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<アスベスト問題>名古屋市、最悪の高濃度飛散を1年公表せず(井部正之)

アジアプレス・ネットワーク 9月13日(火)6時0分配信

◆地下鉄・六番町駅 当初公表の100倍以上のアスベスト飛散

2013年12月、名古屋市の地下鉄・六番町駅で起きたアスベスト飛散事故は、これまで最大で空気1リットルあたり700本のクロシドライト(青石綿)とされてきたが、実際には1リットルあたり7万5000本というとんでもない濃度だったことが明らかになった。(井部正之)

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新たな測定データは筆者が名古屋市に対して実施した情報公開請求により判明した。

同市交通局は市営地下鉄・六番町駅の換気機械室のアスベスト除去工事を2013年12月から実施した。ところが、現場を外気から遮断して密閉し、アスベストの除去を開始した同12月12日から翌13日にかけて、駅構内にもっとも発がん性の高い青石綿が飛散した。

当時の発表ではこの際のアスベストの飛散は最大で1リットルあたり700本とされた(アスベスト以外の繊維も含む「総繊維濃度」では同1100本)。今回情報公開により入手した分析データは、同じ試料を改めて透過型電子顕微鏡(TEM)で分析したものだ。

2015年5月28日付けで市に報告された分析結果によると、アスベスト濃度はすでに述べたように1リットルあたり7万5000本というとんでもない高濃度であった。

かねて測定データが存在するアスベスト飛散事故としては「過去最悪」とされてきたが、当初発表の100倍超に更新したことになる。

分析結果がこれほど高濃度だった理由の1つは、この分析が光学顕微鏡では視認できない微少なアスベスト繊維まで数えているためだ。しかし、通常の計数方法である、長さ5マイクロメートル(マイクロ=μは100万分の1。1000分の1ミリメートル)以上、直径0.2~3マイクロメートル未満に限っても、1リットルあたり3100本となる。この測定値でも当初発表の4倍超であり、やはりワースト記録の更新は間違いない。

◆検討会に1年以上も報告せず

市は2014年5月以降、この飛散事故の健康影響について外部有識者による「六番町駅アスベスト飛散にかかる健康対策等検討会」(座長:那須民江・中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科教授)で検証してきた。

もともと今回委託した、通常よりもさらに微細・微少なアスベストの同定は同検討会で委員の1人が実施を求めたものだ。問題は、市が2015年5月末には今回の分析結果を入手していながら、1年以上にわたって同検討会でも報告せず、実質的にその存在を“隠ぺい”してきたことにある。

名古屋市交通局営繕課の濱田祥孝課長に質すと「隠してないです。決して放置しておいたということではない。検討会で諮る予定でいた」と否定する。

しかし、今年2月に委託したアスベスト繊維40本の長さと直径を調べる詳細調査については、3月4日付けの報告からわずか1か月足らずで開催された3月25日の第6回検討会において委員に説明している。同じ詳細分析でもこの扱いの差はあまりにも不自然だ。

これら2つの詳細分析結果から浮かび上がるのは、微細・微少なアスベスト繊維の分布をある程度でも検討会に報告することで委員が満足してくれるのではないかと市が考えたのではないか。つまり、今年3月の報告により、委員からそれ以上に詳細な分析データを求められることがなく、最大7万5000本(通常測定でも3100本)という超高濃度の飛散を隠し通そうという隠ぺい疑惑である。

アスベスト被害者の支援活動に取り組み、検討会の傍聴をしてきた名古屋労災職業病研究会(代表:森亮太杉浦医院院長)の成田博厚事務局長は「隠しているとしたらとんでもない話。検討会をやっている以上、新しいデータが出てきたら報告し検討会の判断をあおぐのが当然です。事故の原因究明もうやむやになっており、(同じように)『過去のもの』として隠してしまおうと思ったのではないか」と指摘する。

市側は隠ぺい疑惑については情報公開請求に対し非開示や不存在と回答しなかったことを理由に否定した。仮に百歩譲って隠ぺいではないにせよ、1年以上も検討会で報告をおこたったのは間違いない。これは地下鉄利用者や住民らの健康リスクを検証する検討会を軽視する行為といわざるを得ない。

市に分析結果の評価を聞くと「どのように健康被害の評価にこの結果を使っていくのか、今後検討会の中で諮っていく形で決めていきたい」と濱田課長は答える。

ならば、すぐ報告するのが当然だろう。その間2回の検討会での報告を見送り、1年以上もあえて報告しないというのはあまりにも不自然だ。すぐ報告しないといけない重要データではないのか。濱田課長は「そういうふうには思っておりません」と否定。

ではいつ報告する予定だったのか。濱田課長の回答は「タイミングですか。決めておりませんでした。当面出さないことも決めておりません」という無責任なものだ。

それを放置してきたというのだろうと問い詰めると、「結果的にはそうかもしれませんが、大事なデータですのできちんと取り扱う」(濱田課長)と報告をおこたってきた事実をようやく認めた。

なぜ1年以上も報告をおこたったのか。その理由についても散々尋ねたが、まともな説明はなかった。高濃度飛散を示す、市にとって都合の悪いデータだから放置してきたということだろう。

前出・成田事務局長は「結局、市が真剣に今回の飛散事故に向き合ってないということだと思います」と市の対応ぶりを批判する。

市は9月16日に第7回となる検討会を開催する予定であり、今回の分析結果も報告される見通しだ。そこで1年以上も隠ぺいあるいは放置してきた不始末について市がどのような謝罪や釈明をするのか注目したい。

最終更新:9月14日(水)21時55分

アジアプレス・ネットワーク