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料理アシスタントロボットからディスプレイ付き冷蔵庫まで――欧州スマート家電の最新事情

ITmedia LifeStyle 9/13(火) 17:22配信

 ドイツの首都、ベルリンで年に1度開催されるエレクトロニクスショー「IFA」は、白物家電の展示会・見本市としては世界最大級の規模を誇るイベントだ。IFAに集まるブランドの展示を俯瞰すれば、スマート家電の最先端が垣間見えてくる。今回は筆者が2016年のIFAの会場を回って見つけたスマート家電を紹介しよう。

シーメンスとボッシュが開発するキッチン用のアシスタントロボット「Mykie」(マイキー)

●IFAで力のこもったスマート家電を発表した欧州の3大ブランド

 IFAには毎年ヨーロッパを代表する家電ブランドのSiemens(シーメンス)、BOSCH(ボッシュ)、Philips(フィリップス)が参加している。3つのブランドは数年ほど前から競ってヨーロッパにおけるスマート家電のトレンドをリードしてきた。IFAは彼らにとって重要な製品やサービスを発表する絶好の機会になっている。

 とはいえ、日本の方々にとってはドイツのシーメンスとボッシュはコンシューマー家電のメーカーとして馴染みが薄いかもしれない。初めてIFAに足を運ぶとびっくりするかもしれないが、両社のブースには冷蔵庫や洗濯機、IHクッキングヒーターをはじめ、掃除機やアイロンなどのスモールアプライアンスまで、バラエティ豊かなコンシューマー家電があふれている。IFAに集まるベルリン市民、ドイツ国民、そして世界のトレードビジターにジャーナリストも両社のブースにはいの一番に足を運ぶほど注目されている。もっとも、一般来場者が集まる理由は、ブースに行くとキッチン家電で作った料理の試食や、コーヒーメーカーで淹れた美味しいコーヒーが無料で味わえるからなのかもしれないが。

 シーメンスとボッシュは、ヨーロッパにおけるスマート家電のプラットフォームを設立する目的でBSH Hausgeraedeという会社を合弁で立ち上げた。両社のコラボはうまく行っているかと思われたが、2015年にボッシュがシーメンスの保有する同社の50%の株を取得して完全子会社にしてしまった。まあ、その結果両社が立ち上げた「Home Connect」のプラットフォームからシーメンスが抜けてしまったわけではないので、両社の役割分担が次のステップに進んだというだけのことかもしれない。ただ、両社のブースを歩いてみると、それぞれに同じカテゴリーの製品を揃えてはいるものの、コンセプトの見せ方に違いがあることも見えてくる。

 ボッシュは今年、大々的に「インターネットにつながる家電」をアピールしていた。様々な製品カテゴリーの垣根を取り払ったオープンな展示スペースに、天井からWi-Fiの電波が降ってくる様子をイメージしたというイルミネーションのオブジェを張り巡らせて、ボッシュはコネクテッドデバイスに自信ありという姿勢を強く打ち出した。

 ボッシュのインターネットにつながる家電の種類は実に多岐に渡る。例えば冷蔵庫は扉の内側にカメラを付けて、スマホからインターネットでカメラにアクセスすると、冷蔵庫の中味が分かって、今日買い足すべき食材などが把握できるという筋書き。今後はアマゾンが展開するeコマースのシステムとも連携して、足りない食材を速やかにネットショッピングで注文するという流れにも発展していくようだ。そして、同社が来年発売を予定しているインターネットにつながる新しいスマート家電は「IHクッキングヒーター」。スマホアプリから加熱するプレートのエリアを細かく設定したり、インターネット経由で参照したレシピに合わせて、ヒーターの温め方やタイマー設定をコントロールできるようになる。キッチンに立つ家族のための、賢いパートナーが誕生しそうだ。

