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「量産はぶっちゃけタフ」IoTハードウェアスタートアップに赤裸々話を聞いてみる

アスキー 9月14日(水)7時0分配信

8月26日に開催された「IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP」の熱く盛り上がったカンファレンスセッション。その中からQrio・Moff・BONXの3社が登壇した「IoTハードウェアスタートアップ 気になる量産化の裏側」の様子を紹介する。
 8月26日に開催された「IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP」では5コマのセッションが実施され、熱く盛り上がった。今回は、その中から「IoTハードウェアスタートアップ 気になる量産化の裏側」の様子を紹介する。
 
Qrio、Moff、BONXの代表が勢揃い!

 14時からスタートした「IoTハードウェアスタートアップ 気になる量産化の裏側」のセッションCでは、Qrio株式会社の西條晋一氏、株式会社Moffの高萩昭範氏、株式会社BONXの宮坂貴大氏が登壇。モデレーターはASCIIの北島幹雄。
 
 セッションのテーマは、ハードウェアスタートアップの量産化について。大きなリソースを自由に使えるわけではないスタートアップの場合、量産はとても大きなリスクにもなりうる。そのチャレンジを成功させ、日本にとどまらず世界での活躍を目指す気鋭の3社に、当時の世相から裏話までを絡めてトークしてもらった。
 
 最初に確認したのは3社の直近展開について。
 
 まずは、Qrioの西條氏から。Qrioは2014年12月に設立され、2015年にスマートロック「Qrio Smart Lock」をリリース。2016年5月にはスマートタグ「Qrio Smart Tag」を発表し、クラウドファンディングを実施した。本イベント直前では、Qrio Smart Lockを遠隔地から操作できる「Qrio Smart Hub」の今冬発売を発表したばかりだった。
 
 「IoT、主にBluetoothビーコンを使おうとすると、アメリカだとBLEに限らずいろんな通信規格のIoTゲートウェイトやハブがあります。しかし、日本では数が少ないうえに、それが結構高いんです。センサーが動いたことをインターネットにただアップする、シンプルに土管のようなものがあれば、いろいろなことができます。ないなら、自分で作ってしまおうと。ビーコン周りでプロダクトを持っておくと、新しい事業プランを思いついた時にすぐ実行に移せると言うメリットもあります」(西條氏)
 
 続くMoffの高萩氏は、元々メルセデス・ベンツの日本法人で商品企画部にいた。どちらかというと大企業ハードウェアの世界から来た人と言える。
 
 「メルセデス・ベンツを出た後アプリの業界に入ったのですが、やっぱりハードウェアがインターネットにつながったら面白いな、ということで始めたのがMoffのバックグラウンドです」(高萩氏)
 
 現在は「Moff Band」という3Dモーションを取るセンサーデバイスを作っており、Bluetoothでスマホと連携し、アプリ側でいろいろなことをできるようにしている。たとえば、目と耳だけでなく体全体を使って学ぶ多感覚教育に向けたICT教育や、モーションデータを使って高齢者の運動能力とか認知能力を測るという高齢者ヘルスケアサービスを作ったりしている。フィットネスの場合は、コンテンツを持っている事業者と一緒にゲーム感覚で楽しめるコンテンツを手がけているそうだ。
 
 BONXの宮坂氏は「僕は、この場にいるのが申し訳ないくらい、ハードウェアとかエンジニアリングのバックグラウンドがなくて」と苦笑しながらスタート。
 
 宮坂氏は大学にいるよりは山にいる方が長い生活を送るような大学生だったらしい。そんな中、子供にスノーボードを教えるNPOに参加して理事として運営に関わったいたが、滑っている時に仲間としゃべったり子供に教えるのがすごく大変だと感じた。せっかくスマホがあって、電波も入っているのに意外と使えない。そこで、作ったのが「BONX」だ。
 
 「BONX Gripという名前で、モノとしてはBluetoothヘッドセットみたいなハードウェアとスカイプみたいなソフトウェアをフルスクラッチで作って連動させています。どんな瞬間でもハンズフリーで話すことができるのが特徴です。去年末に僕らもクラウドファンディングを成功させ、11月からは一般販売が開始されます」(宮坂氏)
 
 モデレーターの北島は、「こういうカンファレンスイベントでも使えるのではないか。アスキーとしても次のタイミングでは是非導入したいと思う」と盛り上げた。
 
数年前まではハードウェアをやるのは変わった人しかいなかった
 この3社は、スタート時期が少しずつ異なる。1年で大きく変わる業界の変遷を、当時の周辺状況などをもとに聞いてみることに。まずは、2014年に販売を開始したMoffの高萩氏から。Moffは2014年4月にクラウドファンディングのKickstarterに出したが、試作品を手がけはじめたのは2013年くらいとのことだった。
 
