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エコノミストの重要な3つの仕事とは?その2、相関関係の因果関係の向きの「判断」

ZUU online 9月15日(木)10時40分配信

マーケットのエコノミストとしての重要な仕事は三つあり、一つ目は、データの相関関係の発見という「観察」であることを解説した。

問題なのは、相関関係を「観察」しても、因果関係の向きは分からず、その因果関係の向きによって、同じ相関関係を見て、間逆の結論を導くこともできることだ。そうなると、エコノミストの重要な仕事の二つ目は「判断」で、何を「判断」するかというと因果関係の向きということになる。

■「観察」から見えた相関・逆相関へのアプローチを「判断」する

一例として、企業貯蓄率と財政収支の相関関係(この場合は逆相関)が「観察」できることを考えてきた。

日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスの異常な状態が継続し、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていることだ。企業活動が弱くなり、企業貯蓄率が上昇し、過剰貯蓄が総需要を破壊していき景気が低迷すれば、税収が減少し、景気対策も必要となり、財政赤字は増加する。

逆に、企業活動が強くなり、企業貯蓄率が低下し、総需要を破壊する力が弱くなれば循環的に景気は回復し、税収が増加し、財政赤字は縮小する。この場合、因果関係は企業貯蓄率から財政収支に向かっている。

金融政策・財政政策・成長戦略の三本の矢で企業を刺激して、企業活動の回復の力で、デフレを完全脱却するという、アベノミクスの政策理論の根幹である。企業活動が回復し、企業貯蓄率が低下するとともに、税収が増加するなどして財政収支は改善していくことになり、「経済再生なくして財政健全化なし」というアプローチとなる。

相関関係の因果関係が企業貯蓄率から財政収支の方向に強ければ、アベノミクスをサポートするが、逆方向に向いていれば財政緊縮による財政収支の改善が企業活動を刺激する、という論でアベノミクスを否定することになる。

企業が投資に消極的で、負債を返済し貯蓄をしてしまう原因は、財政赤字が大きく、政府の負債残高が膨張しているため、将来の金利の高騰を不安視しているからだと考える。家計も、財政収支が悪いことにより社会保障システムが持続的ではないと感じ、消費を抑制してしまっていると考える。

■エコノミストの「判断」は経済を左右する

増税や歳出削減により財政を緊縮にし、財政収支を改善させれば、企業は投資を、家計は消費を増やし、景気を刺激する「安心効果」があるとされる。この「安心効果」が、税と社会保障の一体改革による、消費税率引き上げを後押しするとともに、不安をより高める財政政策の景気刺激効果はない、という理論的支柱になっていた。

更に、財政拡大は金利上昇と為替高をもたらすために景気押し上げ効果がなく、デフレを含め物価はすべからく貨幣的現象であり、需給ギャップの解消と2%への物価の押し上げは、主に金融緩和のみで可能であるとして、金融緩和が膨張していった。しかし、消費税率引き上げなどの緊縮財政により、景気は悪化し、「安心効果」は虚構であることが明らかになってしまった。

因果関係は、企業貯蓄率から財政収支に向かっている方が、強いことが明らかとなっている。

国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力である企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要が消滅してしまい、それをマネタイズする量的金融緩和の効果も限定的になり、デフレ完全脱却の動きは止まってしまった。

現在は、その反省により、財政政策が緊縮から拡大に転じ、政府・日銀がポリシーミックスとして協働してデフレ完全脱却を目指す方向に動きだしている。

このように、因果関係の方向性の「判断」を間違えると、経済と国民に必要のない負担を増やしてしまうことになるため、エコノミストの因果関係の方向性の「判断」という仕事はとても重要である。

エコノミストの三つ目の重要な仕事は、「基準作り」である。因果関係の「観察」から因果関係の方向性の「判断」を経て、政策や投資を決定する上での「基準」を作ることだ。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:9月15日(木)10時40分

ZUU online