●シーメンスが展示したキッチンのアシスタントロボット「マイキー」

 一方でHome Connectの相方であるシーメンスは、IFA2016のブースにスマート家電を展示していないわけではないが、特にそれぞれがつながる魅力を前に押し出す感じの展示ではなかった。アイテムの種類や幅、それぞれの完成度についてはボッシュに追いつき、凌ぐものも多々ある。例えばインターネットにつながるフルオートのコーヒーメーカー「EQ.9 Connect」。スマホやタブレットにアプリを入れて、楽しみたいコーヒーの濃さ、ミルクの割合、アロマの強さなどを設定してカップを置けば、手軽においしいコーヒーがつくれる。カスタマイズした設定も10件まで保存できる。価格が2200ユーロ(約25万円)とかなり高価なのがちょっとアレではあるのだが。

 シーメンスのブースを歩いてみると、スマート家電は同社のプレミアムモデルとして、ネットにつながることだけを殊更にアピールするのではなく、まずはそれぞれにスタンドアローンでできることをしっかり伝えていこうとする姿勢がうかがえる。例えば食材を新鮮なまま保存できる冷蔵庫、手間なしで衣類をきれいにできる洗濯機など、アイテムごとの価値をしっかりと訴求しながら、その中で差別化する1つの機能として、インターネットにもつながってますます便利になる付加価値を提案するという考え方だ。

 でも実はシーメンスのブースには、突出してスマートでギークな家電製品のプロトタイプが展示されていた。キッチンの相棒ロボット“Mykieくん”だ。一見すると大阪万博のあの方のようなルックスだが、この子はいま、シーメンスとボッシュが一緒になって推進するHome Connectプラットフォームのコントロールセンターを担う予定の“パーソナル・キッチン・アシスタント”だ。

 例えばキッチンに立つ家族のため、“鍋に水をはって”、“ほら、お湯が沸いてきたらまずにんじんを入れて”といった具合に、おせっかいを焼きながらレシピに沿った調理をサポート。美味しい料理をつくるところまで導いてくれる。背面にはプロジェクターユニットを搭載して、キッチンの白い壁にレシピや、包丁の使い方の動画などを投写。料理がうまくできるまでとことん応援する。顔の所にカメラを搭載して、家族の顔を認識して、コーヒーを飲みたい時にその人の好みに合った設定でコーヒーメーカーを起動してベストな一杯を淹れてくれる。「近い将来に実用化をかなえたい」(シーメンスの説明員)と期待されている製品だ。インターネットにつながる冷蔵庫や洗濯機より、もう少し先の家電の未来のために仕込み中の試作機だが、とっても夢があるじゃないか。

 そもそも、スマート家電は人工知能(AI)とは切っても切れない仲にある。いくら外出先からでもスマホを使って、自宅のスマート家電が動かせるようになったところで、それは本当に豊かな暮らしが手に入るまでの1つの通過点に過ぎない。最終的にはユーザーの生活パターンを学習して、あるいはユーザーの意図を自動的に汲んで家電やロボットが“勝手に”ユーザーの生活をヘルプしてくれることがゴールではないだろうか。だとすれば、シーメンスのMykieのような司令塔がわが家には必要だし、あるいは1つずつの製品にインテリジェンスが組み込まれていかなければならない。

●スマートなヘルスケアに注力するフィリップス

 ボッシュとシーメンスの展示からは、両社がホームネットワークにつながるスマート家電の価値をそれぞれのやり方で強く訴求する姿勢がうかがえた。老舗の両ブランドが根気よく開発を続けていけば、やがてヨーロッパには本格的なスマート家電ブームが訪れるかもしれない。期待を強く感じさせてくれた。

 もう1社の“欧州の雄”であるオランダのフィリップスの視線は「ヘルスケア」の方に向いていた。電動歯ブラシのソニッケアーシリーズは日本でもお馴染みだが、その新製品「Sonicare FlexCare Platinum Connected」は、本体に内蔵するセンサーで歯ブラシを動かすスピードや、歯に当てた時の圧力を検知。Bluetoothで接続されたスマホアプリ「Philips HealthSuite」の画面に表示される口内の3Dマップに、歯の磨き方に関するアドバイスを表示しながら、正しく磨く習慣を身につけることができる。アプリ経由で歯磨きのデータをクラウドに送って、歯科衛生士のコーチングを受けられるようにするサービスも視野に入れているようだ。

