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スマートフォンは金融サービスを変えるか-スマートフォンを介した金融サービス利用者の特徴と利用実態

ZUU online 9月15日(木)12時50分配信

■要旨

近年、急速に普及が拡大してきたスマートフォンは、近年では中高年層における利用の拡大が目立つようになっている。一方、すでに成熟期に入っている若年層においては、PCの保有率を上回る状況も見られるようになっている。また、実際の利用実態としては、電子メールやSNSなどのコミュニケーション利用が中心であり、商品・サービスの購入・取引にも利用されているものの、金融関連の取引については未だ途上といった状況にあることが示された。

スマートフォンを用いた金融関連のサービス利用者の特徴や利用しているサービスを明らかにし、今後の動向に関する示唆を得るため、日経リサーチ社の「金融総合定点調査 金融RADAR2015」を用いて分析した結果、スマートフォンによる金融サービスの利用者は、20~40代の正規就業者の男性が中心であり、一般の商品・サービスについてネット通販の利用者、特にスマートフォンでの購入経験者で利用される傾向にあることが明らかとなった。

また、金融意識との関連では、スマートフォンでの金融サービスの利用経験者は金融リテラシー、相談ニーズがともに高い層の構成比が高くなっていた。具体的な金融サービスについては、総じて残高照会や振込、電子マネーのチャージ、株式売買といった、時間や場所を選ばずサービスニーズが生じる取引での利用が多くなっているものの、年代によりやや差異があることも確認された。金融意識の面では、金融取引の利用経験、利用意向ともに金融リテラシーの程度によらず相談ニーズが高いセグメントで相対的に高い傾向も確認された。

スマートフォンは若年層においては既に成熟期に入り、近年では中高年層において急速に普及が拡大していることから、インターネット・サービスを考えるにあたっては、世代を問わずスマートフォンでの利用を前提とした検討が求められる状況にある。

スマートフォンを用いた金融サービスは、現状では20~40代の正規就業者の男性を中心に、主として金融リテラシーや相談ニーズが高い層で利用される傾向にあり、今後についても彼らを中心に様々な金融取引においてスマートフォンの利用が希望されていた。

このことは、すべての金融取引について、スマートフォンの画面を前提とした顧客体験設計の重要性を示している。既に主要な金融機関においては複数のデバイスでの利用を前提としてウェブサイトやアプリの開発・改修が進められているが、今後の中高年層や高齢者へのスマートフォンの普及拡大を踏まえれば、これらの顧客層を含めて適切な対応がなされているかについて、再考する必要もあるものと思われる。

一方で、多くの金融取引で潜在的に相談ニーズを抱える層ほどスマートフォンチャネルを希望する傾向にあることは、相談・コンサルティングを通じたクロスセル・アップセルの機会が減少する可能性も危惧される。スマートフォンを通じて金融取引を行う利用者をどのように店頭での相談・コンサルティングに誘導していくか、各金融機関においては、顧客ニーズを踏まえた導線設計も急務であるといえよう。

■はじめに

先日公表されたApple社の新型iPhoneでは、Suica等の電子マネーが利用できるようになるようである。従来から電子マネー機能をサポートしてきた他の機種に加え、国内での人気が高いスマートフォンにも電子マネー機能のサポートが拡がることで、スマートフォンによる決済サービスは確実に普及していくものと思われる。

こうしたスマートフォンでの決済サービスの利用を契機として、その他のインターネットを介した金融取引についても、PCからスマートフォンへのシフトが加速する可能性もあるのではないだろうか。

本稿では、このようなスマートフォンを用いた金融サービス利用の今後の動向に関する示唆を得るため、足下におけるスマートフォンの普及・利用状況を概観した上で、スマートフォンによる金融サービス利用者の特徴およびスマートフォンを介した金融取引の利用状況について確認していく。

■スマートフォンの普及・利用動向

◆スマートフォンの普及動向

総務省の「平成26年 通信利用動向調査(世帯構成員編)」によれば、スマートフォンの保有率は男女とも50代以下(13歳以上)で5割を超え、20~30代では9割前後に達している。前年との対比では、40~64歳の層では10pt以上と差が大きくなっている。また、PCの保有状況と比較すると、男性の30代以下、女性の40代以下の層ではスマートフォンの保有率がPCの保有率を上回っている。

これらの結果は、若年層においてはスマートフォンがインターネット・サービスを利用する主要なデバイスとなっており、今後も高齢層を含めて広範な普及が見込まれることを示しているといえよう。

では、消費者はスマートフォンをどのような目的・用途のインターネット・サービスに利用しているのだろうか。

◆スマートフォンによるインターネット・サービスの利用動向

過去1年間にインターネットで利用した機能・サービスについてインターネットの利用機器別にみると、スマートフォン利用者では「電子メール」が78%で最も多く、以下「SNS」(63.7%)、「動画投稿・共有サイト」(60.7%)、「天気予報(無料)」(59.2%)、「商品・サービスの購入・取引(計)」(58.9%)の順となっている。