 「その時は、ハードウェアスタートアップをやるのは、変わった人しかいませんでした。リスキーじゃないのか、と皆に言われましたが、Cerevoの岩佐さんだけが『絶対やったほうがいいですよ』と言ってくれたんです。当時は、ハードウェアのデザインをやってくる人が見つからなかったし、工場もなかなかスタートアップのもの作るなんて、みたいな感じだったし、クラウドファンディングも今みたいにメジャーではなかった」(高萩氏)
 
 手探りのスタートだったようだが、メルセデス・ベンツで商品企画や量産、アフターケアなどを体験しており、モノを作る際の感覚はあったという。また、Moffはエンジェル投資家の鎌田富久氏に投資してもらっており、いろいろなアドバイスを受けたのも大きかった。2014年は、まだ環境的にハードウェアスタートアップが浸透していない時期だったが、高萩氏はクラウドファンディングにチャレンジする。
 
 「おかげさまでKickstarterに出したら、2日間で目標を達成できました。そのころのKickstarterは人が滞留していた感じだったので、プロモーションしなくても集まる感じで、ラッキーな環境。あとは、いろんな国の人とやりとりして、すごい楽しかったですね。たとえば、発送を1週間ずらしたときに、品質面で自分たちとして納得がいかないと正直に伝えたところ、『おまえは正直者だ。おまえはサムライだ』と(笑)。あれは嬉しかったですね」(高萩氏)
 
 Qrioの西條氏は2015年。ハードウェアスタートアップはやめた方がいいんじゃないのか、という空気感は薄れていたそうだが、それでも「やった方がいいよ」という意見もほとんどなかったという。
 
 「考え方的には、解決したい課題があって、それを解決するためにデバイスが必要なので開発するという感じ。物を研究していて、商品化したいからどうしよう、という発想ではありませんでいた」(西條氏)
 
 スマートロックの場合、鍵の保管コストが課題だった。物理的な鍵はきちんと管理しないと盗まれるし、受け渡しにも移動が必要。誰が開け閉めたのかという履歴も残らない。これらを解決するためには、スマートロックが必要だと考えたのだ。西條氏はサイバーエージェント出身。同社出身でモノ作りをしている人はあまり見かけないが……。
 
 「あまりいないですね。サイバーエージェントはほとんどの事業領域を手がけていると思いますが、昔からeコマースが苦手で(モノは)あまりやってないですね」(西條氏)
 
 Qrioも2015年初頭、クラウドファンディングにチャレンジしている。「Makuake」を使い、結果的には2700万円以上を集めて大成功した。
 
 「資金調達というよりは、PRやマーケティングが目的でクラウドファンディングを利用しました。価格の際に参考にしたのは、KickstarterやINDIEGOGOなどに出ている類似商品です。海外のスマートロックが集めている5分の1~10分の1くらいの金額はいけるかなという感じで。一番集めていたのが3~4億円だったので、3000万円くらいは、なんとか行きたいなと思いました」(西條氏)
 
 BONXは2015年秋。クラウドファンディングは、「GREENN FUNDING」を利用し、成功している。
 
 「当初は、クラウドファンディングを使う気はありませんでした。達成しなかったらどうしよう、とびびりまくっていたんです。そんなとき、たまたま共同創業者の先輩がGREENN FUNDINGさんの社長さんで、うちでやりましょうよという話になって(笑)。一番よかったのは、コミュニティができたことです。製品を出荷した後、すごく長いフィードバックのメールをくれたり、何回も電話してきてくれて、ここがこうなんじゃないかと言ってくれる方がいて。そういうのは開発陣営としてはありがたいんです」(宮坂氏)
 
 ハードウェアにかかわりがない状況からのスタートで、開発メンバーはどう集めたのだろうか。すると「結構怒られました」と宮坂氏。
 
 「イベントに行って『誰かイケてるエンジニアいないですかね』という話をしたら、『そういうやつは本当に嫌われるんだよ』と説教されたりしました。そこで、自分でプログラミングを勉強したり、いろいろなところに行って紹介してもらったりして、少しずつ集めました」(宮坂氏)
 
IoTのスタートアップは人を探すだけで
1年とか2年が過ぎてしまう
 開発の人材というのはどこも苦労しているようで、残りの二人も口をそろえる。高萩氏は、ハードウェアのデザイナーに頼むのに苦労したそう。西條氏はソニーの開発力を利用したが、「自分で人を集めているスタートアップはすごい!」と感心する。
 
 「IoTのスタートアップは人を探すだけで、1年とか2年が過ぎてしまうくらい、発見が困難なんです。Qrioがそこを自前でやろうとすると、たぶんスマートロックの開発は1年以上遅れたと思います。人をちゃんと集めてやっている会社ってすごいな、って思います」(西條氏)
 
 とは言え、外部の開発リソースを使う、という点で苦労もあったようだ。
 
 「Qrioサイドがハードウェアに無知すぎたので、とてもコミュニケーションのロスがありました。たとえば、『モーター回して鍵を開ければいいだけ』と思ってしまうと、なんでこれやるのに3ヶ月もかかるんだろう、と感じてしまうんです」(西條氏)
 
