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<AV問題>有識者「もっと現場の知見を」

毎日新聞 9月14日(水)7時0分配信

 12日に内閣府男女共同参画会議の「女性に対する暴力に関する専門調査会」(会長・辻村みよ子明治大法科大学院教授)が行ったアダルトビデオ(AV)出演強要問題に関するヒアリングでは、2人の有識者がそれぞれの見地から被害防止策や法制度上の課題などについて語った。調査方法論や性産業研究で知られる神戸大大学院国際文化学研究科の青山薫教授は「現場の内情を知るAV業界人をもっと調査に巻き込んでいくべきだ」と強調。刑事法や北欧法に詳しい琉球大大学院法務研究科の矢野恵美教授は、スウェーデン刑法との比較から「日本では性犯罪の範囲が狭く、AV強要の処罰には壁がある」と指摘した。それぞれの発言の概要を紹介する。【AV問題取材班】



□青山教授の発言概要



<海外のポルノ規制>



 EU(欧州連合)や米国では成人(18歳以上)が合意して出演するポルノは合法。ただし、EUにはレイプなどを扱う「暴力ポルノ」を違法とする国もある。米国は(1)わいせつである(2)「性的攻撃性」を規定した州法に抵触する(3)「芸術的」などの価値が認められない--の3要件がそろった場合、州法で制限できる。一方、アジア・アフリカ地域はポルノを違法・規制対象とする国が多い。



<注目すべき海外の知見>



 アメリカ国立衛生研究所が1980年代、アルコール依存症や薬物乱用の対策として打ち出した「危害軽減(ハームリダクション)アプローチ」は参考になる。「完全な禁欲」が現実的でない場合、どうすれば効果的に危険を減らせるかという具体策で、コンドームの無料配布などが10代の妊娠や性感染症の予防に効果を上げている。また、国連開発計画(UNDP)などが掲げる「エンパワメントアプローチ」も重要だ。取り締まりや規則でなく「当事者の力を引き出すこと」で事態を改善しようとする姿勢で、例えばセックスワーカーが主導するコミュニティーを支援すれば、人権じゅうりんを避けつつ継続的なHIV予防などを実現しやすい。



<調査に当事者の参加を>



 「エンパワメント」の考え方は、社会事象の当事者(マイノリティ)が中心となって解決策を探るという「当事者参加行動調査」の手法から生まれてきた。調査のプロセスを評価し、結果に織り込んでいくことが当事者の利益にもつながる。調査の実効性を高めるためにも現場を知る人を巻き込んでいくべきだ。AV強要に関する調査でも、内部の事情を知る人たちを「有識者」として扱い、こういった(国の調査会の)テーブルに招く必要がある。



<規制強化と「スティグマ」>



 フランスやノルウェー、オーストラリア、英国では性産業への規制強化がアンダーグラウンド(地下)化を招いたと報告されている。厳しく取り締まれば、産業がネットの世界に入るなどしてどこかへ行ってしまう。「スティグマ(汚名。ネガティブな意味のレッテル)」が強化され、労働条件は悪化し、働く人たちのネットワークが失われる。手段が目的を裏切り、当事者への危害を増やすことにならないかと危惧している。



□矢野教授の発言概要



<現行刑法の適用>



 日本の現行刑法でも処罰の可能性はある。「(出演しないと)撮った写真をばらまくぞ」と言えば「生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知」したことになり、脅迫罪に当たるだろう。しかし、「親にばらすぞ」だったら当たらないかもしれない。現場で意に沿わない行為をさせられたとすれば、強要罪に当たるのではないか。また、準強姦(ごうかん)・準強制わいせつ罪の「抗拒不能に乗じて」という要件は、モデル志望者を全裸にして撮影した事例(81年東京高裁判決)でも認められている。これは被害者が無知から「モデルになるには我慢しなきゃ」と思い込んだケースで、AV強要と親和性がある。



<立証、処罰の壁とは?>



 スカウトや事務所幹部など、現場にいなかった人の処罰には大きな壁がある。共同正犯、教唆犯、ほう助犯などの可能性はあるが「ゼロではない」という程度。現実には「あらかじめ相談している」「現場で犯罪を行う者に指示している」などの要件をなかなか満たしきれない。現場で行為をするのは男優だが、(強要されていることを)どこまで知っているのか。また、(面接や撮影は)基本的に密室で行われ、加害者は理論武装した複数の大人であるのに対し、被害者は若く1人である場合が多い。「契約があるから訴えても犯罪にならないぞ」などと脅されればあきらめてしまうから、そもそも警察に認知されない。



<スウェーデン刑法>



 「性犯罪は重大な人格権の侵害である」という基本的な考え方があり、捜査側にも「逃げ得」は許さないという強い思いがある。レイプ罪は、直接的な暴行だけでなく「深刻な恐怖を抱えていること」「その他の特別に危険な状況」などを不当に利用したと認められれば適用される。また、「社長とモデル志望者」のように明らかな地位の違いを利用すれば「依存状況にある者の性的利用の罪」が適用される。こうした条文はスウェーデンに限らず、かなり多くの国が持っている。被害者国選弁護人の存在もポイントだ。日本でも被害者の一部を日弁連などが支援しているが、より対象を広げた制度が必要ではないか。



<早期教育の必要性>



 刑事法には「被害が発生してからでなければ動けない」という限界があり、やはり啓発活動と教育が重要だ。啓発の対象は子供の親や教員にも広げるべきだ。親や教員の「だまされる方が悪い」という発言を聞いて相談できなくなったという子供も多い。また、「被害に遭わないように気をつけろ」という教育はスティグマを生むため、注意が必要だ。



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最終更新:9月14日(水)7時0分

毎日新聞

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