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にゃん太郎 鹿児島の無人駅で観光客を出迎え大人気 「観光大使」に就任したにゃー

デイリースポーツ 9月13日(火)20時40分配信

 1903(明治36)年に開業し、鹿児島県最古の木造駅舎として知られるJR肥薩線の嘉例川(かれいがわ)駅(鹿児島県霧島市)。山間にある小さな無人駅でいま、地元の人たちや観光客の間で人気のオス猫がいる。名前は「にゃん太郎」(推定5~6歳)。白と茶色のりりしい毛並みに、宝石のような澄んだ水色の瞳。今年5月に地区の「観光大使」に就任すると「にゃん太郎を一目見たい」と駅を訪れる人が増えた。どんな猫なのか会いに行ってきた。

 木造駅舎が開業当時の姿で現存し、国の有形文化財に登録されている嘉例川駅は、霧島の観光名所の一つ。鹿児島中央駅と吉松駅を結ぶ観光列車「はやとの風」(1日2往復)が、約5分間停車するたびに、乗車中の観光客がレトロな雰囲気の駅舎を見学しようとホームに降り立つ。

 駅舎内にある「にゃん太郎」と書かれたハウスの隣で座っているにゃん太郎を見つけると、「かわいい!」「たぬきみたい(笑)」などと言いながら、いっせいにカメラが向けられた。知らない人に囲まれたりなでられたりしても、にゃん太郎はビクともせず、きょとんとした顔でカメラを見つめる。

 にゃん太郎が同駅に現れたのは昨秋のこと。にゃん太郎の世話をしている嘉例川地区活性化推進委員会委員長の山木由美子さん(68)は当時の様子をこう話す。「去年の11月ころ、駅に突然現れ、駅舎に置いてある観光パンフレットのトレイの上で寝泊まりするようになったんですよ。いつまで駅にいるかわからないけど、いる間だけでも面倒をみてあげようと思って、ちょうど寒くなってきた時期だったので、エサのほかに使い捨てカイロなどを持っていってあげたのがはじまりでした」。

 不妊去勢手術をしたという印が耳に残っており、地域猫として世話をしてもらっていた可能性があるが、どこからやって来たかはわからないという。通学で駅を利用している中高生たちが、毎日駅で寝泊まりしているにゃん太郎を見て、そっと布団をかけてあげたり、地元の人たちからベットのかごや首輪をプレゼントされたりと、「それから少しずつ所帯道具が増えていった(笑)」と山木さん。

 中高生たちは毎朝夕、「にゃん太郎、バイバイ」と声をかけ、近所に住むおばあさんは「私のおもりをしてくれるのよ」とにっこりほほえむ。にゃん太郎は次第に地区の人気者になっていった。遠方からやってくるファンも多い。宮崎県都城市からきていた介護施設経営の野瀬洋さん(42)は写真が趣味。今年1月ごろ、にゃん太郎に出会って以来、今では週に1回のペースで駅を訪れている。

 「人がたくさん来ても周りに流されず、常に自然体でマイペースなのが魅力」といい、これまでに撮ったにゃん太郎の写真は3千枚以上。「写真集を出すのが夢」と話す。

 同駅には今年3月まで豪華クルーズトレイン「ななつ星in九州」が夜間に停車し、鉄道ファンらの注目を集めていたが、4月のルート変更で嘉例川駅を通らなくなり、その後の話題づくりが観光の課題だった。そこで山木さんら委員会は、にゃん太郎に一肌脱いでもらおうと、嘉例川地区の観光大使に任命。ゴールデンウイークの5月5日には、同駅で任命式が行われ、JR九州からはキャットハウス、霧島市の前田終止市長からはキャットフードが贈られた。

 任命式のことが新聞やテレビで報じられると、駅には大勢の人たちが「にゃん太郎に会いたい」と訪れるようになった。当初はスリムだったが、お客さんからお土産を与えられて、体重は5キロ近くまで増加。そのため駅には「食事を与えないで」との張り紙を貼らなければならなくなった。

 人気が出たことに加え、夏休みに入ると、猛暑続きでにゃん太郎は夏バテ気味に。1日に午前と午後の2回、氷枕をにゃん太郎のために駅まで持っていくのが山木さんの日課となり、扇風機も設置したが、日中はダウンする日が続いた。そこで、それまで駅に寝泊まりしていたにゃん太郎だったが、夜は快適に過ごせるようにと、8月初めから、山木さんは駅から車で3分(徒歩で10分)のところにある自宅に連れて帰り、朝になると駅へ連れていくようにした。

 ところが8月のお盆のある日のこと。朝7時に山木さんが駅に連れていくと、「にゃん太郎がきた!」と、すでに子ども連れの観光客らが大勢待ち構えていたという。ひとまずにゃん太郎を駅に置いて、自宅に戻った山木さん。「10時半ころ、そろそろ氷枕を持っていこうかと家を出ようとしたときでした。にゃん太郎が駅からとぼとぼと歩いて戻ってきて、へばってしまったんです。人が多いのと暑いのとで耐えられなかったんでしょう。人が歩いて10分もかかる私の家まで、それもいつもは車で行き来している道のりを、ひとりで戻ってくるなんて…もうびっくりして。ふつうなら逃げ出すかもしれないのに、私に助けを求めて帰ってきたんだと思って。けなげなその姿を見たときは涙が出てね…ごめんね、にゃん太郎、お母さんが無理をさせてしまったと…」。

 山木さんは涙ぐみながらそう振り返った。9月に入ったいまは、にゃん太郎の「勤務時間」を8時から17時までと決めている。「駅のハウスの隣に置いてある募金箱のお金が貯まったので、先日、予防注射を打つことができました。獣医さんからは『ストレスが少したまっているかもしれないので気をつけるように』と言われました」といい、これからは体調管理により一層気をつけるつもりだ。

 夕方5時、迎えにきた山木さんは、駅舎のカウンターに座っていたにゃん太郎を抱きかかえ、「にゃん太郎のこと、お母さんがずっと守るからね」と、モフモフの茶色い頭の毛に顔をうずめた。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)

最終更新:9月13日(火)21時2分

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