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『沿線格差』の著者に聞く、10年後に注目されそうな沿線・駅はココだ

ITmedia ビジネスオンライン 9月14日(水)7時57分配信

 「何か記事になりそうなネタはないかなあ」と思って、書店をウロウロしていたらちょっと気になるタイトルが目に飛び込んできた。『沿線格差』(SB新書)である。

【都電荒川線が見直される!?】

 2000年代に入ってからだろうか、「格差」という言葉がたびたび登場するようになったのは。「東京は人口が増えていて、儲かっている会社もたくさんあって、どんどん豊かになっている。一方の地方は人口が減っていて、これといった産業がなくて、どんどん疲弊している」といった感じで、東京と地方の「格差」をテーマにした報道を目にしたことは、一度や二度ではないはずだ。

 勝者と思われていた東京23区でも「富裕層が多い○○区が勝ち組」「犯罪件数が多い○○区が負け組」と言われたり、この「格差問題」から逃れることはできないのかなあと思っていたら、「沿線格差」である。「なんだこれは?」と思って、本のページをめくってみると、首都圏の主要19路線をピックアップして、沿線の勝ち負けを定義づけているのだ。「ブランドタウンが多くて」「接続路線が多くて」「乗客が増えていて」など7つの項目を数値化したところ、堂々の1位は「京急本線」、最下位は「西武池袋線」である。

 「なるほど、なるほど」と納得する人もいれば、「なぬーっ! ど、どういうことだ!」と反論する人もいるだろう。詳しい内容については本を読んでいただくとして、個人的に気になったのは、この本で書かれていない内容だ。

 さざまなデータを集めて、1位は「京急本線」、2位は……というのは話のネタとして面白い。しかし、本には登場していない19路線以外にも、何か隠された興味深いテーマが潜んでいるかもしれない。例えば、いまはパッとしないけれども、近い将来スポットが当たるかもしれない。10年、20年後に再評価される駅があるのかもしれない。そんな疑問を感じたので、著者「首都圏鉄道路線研究会」のひとり、ライターの小川裕夫さんに話を聞いてみた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。

●「都電荒川線」に注目

土肥: 東京23区に住んでいる人の所得水準をみると、1位は港区、最下位は足立区といった序列が存在していますが、沿線についてはあまり触れられてきませんでした。ただ、日常会話で「中央線はよく遅れるよね」とか「東急田園都市線はオシャレだよね」といった内容を交わしていると思うのですが、それを数値化した書籍はありませんでした。沿線の魅力を数値化するのは難しかったと思うのですが、個人的に気になったことがあるんですよね。

 本の中では主要19路線をピックアップして、「いまの状況」を分析されている。しかし、今後はどうでしょうか? 何が言いたいかというと、いまはまだ注目されていないけれど、10年後利便性が高まる沿線があるんじゃないかと。「そんな未来のことなんか分かるわけないじゃないか」と思われたかもしれませんが、無理を承知であえてお聞きしたい。本では紹介していないけれど、気になっている沿線はありますか?

小川: ありますねえ。

土肥: それはどの沿線ですか?

小川: 都電荒川線です。

土肥: 都電荒川線? またマイナーな……いや、失礼。都電荒川線は、荒川区南千住の三ノ輪橋駅から新宿区の早稲田駅を結ぶ路面電車ですよね。ワタシは10年ほど前に東京で働き始めたのですが、初めて都電荒川線を見たとき「いまの時代に、この東京で路面電車が走っているの!?」とびっくりしました。路面電車って前近代的なイメージがあるのですが、なぜその沿線に注目しているのでしょうか?

小川: 都電荒川線の1日の利用客数は5万人を切っているので、それほど多くの人が利用しているわけではありません。また距離も12キロほどなので長くはありません。ただ、乗っていただければ分かると思うのですが、ほとんどの駅にスロープが設置されているんですよね。階段があっても段差は少なく、すぐに乗れて、すぐに降りれる。動く歩道を長くしたような感じなんですよね。

 通勤しているビジネスパーソンにとって、鉄道の乗り換えって大変ですよね。階段を上って、下って。5分ほど歩いて、また上って、下って。そのような苦労を経験したことがある人って多いと思うのですが、都電荒川線は階段を数歩上ればホームがあるので、疲れにくいんですよね。また、駅も400メートルほどの間隔で存在しているので、バス停のような感じ。でもバスと違って、時間にあまり遅れません。

 首都圏で住んでいる人の多くは「地下鉄は便利だよね」と思っているかもしれませんが、路面電車の利便性に気付いていない人が多いのではないでしょうか。近い将来、路面電車の有益性が再評価されると思っています。

土肥: 「路面電車=古い」といったイメージがありましたが、逆に見直されるかもしれないと。

●駅には「拠点力」がある

小川: コンパクトな街づくりを目指している富山市で次世代型路面電車のLRTが走行していて、各方面から注目されています。その後、宇都宮市などLRT導入を進めている都市は全国にいくつもあるんですよね。東京でも池袋でLRTを走らせようという計画があります。

