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ミサイル防衛、壮大な無駄遣いか?

ニュースソクラ 9月14日(水)12時0分配信

北朝鮮ミサイル落下で、役立たずが露呈

 北朝鮮は9月5日午後0時13分頃、平壌の南約40kmの黄海北道黄州付近から弾道ミサイル3発をほぼ同時に発射した。

 それらは朝鮮半島上空を通過して約1000kmを飛行、北海道奥尻島の西200~250kmの日本の排他的経済水域内に落下した。

 翌6日北朝鮮は連続発射の動画を公表したが、ミサイルは8輪の自走発射機から発射されており、韓国軍が当初発表した「ノドン」(パレードでは10輪の発射機に搭載)ではなく、それより少し小型の「スカッド」ER(射程延伸型)と見られる。

 開発のための試射なら複数を同時に発射する必要はないから、今回の3発発射と映像公開には威嚇の色が濃い。3発がほぼ同一海面に落下したことや自国上空を横断させたことは精度と信頼性の向上を示している。

 8月3日午前7時53分にも北朝鮮は弾道ミサイル2発を日本海に発射したが、1発は発射直後に爆発、1発が秋田県男鹿半島沖約250kmに落下した。この際には日本政府がミサイル発射を知ったのは、それが落下した後、あるいはその直前と見られ、防衛省がミサイル発射の第1報を発表したのは発射から1時間15分後の午前9時8分だった。

 ミサイル防衛に当るはずのイージス艦や陸上配備の要地防衛用の「パトリオット・PAC3」部隊に「破壊措置命令」は出されず、通信衛星を活用して全国の市町村の防災無線、有線放送などで警報を出す「J・アラート」(全国瞬時警報システム)も役に立たない「ノーマーク」状態だった。

 北朝鮮は2012年12月12日と今年2月7日に大型ロケット「テポドン2」で小型人工衛星打ち上げに成功した。これは米戦略軍統合宇宙運用センターも確認したが、衛星は2回とも故障した様子で電波は出ていない。

 この打ち上げの際には北朝鮮は発射の時間帯や第1段、第2段ロケットの予想落下地点などを事前に国際海事機構に通知したし、高さ67メートルもの固定登射台で2週間以上もかけてロケットを組み立てたから、日本側も準備ができ、もし日本に落下する場合に備えて「破壊措置命令」を出してイージス艦を出動させ、PAC3も防衛省の庭や沖縄の島々に展開した。

 ところが8月3日に弾道ミサイルが秋田沖に発射された際には日本は何の対応もできなかった。防衛省はその理由として「事前通告がなかった」「移動式の発射機から発射されたから分らなかった」と釈明した。実戦では相手がミサイル発射を予告してくれないし、軍用のミサイルは攻撃で壊されないよう自走発射機に載せて位置をしばしば変え、トンネルなどに隠すのが一般的だ。日本のミサイル防衛は人工衛星打ち上げの監視には使えても、本物の弾道ミサイルに対しては役立たないことを露呈した形となった。

 この失態に鑑み、政府は8月8日から、常に「破壊措置命令」を出したままにし、イージス艦を海上に展開し、航空自衛隊の「PAC3」部隊や、弾道ミサイルを探知する巨大レーダー「FPS5」(高さ35m)4基(鹿児島県下甑島、新潟県佐渡島、青森県大湊、沖縄県与座岳)などにも厳戒態勢を取り続けさせることにした。

 当面は期間3カ月だが、状況を見て命令を更新するとしていた。日本のイージス艦は6隻だが、うち2隻はより新型のミサイル防衛用ミサイル搭載のため改修中で、残る4隻中通常、1隻は3カ月程ドックに入って整備・点検中、1隻は整備を終わって再訓練中だから、常時1隻を海上に出しておくのはぎりぎりの運用だ。

 「PAC3」ミサイル部隊やレーダーサイトでも、秒速約2kmで飛んで来る弾道ミサイルに対応するには一瞬の油断もできず、365日、24時間緊張を保つには、しばしば当直交代をしても疲労が貯まりそうだ。

