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生き残りへ辛うじて挑戦権を得たルネサス

EE Times Japan 9月13日(火)15時43分配信

■成長のための手元資金3900億円

 2016年9月13日、ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は、米国のアナログ半導体メーカーIntersilを32億1900万米ドル(約3274億円)で買収すると発表した。

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 2013年の第三者割当増資(1500億円)などで獲得した手元資金約3900億円をどこに投資するのか、ここ数年注目されてきた中で、ルネサスが選んだ投資先は、中堅アナログ半導体メーカーだった。

■黒字転換も、成長見えぬ状況続く

 2010年の設立以来、赤字体質から脱却できなかったルネサスは、2013年に産業革新機構などの出資を受け、元オムロン社長の作田久男氏をCEO(最高経営責任者)に迎え、本格的な構造改革に着手。当時、売上高の35%程度を占めた“成長が見込めない事業”からの撤退を決め、従業員数、工場も半減させてきた。そうした大胆な構造改革を実施してきた結果、2015年3月期、2016年3月期と2期連続で二桁パーセントの営業利益率を確保し、会社設立以来の大目標だった“黒字体質”へと転換した。

 しかしながら、売り上げ規模に関しては、不採算事業からの撤退影響などが響き、縮小の一途をたどる。設立初年度(2011年3月期)は1兆1379億円あった売上高は、2015年3月期は7911億円まで減少し、世界半導体市場シェアも10位圏から脱落した。

 2015年3月期に営業利益率13%超の達成を受け、構造改革成し遂げた作田氏は後任に成長を託す形で退任。後任のCEOには元日本オラクル社長の遠藤隆雄氏が就き、売り上げ成長を伴う本格的な成長路線への転換が期待されたが、遠藤氏は半年でCEOを辞任。成長路線への転換は、頓挫した。

■成長遅れる中で進んだ業界再編

 その間、ルネサスを尻目に、競合は積極的な投資を展開した。Infineon TechnologiesはInternational Rectifierを、NXP SemiconductorsはFreescale Semiconductorを、それぞれ買収。この2件の買収により、ルネサスは長く守ってきた“車載半導体シェア首位”の座から陥落し“車載半導体シェア3位”にまで後退。成長路線への転換の遅れ以上に、再編が進む半導体市場で存在感を失い続けてきた。

 そうした中で、ようやく遠藤氏の実質的な後任CEOとして、カルソニックカンセイCEO、日本電産副社長を歴任してきた呉文精氏が2016年6月に就任。成長路線への転換に向け再スタートを切った。

 呉氏は就任当初から、約3900億円の手元資金を、開発費と共に、企業の買収や提携に使用することを示唆。買収、提携先としては「われわれと組んで競争力が出るところ」とし「市場で売り出されている企業、事業を買わない」と戦略的な買収、提携策を仕掛けると話していた。

 そして、就任から3カ月も経過しない中で呉氏は、手元資金の大半に相当する3274億円を使い、Intersilの買収を決断した。

■弱点補うパートナー

 Intersilの主力は、電源用半導体を中心にしたアナログ半導体だ。ルネサスも、これまで「アナログ&パワー事業」として同半導体を展開してきたが、マイコンやSoC事業に比べ、世界的な競争力は弱かった。そうした点で、Intersilは、ルネサスにとって、事業を補完する“良きパートナー”であることは間違いない。

 地域別売上高を見ても、Intersilは、地元米国とアジアが大半を占め、逆に日本や欧州での売り上げ規模は小さい。ルネサスがIntersil製品を扱うことで、日本や欧州での売り上げ拡大も十分見込める。さらに、Intersilは、産業機器向け、宇宙航空向け、サーバ向けなどを得意とするものの、自動車向けの売り上げ規模は小さく、ルネサスが自動車向けでテコ入れできる余地は小さくない。

 ルネサスとIntersilは補完関係にあるものの、懸念材料もある。

■買収後のアナログ半導体シェアは3%

 まず、アナログ半導体市場におけるルネサスの存在感はIntersilを買収しただけでは、あまり増さないだろう。現状、アナログ半導体市場におけるルネサスのシェアは2%程度であり、Intersilのシェアは1%程度。合わせても、3%程度にとどまる。一方で、アナログ半導体メーカーの再編が進んでいる。ON Semiconductorは、間もなくFairchild Semiconductorの買収を完了させる見込みである上、Analog DevicesはLinear Technologyを買収することで合意した。アナログ半導体シェア上位企業のM&Aにより、ルネサスはIntersilを買収しても、シェア上位陣との差は開くことになる。

 「アナログ半導体市場は寡占化進んでいる。そこに一石を投じる千載一遇のチャンスだった」(呉氏)とするが、今回の買収はその“寡占化するアナログ半導体市場”で生き残るための挑戦権を得ただけにすぎない。生き残りを図るためには、相当な勢いで、Texas InstrumentやAnalog Devices、Infineonなどのシェア上位陣を追い上げなければならない。

 まだ再編途上のアナログ半導体分野での売り上げ規模、シェアを考えるのであれば、もう1段のM&Aを仕掛ける必要がある。だが、ルネサスには、その余力はあまりないだろう。従って、ルネサスはIntersil買収効果を最大限、かつ、迅速に発揮しなければならないことになる。

■早急に相乗効果は発揮できるか?

 相互に製品を販売するクロスセル面では、早い段階から一定の効果を上げることは可能だろう。だが、ルネサスのマイコンやSoCと、Intersilのアナログ製品を組み合わせたソリューション展開による本格的な相乗効果発揮には時間がかかる見込みだ。一般に、アナログ半導体の開発期間は長い。両社の製品を合わせ込んだソリューション展開には2~3年はかかる。そこから売り上げ計上まで考慮すると効果の発揮には4~5年かかることになる。そうした時間軸で、M&Aでも先行している競合他社に、太刀打ちできるかどうかは疑問だ。

 さらにルネサス自体が、海外事業を買収し成功した実績に乏しいことも懸念材料だ。ルネサスの海外企業買収経験は、前身の1つルネサス テクノロジ時代に約180億円でNokiaのモデム事業を買収した程度だ。しかも買収事業は業績低迷が続き、2013年に売却している。現CEOの呉氏は過去、カルソニックカンセイ、日本電産などで企業買収を経験しており、今回のIntersil買収の成否は、必然的に呉氏の手腕によるところが大きくなる。

 再編が進む半導体業界で生き残る上で、現状のルネサスに与えられた選択肢はあまり多くなかった。その中で、Intersilの買収は、最良といえる選択だっただろう。しかし、繰り返しになるが、現時点では、生き残るための挑戦権を辛うじて得ただけにすぎない。早急な売り上げ拡大、シェア拡大が求められている状況に変わりはなく、まだまだクリアしなけらばならない課題は多い。

最終更新:9月13日(火)16時6分

EE Times Japan