 もう1つ、フィリップスが展示した面白い製品は「Sonicare Breath」だ。こちらはユーザーの口臭を検出するための小さなスマート家電。孔が空いている突起の方を軽く歯で噛んで、スマホ側で専用アプリを使って計測すると数秒程度で口内に発生するバクテリアを含むガスの濃度を検出。その人の口臭レベルを判定してくれる。

 筆者も体験してみたが、思いのほか測定は速やかに完了する。これなら毎日手間なく使えそうだ。口臭レベルは幸い「GOOD」と判定された。本製品は199ドル前後で米・英から販売を開始。来年にヨーロッパ上陸を予定する。使ってみて気になったのは、口臭レベルが分かったところで、これを解消するための方法をアドバイスしてくれない限りは楽しめないということ。短いデモだったので、その辺がどのようにフォローできているのか確認できなかったのが残念。日本上陸の機会にはぜひ、本製品を体当たり取材してみたい。

●欧州で高まる防犯意識とともに、人気急浮上のセキュリティ家電

 話題は変わって、ヨーロッパのホームセキュリティ事情について、IFAで取材したことを報告しよう。日本でニュースを見聞きしていても、フランスやドイツなどヨーロッパの先進国と呼ばれる地域の治安が以前よりも少しずつ不安定になってきているようだ。幸い、筆者が今回ベルリンに滞在している期間中には大きな事件も起きず、自身も危ない目にあうことはなかったのだが、周囲からはiPhoneを盗まれる被害にあったり、思わぬ治安維持関連のトラブルに巻き込まれたという声も聞こえていた。何事もなく平穏に見えるドイツの人々の暮らしの中でも、自分の身は自分で守るという意識が高まりつつある。

 その動向はIFAの会場のあちらこちらに、スマート家電として沢山の出展社がセキュリティカメラや、これに関連するソリューションを並べていたことからも端的に分かった。先ほど紹介したボッシュも、Home Connectのプラットフォームに乗せる新しい商品として、屋内・屋外に設置できる360度撮影対応のセキュリティカメラとアプリを発表。コンシューマーが個人でも手軽に設置できるスマートな防犯システムを紹介していた。同社の担当者に聞いてみても、ヨーロッパではいま防犯対策用の家電を求める声が高まっているという答えが返ってきた。

 同じような説明をIFAに出展するパナソニックの担当者からも聞いた。同社は日本国内でもスマホなどモバイル機器と家に設置したさまざまな家電がつながって実現する「スマート@ホーム」のソリューションを提案している。日本国内の場合は犯罪者対策というよりも、離れて暮らすお年寄りの家族を“見守る”ためだったり、留守中にも愛するペットをケアするためのコミュニケーションを目的としたデバイスという色合いが強い。

 一方でヨーロッパの場合は、より明確に防犯をサポートする製品がユーザーのニーズに響くとパナソニック担当者も語っていた。同社のブースではスマートホームソリューションとして、ガラス破壊探知機や人感センサー付きLED、Wi-Fiカメラなどの防犯関連製品にスポットを当てていた。またドイツ国内では大手保険会社のアリアンツとパートナーを組んで、ホームセキュリティや機器にトラブルが発生した際のレスキューも含めた24時間対応のコールセンターサービスをスタートさせる。

●全自動洗濯物折りたたみ機やタッチディスプレイ付き冷蔵庫に人だかり

 このほかにもパナソニックは今年のIFAで来場者の注目を集めるスマート家電のコンセプトを展示していた。1つはキッチン・ダイニングでの生活動線を、同社が誇るディスプレイやセンサーの技術を活用して変革するインフォメーションボードだ。ワインセラーに保管したワインや日本酒などに関連する情報をディスプレイに表示するだけでなく、「この日本酒のテイストに合う料理」のレシピをインターネットから呼び出し、食材をeコマースサイトからダイレクトに調達できる。また料理のレシピをホームネットワークにつながっているシステムキッチンに送ると、調理をサポートする音声アシスタントが起動。ダイニングのガラス棚に組み込んだディスプレイには、シェフ直伝の解説付きレシピ動画を再生して、料理が苦手なユーザーをとことんバックアップするという未来のスマートなキッチン&ダイニングだ。

