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遠いアフリカで、中国が日本にイラついている理由

ITmedia ビジネスオンライン 9/15(木) 6:25配信

 いま、アフリカをめぐって中国は日本にイラついている。

 2016年8月末、第6回アフリカ開発会議(TICAD6)が、ケニアの首都ナイロビで開催された。安倍晋三首相は、アフリカへ今後3年間で300億ドルの投資を約束した。今回のTICADは1993年に始まってから初めてアフリカ大陸で開催されたこともあって、日本の意気込みが感じられた。

【日本よりも中国のほうがアフリカとの交易規模は大きい】

 その少し前の2015年12月、中国もアフリカとの開発会議を行っている。2000年から始まった中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を南アフリカのヨハネスブルクで開催。こちらも6回目にして初のアフリカ開催となり、習近平国家主席はアフリカ支援として600億ドルの資金を拠出すると表明している。日本の倍額であり、近年アフリカに多額の投資を行っている中国の経済力を見せつけた形だ。

 アフリカとの経済協力に乗り出しているのは何も日本や中国だけではない。インドも、インド・アフリカ・経済フォーラム(IBF)を2010年に立ち上げている。米国は2014年に米・アフリカ首脳会議を初めて開催し、2015年にはEU(欧州連合)もEU・アフリカ主張会議を行っている。とにかく、アフリカ経済に対する注目度は世界的に高いのである。

 だがその中でも日中のせめぎ合いがメディアで話題になっている。TICADやFOCACでも分かる通り、日本はアフリカで中国に押され気味なのだが、とにかく中国が日本を目の敵にしており、日本の動きに敏感に反応し、いら立ちを見せている。

 そもそも、日本と中国はアフリカにどれほど投資をしているのか。日本は2013年に行われた前回の第5回TICADで、5年間で320億ドルの投資を約束している。そして今回の開催までに、そのうちの67%がすでにさまざまなプロジェクトに投入されている。その上で、さらに今後3年間で官民合わせて300億ドルの投資を約束しており、それ自体はかなりの規模ではあるが、前述した通り、中国は2015年末にFOCACで600億ドルの投資を発表している。

 また日本からの外国直接投資は、2000~2014年の累積で105億ドルだったのに対して、中国は累積で300億ドルを超える。英ロイター通信によれば、2014年の日本からアフリカへの直接外国投資は12億4000万ドルだったが、中国からの直接投資は、例えば天然資源の豊富な赤道ギニアに、2015年4月の1カ月だけで20億ドルも投資している。

●中国がイラついているワケ

 貿易についても同様だ。2015年、日本のアフリカとの貿易額は240億ドルだったのに対して、中国のアフリカとの貿易額は1790億ドルに上る。ちなみに2000年までは中国よりも日本のほうがアフリカとの交易の規模は大きかった。

 見ての通り、経済協力において中国はアフリカで日本を圧倒している。にもかかわらず、中国は日本を異様なまでに警戒している。中国は日本とアフリカが近づくのを快く思っていないのである。

 中国政府は、今回のTICADで、日本がアフリカへの経済協力を餌に政治的な発言力につなげようとしていると明確に批判している。8月29日の中国外交部の記者会見で報道官は、「第6回TICADの間、残念なことに、日本は自己中心的な利益を得るため自らの考えを押し付けようとして、中国とアフリカ諸国を仲違いさせようとしている」と述べている。報道官はさらにこう続ける。「TICADの前に行われた政府高官らの会議で、日本は、国連安全保障理事会の改革や海洋安全問題を会議の最終声明に含めようと全力を尽くした。そうした課題は、アフリカの開発や会議のテーマからは逸脱しておりアフリカの参加者たちから強い不満につながったと聞いている」

 中国は、日本がアフリカへの経済協力によって、アフリカ諸国から安保理改革や南シナ海問題で協力を得ようとしていると主張している。ただ安保理改革について言えば、アフリカ諸国も長年改革を求めており、日本と利害が一致している。アフリカ諸国は国連安保理でアフリカ諸国のプレンゼンスを高めたいと考えており、一方で日本も安保理の常任理事国入りに声を上げている。常任理事国である中国は、第二次大戦の「敗戦国」である日本が国連で発言力が増すのは受け入れられない。

