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醸造もモノづくり…光学機器メーカーの技術者がクラフトビールで街を活性化「さいたま市の氷川ブリュワリー」

産経新聞 9月14日(水)11時45分配信

 小規模な醸造所で既存製品にはない個性を生み出す「クラフトビール」。さいたま市では初となるその工房「氷川ブリュワリー」が、同市大宮区にオープンしたのは2年前だ。併設するパブ「氷川の杜」も切り盛りするオーナー、菊池俊秀さん(60)は、以前は光学機器メーカー、ニコンの生産技術部門の技術者だった。「ものづくりという意味で、技術者の仕事と醸造は同じ」と話す菊池さんが目指すのは、地域に根ざしたクラフトビールづくりで「街を活性化し、自分の街を自慢できるようにすること」だという。

 ■脱サラ決意

 転機は平成25年に訪れた。4月、大宮駅東口のロフトが撤退。エキナカ人気もあり「このままでは駅改札から人が出てこなくなる」と地元商店街などは危惧した。その会合に参加した菊池さんの前で、「街を歩き回る目的があればいいのに」「地ビールはどうだろう」「つくるのが大変じゃないか」。そんな会話があった。「つくること自体は難しくない」。茨城県の酒造会社で醸造体験をしたことがあった菊池さんは、助言したつもりだった。

 「なら、やってください」

 街中に小さな醸造所があり、地元企業と連携しながら地元産野菜や果物のエキスなどを使ったビールが醸され、市民たちが気軽に寄ってそれを楽しみ、会話を交わす。人と人、会社と会社がクラフトビールを通じて有機的につながっていく。「街を活性化させるためのクラフトビール工房」の構想は、「最初は私一人の夢を描いていたが、みんなでそれを回し読みしていろんな意見を言ったりしている間に、みんなの夢になっていった」と菊池さん。

 「さいたま市ニュービジネス大賞2013」に応募した事業プランは、コミュニティビジネス賞を同年11月に受賞。12月にニコンを早期退職、そして26年1月に氷川ブリュワリーを設立した。

 ■定番から漢方まで

 パブの脇にはモルトとホップを煮込む釜が醸造所のシンボルのように置かれ、店内10個のタップから個性豊かなクラフトビールが注がれる。定番のほかに、シナモン、朝鮮ニンジンなど地元企業が調合した漢方を使った「漢万(かんばん)エール」(ハーフ650円)は、漢方特有の苦みがビールの苦みと重なるユニークさだ。

 ニコンではレンズ内の超音波モーター製造装置などを担当した。「30年やった生産技術は、世の中にないものを自分で設計、開発してつくるのが基本で、ビールの味の設計も同じ。いかに安定して安くつくるかという観点で取り組み、条件が振れたら味がどう変わるかを見るのも共通している。自分の好きな物は自分でつくりたくなるという職業病ですね」

 一部のクラフトビールは瓶詰製品を大宮高島屋で限定販売。瓶についたマークには、近くの武蔵一宮氷川神社の社紋「八雲」もモチーフとしてあしらわれている。「大宮には土産物がないと言われていたので、自分の街を伝えるための、街を自慢するためのコンテンツとして使ってもらえたらうれしい」と語った。(さいたま総局 鵜野光博)

最終更新:9月14日(水)11時45分

産経新聞