ここから本文です

前のめり安倍首相、変化なしのプーチン大統領

ニュースソクラ 9月13日(火)13時0分配信

北方領土問題、12月の日ロ首脳会談に注目

 今月始めのウラジオストクでの日ロ首脳会談は良好な雰囲気の中で終わった。関係改善への動きは勢いを増したようである。

 懸案だったウラジーミル・プーチン大統領の訪日も決まった。肝心の北方領土問題解決への展望も明るく開けてきたかのようにもみえる。

 だが、プーチン大統領のこの問題に関する姿勢に何らかの具体的な変化があったのかと言うと、それは見当たらない。安倍晋三首相はまずはロシアへの経済協力を柱に信頼醸成に力を入れながら、プーチン大統領の懐柔を図るのだが、功を奏するかどうか、見通し難だが、試みる価値はあろう。

 安倍首相は会談後、北方領土問題の解決へ「手応えを強く感じることができた」「2人だけでかなり突っ込んだ議論ができた。新しいアプローチに基づく交渉を今後、具体的に進めていく道筋が見えてきた」と強調した。だが、そう判断した具体的な根拠は示さなかった。会談で北方領土問題をどう話し合ったのかは明らかでない。

 ロシア側はセルゲイ・ラブロフ外相が会談についてブリーフィングしたが、両首脳が平和条約問題についても話し合ったと述べただけだ。

 安倍、プーチン両氏は55分間、側近を除いて2人だけで話し合ったというから、その場で、北方領土問題について具体的に議論した可能性はある。
 
 しかし、プーチン大統領が安倍首相との会談の前日に米通信社のブルームバーグと会見し、そこで述べたことは、基本的には従来の姿勢の繰り返しだ。安倍首相に対し具体的な譲歩を示したとは考えにくい。

 ウラジオストクでは首脳会談が重要であったことは当然として、もう一つプーチン大統領のブルームバーグとの会見に注目しなければならない。

 この会見では対日関係への言及は全体の中の一部だが、プーチン大統領は要旨次のように述べた。
 
 1)南クリール(日本でいう北方領土)の領有は第2次世界大戦を処理した国際条約によって承認されている。
 
 2)日本との平和条約の問題は重要で、勝者も敗者もない解決策を見つけたい。
 
 3)ロシアと中国の間に培われてきたような信頼関係が日ロの間に形成されれば、何らかの妥協を見出せるだろう。
 
 4)1956年の日ソ共同宣言は両国の国会で批准されている。しかし、双方がそこでの合意を実行しなかった。

 プーチン大統領が北方領土問題の存在を認知していることは明らかで、ロシア外務省などのように領土問題の存在それ自体を否定したがる傾向があることを考えると、プーチン大統領は現実的だ。

 だが、ブルームバーグに対する発言からは従来の姿勢を軟化させたと判断することはできない。勝者も敗者もない解決策というのは、従来から合意されている「双方に受け入れ可能な解決策」と同じ意味だろう。「妥協」という言葉もプーチン大統領は以前口にしたことがある。

 1956年の日ソ共同宣言は、平和条約締結後にソ連が歯舞、色丹の2島を引き渡すとうたっている。プーチン大統領はこの共同宣言が両国で批准されていると言及することで、2島なら引き渡すことがありうるし、それが「妥協」案だと言いたいのだろうが、これも以前と変わりない。

 ウラジオストクで目立ったのは安倍首相の対ロ関係改善への積極姿勢だ。ロシアは極東の開発とアジア太平洋諸国との経済関係拡大のため昨年、東方経済フォーラムを立ち上げ、今回の会議は2回目。安倍首相がこの会議に出席したことは米欧から経済制裁を課せられているプーチン大統領にはうれしかったに違いない。

 安倍首相は、会議に出席するにあたって、ロシア経済分野協力担当相を新たに設け、世耕弘成経済産業相を任命した。今年5月、ソチでの会談の際に「新しいアプローチ」を提唱、その成果を北方領土問題解決につなげたいとの方針を打ち出しており、その姿勢を一段と鮮明にした。

 今後は経済関係の拡大を通じてプーチン大統領が言う中ロ間並みの高い水準の信頼を築く努力を傾けるのだろう。

 安倍首相はウラジオストクでの演説で「このままではあと何十年も同じ議論を続けることになる」と強調した。安倍首相が北方領土問題について「妥協」という言葉を口にしたことはないと思うが、信頼醸成の行く先には妥協を考えているのかもしれない。

 そこまで思い詰めているとすれば、それは南シナ海や尖閣諸島周辺における中国の最近の強引な政策と無関係ではないだろう。ロシアとの関係改善は対中牽制の強力な手段となる。

 領土問題の解決には強力な指導者による政治決断が必要だ。どのような解決策も指導者が国民を説得できなければ成立しない。プーチン大統領は高い支持率を受け、任期も再選されれば2024年まである。

 安倍首相についても任期延長論が出ている。両氏が政権の座にいる間が、解決への好機だろう。

 だが、現段階では北方領土問題解決への展望が開けてきたと判断するのは時期尚早だ。まずは12月の山口県での会談が注目される。

■小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
現在、国際教養大学客員教授。

最終更新:9月13日(火)13時0分

ニュースソクラ

いかにして巨大イカを見つけたか
人類は水中撮影を始めたときから巨大イカ(ダイオウイカ)を探し求めてきました。しかしその深海の怪物を見つけることは難しく、今まで撮影に成功したことはありませんでした。海洋学者であり発明家でもあるエディス・ウィダーは、ダイオウイカの初の撮影を可能にした知見とチームワークについて語ります。