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3Dプリンターで「雪駄はける義足」が実現

ウォール・ストリート・ジャーナル 9月14日(水)17時52分配信

 安藤文紀氏は、雪駄(せった)を履くことはできないと思っていた。義足の設計上、無理だったのだ。

 生まれてすぐに右足の膝から下を失った安藤氏は41歳の時、SHCデザインという社名を耳にした。同社は3次元(3D)プリンターでモデリングされたポリマー製の義肢装具を製作する新興企業だ。インターネット企業に勤務する同氏はSHCデザインで法務担当者として着任し、そこで雪駄を履くのに適した義足を製作した。その義足にはかかとの部分に特別なカーブが施され、鼻緒を挟むスペースが設けられたのだ。

 雪駄に合わせた濃紺の甚平を身にまとった安藤氏は、「こういった義足を通常の方法で作ろうとするとコストがかかる」と話した。厚生労働省によると、通常は複数の素材から手作業で製作される義足の平均価格は約42万円に上る。SHCデザインの最高執行責任者(COO)を務める徳島泰取締役は、同社の3Dプリンターを使えば1万円ほどで義足を作ることができると述べた。

 数年前に3Dプリンター熱が高まった時は、工業部品だけでなく、完全なミニカーさえも低価格で量産できるという期待が込められていた。こうした期待の多くは実現に至っていないが、SHCデザインの技術は、「他の進歩」と組み合わさった時の3Dプリンターの展望を示している。

 義肢装具の場合、人体との親和性が高くて柔軟性があり、医療用機器に適した特殊ポリマーが「他の進歩」に該当する。合成ゴム大手のJSRが開発したこのポリマーは、柔らかい素材を安定的に作り出すよう設計された3Dプリンターに流し込まれる(この「3Dプリント義足」の共同開発では、JSRとSHCデザインがタッグを組んだ)。SHCデザインのソフトウエアが顧客の健康な方の脚と希望する履物をスキャンして作ったテンプレートに従い、3Dプリンターが義足を出力する。

 通常、日常生活用の義足は保険でカバーされる。ただ、水泳やスキーなどの競技用、あるいは履物にあわせた特別な義足も欲しい人にとって、その値段は高いものになる。

 安藤氏は「(義足)ユーザーとしてはあまり多くを望んではいけないという雰囲気がある」と語った。同氏は水泳用の高価な義足を購入したことがあるが、あまりに重く、見栄えも良くなかったため使うのをやめたという。

 フィリピンなどの貧しい国では、SHCデザインの技術が、より根本的なニーズを満たす可能性がある。国際協力機構(JICA)によると、同国では義足を必要とする人は約35万人に上るが、その9割以上が価格や専門家不足のせいで義足を持てないでいる。JICAはフィリピンでの3Dプリント義足販売に向けた基礎調査に資金を援助。義足が供給されれば、障害のため働けない10万人以上が仕事に就けるようになると期待する。

 SHCデザインの増田恒夫代表取締役は「一人の人のためにモノを作りたかった。本当に欲しがっている人にモノを届けたかった」と語る。同氏は医療用機器メーカーに26年間勤務した後にSHCデザインを立ち上げた。

 徳島氏によると、SHCデザインは早ければ来年4月に、フィリピンと日本で独自システム(3Dプリンターと3Dソフトウエア)の販売を開始する計画だ。価格は25万円ほどになるという。スキャナーも必要となるが、これは他の業者から購入しなければならない。

 徳島氏によると、全パーツを3Dで完全出力する義足製作ソリューションの提供は世界初の試みであり、3Dプリンターとソフトウエアで特許を出願する計画。全日本空輸(ANA)も3Dプリント義足の共同開発に参加している。一般的な義足では金属部分がセンサーに反応するため、同社は義足を付けた乗客が空港の保安検査場をスムーズに通過できる方法を模索している。

 大手の義足メーカーも3Dプリンターに注目している。ドイツのオットーボックは、米サンフランシスコに拠点を置くUNYQが3Dプリンターで製作した義足カバーを販売している。このカバーを付けることで、患者は義足の金属部分を隠すことができる。アイスランドのレイキャビクにあるオズールの幹部は、製品の​試作品と​マイクロプロセッサーで制御する膝装具の部品製作で3Dプリンターを使用していると話した。

 米矯正・補綴(ほてつ)治療協会(AOPA)のエグゼクティブディレクター、トム・ファイズ氏は、SHCデザイン​の製作する全​パーツ​完全3Dプリント​の​義足​に類似するものは市場では他に見当たらないと話した。

 ファイズ氏は、チタンや炭素繊維などから作られる一般的な義足と比べて、ポリマー製の義足では耐久性が問題になる可能性があると見ている。オットーボックは義足の製品化に3Dプリンターを使ったことはないと話した。現在の技術では3年から5年の​使用に耐える強度をもたせるのは難しいという。​

 徳島氏によると、これまでのトライアルで耐久性​に​問題​は​ないという。また、同氏は3Dプリント義足が使い古されても、すぐに過去データを使って比較的安く新しい義足を製作できると話した。

By MEGUMI FUJIKAWA

最終更新:9月14日(水)17時52分

ウォール・ストリート・ジャーナル