 モノ作りをしているメーカーにとっては当たり前のことだが、インターネット業界は短いサイクルでビジネスを進めるのが当たり前になっているので、より違和感があったそう。しかし、ハードウェアを出して不具合があればリコールになるし、怪我や事故があればさらに問題になる。そのモノ作りの時間軸や感覚をつかむのに半年以上かかったと言う。
 
 大量の量産は、資金の問題や工場選びなどハードルが高く、最後は根性、という意見もよく耳にする。量産に関して、どんなことがあったのだろうか。
 
 「基本的に量産は大変です。車を作るときも部品点数が多いのでいろいろあるし、間違えると人を殺しかねません。そういう意味では、大企業もスタートアップも変わらないなと思います。単純にスタートアップは人が足りないとか、経験がないということなので、それは違う方法で補えばいいんです」(高萩氏)
 
 「ハードウェアの量産は、数千万円後半くらいからかかってくるので、普通のインターネットビジネスと比べるとベンチャーには結構タフな事業だと思います」(西條氏)
 
 「量産がぶっちゃけタフだったなと。経験があるメンバーや工場を揃えて、万全だなと思ったんですが、相当不具合とか出て本当に苦労しました。Bluetoothヘッドセットでは経験も実績もある工場だったんですが、やっぱりBONXはファームウェアを始めものとして特殊なんです」(宮坂氏)
 
アメリカはチャンスは大きいが国土も広大すぎるのが問題
 3社とも海外にも展開、もしくは展開予定だ。中でも、アメリカの広大さに直面しているのが、高萩氏。
 
 「契約の規模感でいえば、アメリカは本当にでかいですね。とある小売りチェーンで大きい規模の受注の話をしていても、どこの地域のどこに配られるのかわかりません。つくづく思うんですけど、アメリカはチャンスもめちゃくちゃくれるし、市場の広さでも底が見えないくらい大きいのですが、国土がでかすぎる、という問題もありますね」(高萩氏)
 
 とかくハードウェアでの海外展開には課題が多いようだ。
 
 「Qrioも海外からも多数の問い合わせをいただいています。ただ、海外は鍵の形状が違うんです。サムターンの台座が大きくて取り付けのところを工夫しなければならないとか、ヨーロッパだと鍵を2回転させなければならないとか、そもそも手で思いっきり回さないと回らないとか。まずは、アメリカやアジアとかの鍵を調査することから始めています。正直売れるかどうかはわからないので、アメリカでやるときもクラウドファンディングを使うことになると思います」(西條氏)
 
 BONXも11月から日本と北米で同時にローンチする予定だ。
 
 「BONX Gripはアウトドアスポーツ全般、たとえばスノーボードだけじゃなくて、自転車とか釣りとかでも利用できます。その辺の事例作りを、スポーツならアンバサダーみたいな人に使ってもらったりというのをやっていきたいですね」(宮坂氏)
 
大ヒットが出て業界に人材とお金が流通するようになって欲しい
 最後に、今後のハードウェアスタートアップ業界にどうなって欲しいのか聞いたところ、そろえたように3社とも人材に関する内容の返答だった。
 
 「業界としては、高萩さんがはじめたときよりはそろってきていると思いますが、やっぱりハードウェア系のエンジニアを集めるのは相当大変なので、その方達がスタートアップの方にも来ていただけるといいなと思います」(宮坂氏)
 
 「センサーがなかったような現場にセンサーを入れるという業務だと、僕らだけで要件定義したり、お客さんに対応するのが難しい。一緒にやってくれる開発パートナーさんとか、代理店みたいなところがあったらいいなと思っています」(高萩氏)
 
 「大ヒットサービスがブレイクするとか、IPOで高い時価総額がつく企業ができたりして、大成功の事例が出てくると、人も流動化して、いい人材が集まってきますし、お金も動きます。IoTで出るとおもしろいことになると思うので、誰かが一発当ててほしいですね」(西條氏)
 
 Qrio、Moff、BONXのセッションは次から次への興味深いエピソードがあふれ出ておもしろかった。ぜひ3社とも大成功し、IoTハードウェアスタートアップの業界を盛り上げていただきたい。今後の動向も期待を込めて、目を離せないところだ。
 
 
文● 柳谷智宣 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

最終更新:9月14日(水)7時0分

アスキー

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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波のほんの数メートル下で、海洋生物学者であり、ナショナルジオグラフィックのエクスプローラーかつ写真家のデビッド・グルーバーは、素晴らしいものを発見しました。海の薄暗い青い光の中で様々な色の蛍光を発する驚くべき新しい海洋生物たちです。彼と一緒に生体蛍光のサメ、タツノオトシゴ、ウミガメ、その他の海洋生物を探し求める旅に出て、この光る生物たちがどのように私たちの脳への新たな理解を明らかにしたのかを探りましょう。[new]