 またパナソニックがセブンドリーマーズと大和ハウスと共に開発する、全自動の洗濯物折り畳み機「ランドロイド」もIFAでそのコンセプトが披露された。日本では昨年のCEATEC JAPANに出展されて話題を呼んだランドロイドは、パナソニックが開催したプレス向けの記者会見でも大きな歓声が上がるほど脚光を浴びた出し物の1つになった。まずは衣類をきれいに折り畳むギミックを完成させ、以後順番に洗濯・乾燥、アイロンがけまでのステップを構築。2019年にランドロイドとしての商品化を目指す。

 来場者の注目を浴びた製品といえば、韓国Samsung(サムスン)の21.5型タッチディスプレイ付きの冷蔵庫「Family Hub」シリーズだ。年初に北米で開催されたCESでベールを脱いだ製品が、いよいよ年末に欧州の先進国で展開される予定。Tizen OSをオペレーティングシステムとして、宅内のサムスン製スマート家電と連携して冷蔵庫がコントローラーになるだけでなく、ディスプレイにテレビの映像をDLNA経由で映したり、スマホの画面をミラーリングして楽しむことなどができる。シリーズ名は、家族が集まる生活空間であるダイニング・キッチンにスマートライフを提供するハブをつくるという発想に由来している。

 同じく冷蔵庫にタッチディスプレイを付けた製品をLGがプロトタイプモデルとして出展した。こちらはOSにWindowsを使った点が特徴。天気やスケジュールのインフォメーション表示にとどまらず、VODや音楽を楽しむためのエンターテインメントツールとしての活用を提案しているところもサムスンの製品と重なる。

●筆者が気になるあの製品がインターネットにLinkした

 シーメンスのロボットやサムスンのディスプレイ付き冷蔵庫など、一見すると突拍子もない発想のように感じられるかもしれないが、それぞれにスマート家電が秘めている可能性に期待を感じさせてくれる商品だ。筆者もつい、スマート家電がインターネットにつながってできることの損得から考えがちだが、IFAに集まる来場者は昔から意外にピュアなところがあって、ロボットや“世界初の○○”みたいなコンセプトをうたう製品やサービスを素直に応援するところがある。テクノロジーが険しい壁を乗り越える時に、それを後押しするのはより豊かな暮らしや利便性の向上を求める周囲の期待と情熱だったりする。IFA2016に登場した未来の技術やサービスが、今年の来場者の後押しを受けて思っていたよりも早くモノになる可能性だってある。来場者の反響を肌で感じて思った次第だ。

 最後に、IFAで発表されて、筆者も個人的に気になる新製品を紹介したい。ダイソンの「Pure Hot+Cool Link」だ。名前からもお分かりの通り、現在発売されている空気清浄機と温・涼両方の風が送れる「Pure Hot+Cool」の、アプリとつながるスマート版だ。発売されるカラバリはホワイト/シルバー、アイアン/ブルーの2色は変わらず。北米では599.99ドルで販売もスタートした。

 筆者はこの夏のはじめに「Pure Cool Link」を導入して、夏場はわが家で大活躍してくれた。だが秋を迎えるにあたって、心のどこかで「これ、冬場はどうしようか」と心配が首をもたげてきたことも確かだった。空気清浄機能はもはや不可欠な機能なのだが、「寒い冬に送風機能はいらないかもしれないな。Hot+CoolがLinkできるといいのに」と考えていた矢先、思いのほか早いタイミングで商品化されてしまった。これが出たところで、わが家でPure Cool Linkと一緒に過ごした夏に一切のケチはつけたくないのだが……、何とも悩ましい。日本での発売のアナウンスを複雑な気持ちを胸に、でも期待しながら待ちたい。

最終更新:9/13(火) 17:22

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