているわけではないので、製品の価格帯もリーズナブルである」と述べている。

 Lineback氏も、「Lattice Semiconductorは、プログラマブルロジック製品ライン以外にASSPを持っている。同社は、2015年にSilicon Imageを約6億700万米ドルで買収してASSPを獲得した。さらに、WiGigに使われるミリ波技術のような次世代ワイヤレスネットワーク向けの接続技術にも通じている」と述べている。

IoT分野でのM&Aは?

 次に、IoT領域に注目してみよう。米Silicon Labsは、幅広いIoT向けポートフォリオを持ちながらいまだに“独立”を保っている珍しい企業である。

 IC InsightのLineback氏は、Silicon Labsが“格好の買収ターゲット”であり続けている理由について、「Silicon Labsが損失を計上したのは過去10年間でたった1四半期のみ(2011年第1四半期に200万米ドルの損失を計上した)である上に、IoT関連の強力なポートフォリオを備えている。同社のポートフォリオには、ZigBeeやThreadといった無線メッシュネットワーク向けの製品や、低消費電力の32ビットARMマイコンなどが含まれている」と述べる。

 IoT分野において、Silicon Labsは卓越したM&A戦略を実施してきたことで知られている。同社は2012年にZigBeeチップベンダーのEmberを買収した後、2013年にエネルギー効率に優れたマイコンを展開するEnergy Micro、2015年には無線モジュールベンダーのBluegiga Technologiesを買収することで、IoTポートフォリオを拡大してきた。

 だが、Silicon Labsの強さはハードウェアだけではない。同社は独自のソフトウェア開発ツールというさらに強力な武器を持っているのだ。

 BroadcomのIoTチーム(2015年にCypressが買収)と同様に、Silicon LabsはソフトウェアRAIL(Radio Abstraction Interface Layer)のようなツールと、独自のアプリケーション向けに設計された無線ネットワーク用ソフトウェアスタック

「Connect」と呼ばれる無線ネットワーク向けソフトウェアスタックを、IoT製品の拡大の鍵となる技術として見ている。

 だが、Silicon Labsは安くはない。

 24億米ドルという時価総額(2016年8月時点)は、「既に大規模な資金を企業買収に投じたかもしれない潜在的な買い手にとっては高いハードルとなる」とLineback氏は分析した。

■Marvell

 Marvell Technology Group(以下、Marvell)は、買収のターゲットとしてはあまり言及されない企業だが、一部の買い手にとっては興味深い存在になり得る。

 Lineback氏は、「Marvellは財政的に苦境に陥っているものの、自動車向けプロセッサやSoC、クラウドコンピューティングシステム、IoT、マルチメディア向けアプリケーションなど幅広い事業を展開しているほか、FLC(Final-Level Cache)など、メモリ分野でのイノベーションを実現している。また、モジュールをブロックのように組み合わせてSoCを設計するプロジェクト『MoChi(Modular Chip)』を通じて、ICアーキテクチャの最適化にも取り組んできた」と記した。

 Lineback氏の説明によると、Marvellの難点は「スマートフォン部門(アプリケーションプロセッサとコネクティビティソリューション)において業績の低迷が続いていること」だという。

 アクティビストヘッジファンドのStarboard Valueは、2016年にMarvellの株式の6.7%を獲得したが、その後同年6月にMaximの元エグゼクティブであるMatthew Murphy氏をMarvellの新たなCEO兼プレジデントとして雇い入れた。Murphy氏は過去22年間にわたり、Maximのセールスおよびビジネス部門を率いてきた人物である。

 Starboard ValueがMarvellの事業の一部をスピンオフしたり、事業全体を売りに出したりする可能性もある。だが次の動きは何も明らかにされていない。

■IDT

 IDTの元CEOであるTed Tewksbury氏とStarboard Valueの18カ月に及ぶ争いは、よく知られている。

 だが、Starboard Valueとの一件が起こる以前から、IDTは経営状態のよい堅調なメーカーとみられていた。IC InsightsのLineback氏は、「IDTは、1990年代から買収のターゲット企業として名前が挙がっていた」と述べる。

 IDTは、タイミングデバイスなどの中核製品を軸に、ワイヤレス給電ICなどのRF製品や「RapidIO」など、順調に製品群を拡大してきた。だが、Starboard ValueがIDTの経営に関わるようになってからは、エンタープライズ向けフラッシュコントローラー事業をPMC-Sierraに、スマートメーター事業をAtmelに、データコンバーター事業をAppleに売却した。もしIDTが高速データコンバーター製品を手放さなければ、4.5G(第4.5世代移動通信)や5G(第5世代移動通信)の市場でも勝負できたかもしれない、とする専門家もいる。

 Lineback氏は、IDTの存在感は、2015年12月にドイツのZMDIを3億700万米ドルで買収してから高まったと述べている。ZMDIは、車載および産業分野で強みを持っているからだ。

■中国企業によるM&Aも活発に

 半導体のターゲット市場の成熟に伴って、半導体業界の成長スピードが緩やかになっているのは明らかだ。それでも、自動車と産業機器、医療の分野は成長が期待されていると、PwCのMehrotra氏とFisher氏は述べる。両氏は、各半導体メーカーは、これらの分野でのシェア拡大を狙って競争を繰り広げていくだろうとみている。

 鍵となるのはコストだ。両氏は「ムーアの法則の減速により、開発のコストと設計の複雑さは増すばかりだ。研究開発への投資に伴うリスクも高くなっている。これも、半導体業界でのM&Aを後押しする要因になっている。M&Aによって企業の規模が拡大すれば、より多くの利益を確保できるはずだからだ」と述べた。

 加えて、中国企業によるM&Aも増えている点に注目したい。Lineback氏は「中国は、外国メーカーに頼っている半導体技術を自国内で活性化させるべく、M&Aを積極的に行っている」と説明した。

最終更新:9月13日(火)10時40分

EE Times Japan