 常時「破壊措置命令」を出したままにして、さてその効果は出るか、と注目していたところ、北朝鮮は9月5日の午後0時13分頃に3発同時発射を行った。防衛省がミサイル発射の第1報を出したのは1時間32分後の同1時45分だった。

 警報のうち最も早かったのは海上保安庁が防衛省・首相官邸からの情報により、0時32分、発射の19分後に船舶に対して出した「航行警報」だったが、ミサイルが奥尻島沖に落下したのは0時22分頃だから、警報は落下の約10分後で意味がなかった。

 この場合は、航行中の船がミサイル落下前に警報を受信できたとしても対応のしようがないのだが、もしミサイルが陸地に向かっていれば、弾着の10分後に住民に避難を求める防災無線やサイレンが鳴りひびくところだった。

 ミサイル発射が探知されれば、その警報を船に伝えるのを意図的に遅らすはずがない。今回、厳戒態勢を取っていても、警報が出たのは落下の10分後だったことは、日本のミサイル防衛能力の限界を示唆したものと考えざるをえない。

 弾道ミサイルの発射があれば、まず赤道上空約3万6000kmの米国の静止衛星「DSP」やその後継機「SBIRS」がミサイル発射の際に出る噴気の熱を探知し、ミサイルが上昇して水平線の上に出れば、イージス艦の強力なレーダーや大型の地上レーダーが追尾する。

 その情報は即時に航空自衛隊の「JADGE」(航空宇宙防衛警戒管制システム)に入力され、防衛省地下の「中央指揮所」や首相官邸の「危機管理センター」に直ちに伝わり、「J・アラート」で広範な地域住民に屋内避難などを呼びかけるはずで、それまでに要する時間は約1分のはずだった。

 そうでないと、北朝鮮からの弾道ミサイルは日本に8分ないし10分程で到達するから、住民は避難できず、迎撃も多分困難になるだろう。8月3日も9月5日も「J・アラート」は使われなかった。これは政府が地方自治体に交付金を出して整備させ、100%の普及率だが、落下した後に発射を知ったのなら警報を出しても意味はない。

 防衛省・官邸は最初の探知が何時何分だったか、など詳細を一切秘匿している。「相手に手の内を知られる」と言うのだが、人工衛星打ち上げの際には、発射の2分後から分刻みでその飛行状況を発表していたから、事前通告があり、こちらがしっかり見張っている場合の探知能力(大型レーダーの探知距離など)は、相手にわかっているはずだ。

 イージス艦はこれまでハワイ沖で4回発射実験を行い、3回命中しているが、これはカウアイ島から標的の模擬ミサイルが発射される地点とそれが落下する海域、発射時間、模擬ミサイルの加速度などのデーターが分かっていて、それを射撃管制コンピューターに入力して待ち構えているためだ。

 野球の練習で「センターフライ行くぞ」と言って球を取らせる「シートノック」に似て、実戦とは程遠い条件だ。

 ミサイル防衛の経費は当初約1兆円とされたが、政府は2004年以来、今年度予算までにすでに1兆5787億円をミサイル防衛に投じた。来年度の概算要求にも1872億円が入っている。

 現在イージス艦が搭載する「SM3ブロック1A」ミサイル(1発約16億円)の後継「SM3ブロック2A」の価格は2倍程になりそうだ。1隻に8発積んでいるが、1目標に対し不発・故障もあるから、普通は2発ずつ発射するので、4目標にしか対処できない。今後弾の数を増やしたり、さらにイージス艦(1隻約1400億円)を造ったり、地上発射の「PAC3」(射程約20km、1発約8億円)の射程を2倍にした物に代えるなど、莫大な支出が続きそうだ。

 ミサイル発射探知用の静止衛星(1機約500億円、予備を含め2機必要)を日本も上げようとの論もあり、ミサイル防衛は今後、日本の国家財政に響くような大プロジェクトになりかねない。

 それだけに「ミサイル防衛」にはどれ程の効果と限界があるのかを国民に開示するべきであり、「特定防衛秘密」を盾にして失敗や能力の不足を隠ぺいして巨額の負担を求める、といった疑念を抱かれないことは重要だ。

■田岡 俊次(軍事評論家 元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。

最終更新:9月14日(水)12時0分

ニュースソクラ

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