PCとの比較では、「SNS」や「無料通話アプリ・ボイスチャット」、「オンラインゲーム」、「動画投稿・共有サイト」でスマートフォンがPCを5ポイント以上上回っており、PCに比べコミュニケーションを目的とした利用の比重が大きくなっている。

一方、「金融取引」ではスマートフォン(12.1%)は1割台と、今のところ、一般の商品・サービスの購入・取引に比べあまり利用されていないようである。ただしPC(14.2%)との差異は小さいことから、一般の商品・サービスの購入・取引ほど頻繁に行われるものではないという、金融取引の性質が表れているものと考えられる。

■金融関連サービスでの利用動向

前述のとおり、スマートフォンは広く普及してきているものの、スマートフォンによる金融取引は、過去1年間では1割程度と未だ途上の状況にあるようである。

では、スマートフォンを用いた金融関連のサービス利用者は、どのような特徴を有しており、どのようなサービスを利用しているのだろうか。以降では、日経リサーチ社が2015年10月に実施した「金融総合定点調査 金融RADAR2015」(*1)の個票データを用いて、スマートフォンを介した金融関連サービス利用者の特徴および利用状況を概観していく。

◆スマートフォンによる金融サービス利用者の特徴

(1)属性別の特徴

はじめに、スマートフォンのネット機能を用いた金融サービスの利用経験についてみると、「利用経験あり」は全体では20.1%となっている。

利用頻度をみると、「何度か利用したことがある程度」が7.5%、「2~3か月に1回程度以下」が2.6%と、経験者の半数以上が日常的に利用しているわけではないものと思われる。利用経験について属性別にみると、性別では男性で22.2%と女性(17.3%)に比べ高く、年齢別では20~40代で3割弱と50代以上に比べ高くなっている。

本人職業別では、正規就業者で30.4%と高い。また、インターネット通販(ネット通販)の利用経験別では、ネット通販利用者は28.7%と全体に比べ高く、特にスマートフォンでの利用者で45.0%と突出して高くなっている。インターネットバンキング全体の利用経験は4割(42.9%)程度であり、年齢別では30~50代で高くなっていることを踏まえれば、足下のスマートフォン経由の金融サービス利用者は、やや若年層に偏っているといえよう。

(2) 金融に関する意識面の特徴

次に、意識面の特徴をとらえるために、拙稿(2016)(*2)で用いた「金融リテラシー」と「コンサルティング/情報希求」の2つの因子より4種類に分類したセグメントの構成比を、スマートフォンを介した金融取引の利用経験の有無別にみると、利用経験あり層では利用経験がない層に比べ「低金融リテラシー/低コンサルティング・情報希求」で低く、「高金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求」が高くなっている。

このように、スマートフォンを介した金融サービスの利用者は、20~40代の男性正規就業者が中心となっており、特にスマートフォンを介したインターネット通販の利用者で多くなっていた。また、金融に関する意識の面では、スマートフォンを介した金融サービスの利用者は非利用者に比べ金融リテラシー、相談ニーズがともに高い層の割合が多くなっていたことから、自身の金融リテラシーを頼りに相談を必要としない金融取引についてはスマートフォンを介してでもセルフサービスで行おうとする傾向にあるものと考えられる。

では、実際にスマートフォンではどのような金融取引が行われており、今後どのような取引において利用の拡大が見込まれるのだろうか。

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(*1)調査対象は首都圏40km圏の20~74歳男女個人。有効回収数:2,655サンプル
(*2)井上智紀(2016)「金融リテラシーは向上しているか―優先すべきは消費者視点に基づくチャネルの位置づけの再考―」『基礎研レポート』2016年4月14日 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=52723?site=nli
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◆利用経験のある金融サービスと今後の意向

(1) 利用経験のある金融サービス

最近1年間にスマートフォンで利用した金融関連のサービスについてみると、全体では「残高・入出金明細照会」が13.9%で最も多く、以下、「振込・振替」(9.1%)、「電子マネーのチャージ」(4.2%)、「株式売買」(4.0%)の順となっている。

年齢別にみると、「残高・入出金明細照会」は若年層ほど高く、20~30代では2割を超えている。また、「振込・振替」は20~40代では1割を超えており、「電子マネーのチャージ」は30~50代では5%を超えているなど、利用率の水準自体は低いながらも、年代により利用経験のあるサービスの内容にはそれぞれ差異がある様がみてとれる。