 また南シナ海の領有権問題では、オランダ・ハーグの国際仲裁裁判が中国の主張に法的根拠がないという判断を示したことは記憶に新しい。この判決で中国は世界的に孤立しており、中国からするとアフリカ諸国が中国寄りの立場を表明するよう狙っている。そんな中で日本とアフリカが「航行の自由」などで意気投合でもされたら、南シナ海問題にも波及しかねないと中国は考えていると見られている。

●政府系の中国メディアも、日本を批判

 政府系の中国メディアも、辛辣(しんらつ)な日本批判を繰り広げている。中国共産党中央委員会の機関紙である環球時報は、日本のアフリカへの投資で「日本の行動が中国に対抗したり、アフリカで主導権を握ろうとする目的だとすれば、中国をイラつかせるものである」と書く。

 国営の新華社通信は、「誠実さなきアフリカでの日本の札束外交」という記事で、「アフリカの指導者たちはTICADに政治問題がからむことや、日本がそれをねじこもうとすることに反対した。事実、アフリカ諸国は日本による投資の本当の目的をよく理解している。アフリカのメディアの中には、日本による支援の約束は単なる宣伝活動に過ぎないと書いている」と指摘する。筆者が調べる限り、そのような日本に対する批判記事は見つからなかったが、さすがに新華社であっても完全な捏造(ねつぞう)はしないと思われるので、おそらくアフリカのどこかのネット記事か何かにはそういう記述があるのかもしれない。

 とにかく、中国がここまで批判を繰り広げるのは、本気でイラついているからに他ならない。

 ただ、こうしたすべての批判は「お前が言うな!」と、ブーメラン的に一斉に突っ込まれそうな話である。実際に、1971年に中国が国連に再加盟できたのはアフリカ諸国に「働きかけた」ことによるアフリカ票があったからだ。また南シナ海問題でも中国はアフリカ諸国の賛同を求めており(実際に南シナ海問題で中国の主張を支持している国はアフリカで少なくとも39カ国ある)、その裏に経済協力があることは想像に難くない。

 では、日本の思惑はどこにあるのか。日本としては表向き、アフリカを真のパートナーとして日本の援助だけでなく、いまや世界語になった「カイゼン」など「創作工夫を重んじる日本企業の組織文化」をアフリカに伝えたいという思いがある。だが実際には、2050年には人口が25億人に達するアフリカの市場で、自動車や発電所、発電機などを販売し、逆に、天然資源を確保したい狙いもある。特に、福島原発事故の後で国内の原発がほとんど停止していることで、燃料の確保は重要度を増している。

●アフリカを舞台に日中の思惑が入り乱れている

 そしてもちろん、安保理改革に向けてアフリカの協力は欠かせない。安保理の常任理事国入りは日本政府の大きな目標だからだ。その上で、アフリカ諸国にも南シナ海を見すえた「航行の自由」に同調してもらえればなお素晴らしい。

 アフリカを舞台に日中の思惑が入り乱れているわけだが、幸いなことに、日本はアフリカで中国よりも断然イメージがいい。日本製品の質の高さは評価され、また支援プロジェクトもそのクオリティの高さが評判である。例えば日本のつくった道路は、中国がつくったモノよりもクオリティが高いと知られている。

 中国と違い、日本は経済プログラムに限らず、教育支援や公衆衛生・健康支援、生活インフラの支援なども行ない、現地人から高く評価されている。また積極的に地元の材料を使って、地元民を雇う。最近アフリカ諸国は「援助」疲れも出ており、経済パートナーとして「大人の扱い」を望んでいる。単なる寄付や投資から、経済パートナーのような扱いを求めているのである。その点も、日本が中国よりも歓迎されている理由になっている。

 これまで日本が培ってきたアフリカ支援と技術力に、TICADのような協力援助が加わることで、日本はアフリカ人の心をさらにつかむことが可能になるだろう。中国の焦りや警戒による口撃は鼻で笑って、日本らしさを貫いた独自路線の協力を続ければ、本当の狙いも達成できるはずだ。それこそが、中国をいら立たせている理由なのである。

(山田敏弘)

最終更新:9/15(木) 6:25

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