 また、欧州でもトラムと呼ばれている路面電車がたくさん走行しているんですよね。街の中にクルマをなるべく入れないようにするために、路面電車を街づくりの基本コンセプトに掲げているところがたくさんあります。

土肥: 路面電車って道路に線路をつくって、クルマのような感じで走らせる。じゃあ、バスでいいのではないでしょうか。今後は自動運転が導入されていくと思うので、自動運転のバスが都電荒川線のような役割を担っていくのではないでしょうか。

小川: ご指摘のとおり、「人が移動するだけ」であれば、路面電車もバスも同じかもしれません。東日本大震災によって被害を受けた沿線を取材していると「鉄道を再開するのではなく、バスでいいのでは?」といった声があります。でも、駅には「拠点力」があるんですよね。

土肥: 拠点力? それはなんですか?

小川: 人を集めるだけでなく、商業施設、コンテンツ、サービスなどさまざまなものを集めることができるチカラのことです。例えば、震災の影響を受けて、現在使われていない駅があります。鉄道も走っていませんし、駅員もいませんし、利用者もいません。そんな状況なのですが、駅前のロータリーでタクシーが停車しているんですよね。

土肥: ほー。

●バス停には「拠点力」が乏しい

小川: 私も初めてその光景を見たときには「なぜ、タクシーが停車しているのか」意味がよく分かりませんでした。駅が使われていないので、人はほとんどいません。ですが、タクシーはお客さんを待っている。じーっと見ていると、お客さんが来るんですよね。どこからともなく。

土肥: なんと。鉄道は走っていないけれど、駅前にはタクシーが停まっていると思っているわけですね。

小川: また、ドライバーの携帯電話に連絡が入るんですよ。「ウチの家まで来てほしい」と。じゃあ、タクシー会社の駐車場で待っていればいいのでは? と思われるかもしれませんが、多くの人は「タクシーの乗り場=駅前」と意識しているのではないでしょうか。

土肥: ドライバーの携帯電話に連絡した人も「駅前に停車しているタクシーに連絡した」と思っているかもしれない。

小川: 拠点力のことを考えると、路面電車の駅とバスの停留所では明らかに違いがありますよね。駅前には人だけでなく、さまざまなコンテンツが集まっていますが、バス停でそのようなところってほとんどないですよね。先ほど「路面電車をバスにしたら?」といった意見がありましたが、駅ではなくバス停にしたら「拠点力」が失われて、その街の活力が失われていく可能性があるんですよね。

土肥: ふむ。それにしてもなぜ鉄道の駅には拠点力があって、バスの停留所にはそのようなチカラがないのでしょうか?

小川: 道路って基本的に行政が開発していますよね。一方の鉄道にも税金が投入されていますが、基本的には事業会社が運営している。道路は道をつくれば基本的に終わりですが、鉄道は線路をひっぱれば終わり……ではないんです。鉄道会社は、その沿線を活性化させるために、駅前にビルを建てたり、マンションをつくったり、商業施設をオープンしたりします。そのようなこをして、人を集めなければいけません。人を集めることができなければ、鉄道を利用してくれませんからね。

●マンションのチラシを見ると

土肥: 一方の道路はそうした工夫をしていない?

小川: 高速道路は別ですが、一般道で工夫していることといえば、道の駅くらい(笑)。ま、それは冗談として、ほとんどしていませんよね。マンションのチラシを見ても「最寄りの駅○分 駅近!」などをアピールしていますが、「最寄りのバス停○分 バス近」と書かれていません。

この文言を見るだけでも、駅に拠点力があることがうかがえますよね。

土肥: 拠点力を高めることに成功している会社とそうでない会社がありますよね。例えば、首都圏で言うと、東急や小田急、JR東日本は上手。一方、東武や京成はちょっと下手なイメージがあります。

小川: 「この会社はブランド力を高めるのが上手」「この会社は下手」という話ではなく、時代が大きく影響しているのではないでしょうか。その昔、東京の人気エリアは上野や浅草など東エリアに集中していました。そのころの東武や京成は、それぞれの沿線でブランド力を高めていました。

 しかし、東側の人気エリアに住むことができない人が増えてきたので、西側に注目が集まっていきました。新宿とか渋谷ですよね。結果、東急や小田急沿線のブランド力が高まっていきました。

 ただ、西側にもキャパの問題があるので、西の人気エリアに住めない人が出てきました。結果、最近の住みたいランキングなどを見ると「北千住」が上位にランクインしていますよね。「西でいいところがない。じゃあ、東でいいところはないかな」となって調べてみると、「北千住はたくさんの沿線が走っているので便利だよね。住もうか」という人が増えてきたのではないでしょうか。

●「東京駅」に注目

土肥: 沿線では都営荒川線を注目されているということですが、駅はいかがでしょうか? この駅の周辺に人が集まりそうなところってあるでしょうか?