また、金融意識セグメント別にみると、"低金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求"、"高金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求"で「残高・入出金明細照会」、「振込・振替」、「電子マネーのチャージ」が比較的高く、"高金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求"、"高金融リテラシー/低コンサルティング・情報希求"では「株式売買」も他のセグメントに比べ高くなっている。

これらの結果は、前述のとおり相対的に高い金融リテラシーを有する消費者が、店頭に出向くことなく、スマートフォンを介したセルフサービスで自らの金融取引ニーズを解消していることを意味している。また、こうした中に潜在的に相談ニーズを抱える消費者が含まれていることは、金融機関にとって、スマートフォンによる金融サービスの利用者を店頭でのコンサルティングにつなげていくための適切な導線設計が肝要であることを意味している。

(2) 今後の意向

スマートフォンによる金融サービスの今後の利用意向についてみると、全体では「残高照会」が22.3%で最も多く、以下、「振込」(17.5%)、「株式売買」(13.6%)、「定期預金などの預入」(11.0%)の順で続く。

性別では男性で「株式売買」や「外貨預金」、「投信購入」などのリスク性金融商品の売買に関する項目で高く、年齢別ではほぼすべての項目で若年層ほど高くなっている。

一方、金融意識セグメント別では、すべての項目について全体に比べ"低金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求"が高く、"高金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求"では「株式売買」や「外貨預金」、「投信購入」で全体に比べ高くなっている。

前述の直近1年間にスマートフォンで利用した金融関連のサービスと比較すると、対比可能なすべての取引で利用意向が上回っており、「株式売買」や「外貨預金」、「投信購入」では約10pt差と差が大きくなっている。

属性別や金融意識セグメント別にみると、30~40代や"低金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求"の層では「小口ローン・キャッシング」でも利用意向が10pt以上上回っていることから、これらの層を中心として、様々な金融取引がスマートフォンを介して行われるようになっていくものと思われる。

■まとめと若干の含意

これまでみてきたとおり、近年、急速に普及が拡大してきたスマートフォンは、近年では中高年層における利用の拡大が目立つようになっている。一方、すでに成熟期に入っている若年層においては、PCの保有率を上回る状況も見られるようになっている。また、実際の利用実態としては、電子メールやSNSなどのコミュニケーション利用が中心であり、商品・サービスの購入・取引にも利用されているものの、金融関連の取引については未だ途上といった状況にあることが示された。

このようなスマートフォンによる金融サービスの利用者は、20~40代の正規就業者の男性が中心であり、一般の商品・サービスについてネット通販の利用者、特にスマートフォンでの購入経験者で利用される傾向にあることが明らかとなった。また、金融意識との関連では、スマートフォンでの金融サービスの利用経験者は金融リテラシー、相談ニーズがともに高い層の構成比が高くなっていた。

スマートフォンで利用した具体的な金融サービスについては、総じて残高照会や振込、電子マネーのチャージ、株式売買といった、時間や場所を選ばずサービスニーズが生じる取引での利用が多くなっているものの、年代によりやや差異があることも確認された。金融意識の面では、金融取引の利用経験、利用意向ともに金融リテラシーの程度によらず相談ニーズが高いセグメントで相対的に高い傾向も確認された。

冒頭でも示したとおり、スマートフォンは若年層においては既に成熟期に入り、近年では中高年層において急速に普及が拡大しており、インターネット・サービスを考えるにあたっては、世代を問わずスマートフォンでの利用を前提として検討することが求められる状況にあるといえる。

このような環境の中、スマートフォンを用いた金融サービスは、現状では20~40代の正規就業者の男性を中心に、主として金融リテラシーや相談ニーズが高い層で利用される傾向にあり、今後についても彼らを中心に様々な金融取引においてスマートフォン上での取引が希望されていた。このことは、すべての金融取引について、スマートフォンの画面を前提とした顧客体験設計の重要性を示している。

既に主要な金融機関においてはPCやスマートフォン、タブレット端末といった複数のデバイスでの利用を前提としてウェブサイトやアプリの開発・改修が進められているが、今後の中高年層や高齢者へのスマートフォンの普及拡大を踏まえれば、これらの顧客層を含めて適切な対応がなされているかについて、再考する必要もあるのではないだろうか。

一方で、多くの金融取引で潜在的に相談ニーズを抱える層ほど基本的にセルフサービスとなるスマートフォンチャネルを希望する傾向にあることは、相談・コンサルティングを通じたクロスセル・アップセルの機会が減少する可能性も危惧されよう。スマートフォンの画面を通じて金融取引を行う利用者をどのように店頭での相談・コンサルティングに誘導していくか、各金融機関においては、顧客ニーズを踏まえた導線設計も急務であるといえるだろう。

井上智紀(いのうえともき)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 シニアマーケティングリサーチャー

最終更新:9月15日(木)12時50分

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