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【オピニオン】5分でわかる「トランプ氏ではダメな理由」

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月14日(水)12時12分配信

 共和党候補トランプ氏は、なぜ米国の大統領には不向きなのか。WSJコラムニストがQ&A形式で持論を展開する。

Q: あなたは今回の米大統領選で民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官を応援しているようだが、それで保守的なコラムニストと自称することができるのか?

A: 私が応援している理由は、共和党候補のドナルド・トランプ氏が反保守的かつ反米国的で、道徳心がなく、危険だからだ。

Q: ではクリントン氏は、米国民としてわれわれが大切にする資質を備えた保守派であり、政治経験がきわめて豊富だということか?

A: いやそうではない。彼女は昔からリベラル派で、政治的には日和見主義だし、倫理観に欠けるところもある。

Q: それでも彼女を支持するのか?

A: そうでなければ良かったが、ほかに選択肢があるだろうか?

Q: 選択肢なら、共和党候補がいる。貿易や移民問題をめぐっては、彼はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の正統派の論調に沿わないだろうが、それ以外では減税や規制緩和、国防の強化、保守派判事の任命といった主張をしている。共和党副大統領候補のマイク・ペンス・インディアナ州知事や、ポール・ライアン下院議長の助言も聞くだろう。

A: われわれの選択肢は政策メニューに基づくと思っているようだが、私がトランプ氏に反対する根本的な理由は、彼が大統領には不向きな人間だからだ。

Q: ちょっと待ってくれ。少々荒削りなのは認めるが、それは彼が政治家ではないからだ。また、巨万の富を築いたすばらしい実業家でもある。

A: もしトランプ氏が納税申告書を公開するつもりなら、あるいは彼のビジネスのうち6事業が破綻しておらず、4000件を超える訴訟を抱えていなかったら、さらに納入業者に対して常に不当な扱いをし、慈善資金を出し惜しみすることがなかったら、その主張を信用してもよいのだが。

Q: 会社を経営するのがどういうことかを知らないエリート階級のような話しぶりだ。

A: 私の知る限り、成功した起業家は節度を持ち、情報を公開し、誠意ある経営を行っている。

Q: それでも彼の成功には異論がないだろう。

A: トランプ氏が手に入れたのは成功ではなく、悪評だ。彼と共通点が多いのは、カジノ王のスティーブ・ウィンよりも、世間をにぎわすラッパーのカニエ・ウエストだ。それに、彼はただ荒削りなだけでなく芯まで腐っている。

Q: おや。彼が時に無分別なことや政治的に不適切なことを言って物議を醸すからか? あとで後悔するような失言は誰にでもある。クリントン氏はウソをついてばかりだ。

A: 違いはこうだ。クリントン氏が自らを政治的に守る戦術としてウソをつくのに対し、トランプ氏は自分を大きく見せ、弱い立場の人々を軽んじるために衝動的にウソをつく。相手が障害のある記者であろうと、家族を亡くした母親であろうとお構いなしだ。

Q: 両候補者ともに人格に問題がある。だがわれわれが選ぶのはローマ法王ではなく、米大統領だ。そして保守派としては、彼の意見のほうが私の考えにはるかに近い。

A: だけどリベラリズムの本流にいるクリントン氏より、移民排斥を掲げるトランプ氏のほうが、保守主義とかけ離れているのでは。

Q: では保守主義をどのように定義する?

A: 原則として小さな政府、自由市場、憲法が保障する権利、機会均等、個人の責任、多くの州からなる国家、パックス・アメリカーナ(米支配による平和)を堅持すること。

Q: トランプ氏はその大半を信じている。

A:  そうだとしても憲法の問題がある。生まれながらの市民権を認めない彼の案は、合衆国憲法修正第14条に抵触する。自身への批判を封じ込めるため「名誉毀損(きそん)法の可能性を広げる」との考えは、報道の自由への脅威となる。「メキシコ系」の連邦地裁判事であるゴンザロ・クリエル氏への攻撃は、米国人の信条に対する挑戦だ。

Q: まさしくトランプ氏がいつもまくし立てていることだ。

A: 「まくし立てていること」こそ、トランプ氏の内面を見抜くカギだ。直感的にリベラリズムに背を向けている。だから彼は、仏右派政党「国民戦線」のジャン・マリー・ルペン前党首や、米白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の元指導者デビッド・デューク氏から絶賛されている。だから彼は、ロシアのプーチン大統領に称賛を送り続けている。

Q: トランプ氏がプーチン大統領を称賛するのは、国民の人気が高く、海外では尊敬され、実行力があるからだ。アイゼンハワーなど歴代の米大統領もそうだったが、オバマ現大統領には当てはまらない。そろそろ有能なリーダーが登場すべきではないか?

A: プーチン氏は尊敬されるどころか、恐れられている。思慮深い保守派ならば、効率的な独裁国家より、何もできない民主主義国家をすぐにでも選ぶだろう。

Q: わが国は19兆ドルの借金を抱え、殺人率は上昇し、過激派組織「イスラム国」に翻弄(ほんろう)され、数百万人に上る労働年齢の男性が仕事探しをあきらめている。申し訳ないが、今はまともな時代ではない。

A: 米国はもっと悪い時期を乗り切ってきた。1970年代を考えてみよ。まともじゃないのは、おどけたリーダーが過激な解決策を説くという唐突な状況だ。フィリピンではドゥテルテ大統領が就任したが、同じタイプの米国人が自由主義世界のリーダーになるのは全く別の話だ。

Q: ここは米国だ。幅広い権限をもつ大統領に対し、抑制と均衡をもたらす制度を備えている。制度について言えば、最高裁判事の後任人事で「リベラル派に1世代譲る」事態について言うべきことはあるか?

A: 合衆国憲法の厳密な解釈を軽蔑するような人物が、厳格なコンストラクショニスト(法律の解釈者)を指名すると思うか?

Q: いいかい。クリントン氏についてはよく知っているし、それはひどいものだ。トランプ氏なら、公約を守る可能性があるうえ、就任後の伸びしろもある。

A: 君が米国の制度を心から信頼しているならば、オバマ政権と同様、クリントン氏の任期を乗り切れるはずだ。トランプ氏は候補者から大統領に上り詰めたとたんに虚栄心をむき出しにし、大きな権力を求めるだろう。彼自身が好んで口にするように「私が変わると思うか? 絶対に変わらない」。彼がこの約束を守るのは間違いない。

By BRET STEPHENS

最終更新:9月15日(木)7時41分

ウォール・ストリート・ジャーナル