小川: 東京駅ですね。

土肥: 東京駅! もうすでに駅周辺にたくさんのビルが建ち並んでいますが、ますます利用者が増えるということですか?

小川: 利用者が増えるだけでなく、東京駅の近くに住む人も増えるのではないでしょうか。

土肥: いやいや、それは難しいのでは。東京駅周辺をみると、高層ビルだらけで人が住めるようなスペースなんてありませんよね。以前、はとバスに乗ったとき、ガイドさんが「(東京駅近くの)丸の内に住んでいる人は2人しかいません」と言っていました。いまはどうか分かりませんが、それほど人が住める環境ではないかと。

小川: 10年、20年後には、働き方が大きく変化しているでしょう。仕事にもよりますが、PCがあれば……いや、スマートフォンがあれば仕事ができるようになる。わざわざ会社に足を運んでで仕事する必要がなくなってくるので、「通勤」という概念が大きく変わるはず。

 週に1日、打ち合わせのために会社へ行く……という人であれば、わざわざ土地の価格が高い中心部に住む必要がないので、「郊外で住む」人が増えていくはず。もちろん、全員が郊外に住むという話ではありません。都心で住みたいという人もたくさんいるので、山手線の内側に住む人と、郊外に住む人の二極化が進むと思うんですよね。

土肥: 郊外に住む人が増えるということですが、どのあたりですか?

小川: 現在、通勤の交通費は10万円まで非課税となっていますが、自民党内で「30万円まで引き上げてもいいのでは」といった議論が進んでいるんですよね。もし、これが実現するとどうなるか。例えば、新幹線で東京―浜松間を移動すると、1カ月の定期料金は18万4980円。移動時間は1時間30分ほどなので、浜松あたりに住む人が増えてくるかもしれません。毎日出社する必要のない人であれば、そもそも定期が不要ですよね。浜松に住んで会社に通勤する……というよりも出社という概念になる。

 もちろん浜松だけでなく、東京駅から1時間30分ほどで移動できるエリアに住む人が増えるのではないでしょうか。というわけで、今後伸びる駅はどこか? と聞かれると、私は東京の起点「東京駅」と答えます。

●東京駅の近くに住む人が増える

土肥: 2027年にリニア中央新幹線(以下、リニア)が開業する予定です。完成すると品川駅―名古屋駅間を40分ほどで結ぶことになりますよね。そうすると、東京駅ではなく、品川駅も発展していくのではないでしょうか。

小川: 「今後、東京で伸びるのは品川駅しかない」という方がいらっしゃいます。品川駅―名古屋駅が40分ほどで結ぶようになれば、「名古屋が東京の郊外になるのでは?」といった声もあります。もちろん、リニアが開通されると、品川駅を利用する人は増えるでしょうし、周辺の商業施設も充実するでしょう。

 ただ、名古屋から東京に出社する人ってどのくらいいるでしょうか。300キロほど離れたところに住んでいて、わざわざ東京に出社する人が増えるって……考えにくいんですよね。名古屋に住んでいれば、名古屋近辺の会社で働く人が多いのではないでしょうか。

土肥: リニアの品川駅―山梨駅間は25分ほどで結ばれるかもしれないので、そうなれば山梨あたりから東京に出社する人が増えるかもしれませんね。ちなみに、東京駅から25分くらいでどんな駅があるのか調べてみたところ、さいたま新都心が30分ほど、船橋駅が25分ほど、横浜駅が30分ほど。つまり、リニアの山梨駅は、埼玉、千葉、神奈川の主要駅から出社するくらいになりますね。

小川: リニアが開通すれば品川駅は発展していくと思うのですが、現時点では未知数の部分が残っているんではないでしょうか。リニアの料金はどうなるかなど。

 気になる駅は、品川駅か東京駅か? と聞かれると、やはり「東京駅」なんですよね。現在、東京駅は交通の要衝になっていて、かつビジネス街の中心でもあります。そんなところに人が住むの? と思われるかもしれませんが、10年後には東京駅圏で住む人が増えていくのではないでしょうか。

 昭和30年代の東京駅……八重洲口で生活している人がたくさんいました。しかし、高度経済成長やバブル経済などを経験したことで、“東京駅離れ”が進んだんですよね。でも、これまで述べてきたとおり、世の中のイノベーションや働き方などが変化することによって、再び東京駅を軸にした生活スタイルが戻って来るのではないでしょうか。

土肥: どこに住んでいるの? と聞いて「東京駅から徒歩5分」と言われたら、いまは「えっ!」と驚いてしまいますが、10年後、20年後にはそうしたことを聞いても驚かない世の中になっているかもしれない、ということですね。いやはや、東京の未来が楽しみであります。

(終わり)

最終更新:9月14日(水)7時57分

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