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今なぜ働き方改革が進んでいるのだろうか?-データで見る働き方改革の理由-

ZUU online 9/15(木) 18:50配信

■要旨

日本政府は人口や労働力人口が継続して減少している中で、長時間労働・残業などの悪しき慣習が日本経済の足を引っ張って生産性低下の原因になっていると考え、最近、働き方改革に積極的な動きを見せている。

日本政府が働き方改革を進めている理由としては、(1)日本の人口、特に労働力人口が継続して減少していること、(2)日本の長時間労働がなかなか改善されていないこと、(3)政府が奨励しているダイバーシティー(多様性)マネジメントや生産性向上が働き方改革と直接的に繋がっていることが挙げられる。

働き方改革が生産性向上や経済成長だけを優先にすると、労働者の生活の質はより悪化する恐れが高い。そこで、働き方改革がマクロ的な数値を引き上げることを優先にするより、労働者の健康や生活の満足度を優先的に考慮して実施されることを望むところである。それこそが働き方改革による弊害を最小化し、より住みやすい社会の構築に繋がる「真の働き方改革」であるだろう。

■はじめに

日本政府は人口や労働力人口が継続して減少している中で、長時間労働・残業などの悪しき慣習が日本経済の足を引っ張って生産性低下の原因になっていると考え、最近、働き方改革に積極的な動きを見せている。

2015年には企業及び労働者が働き方改革に積極的に参加できるように「働き方・休み方改善ポータルサイト」を開設し、事業主等に対して自社の社員の働き方・休み方の見直しや、改善に役立つ情報(働き方・休み方改善指標等)を提供している。

また、厚生労働省は、労働時間等の設定の改善により、所定外労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進を図る中小企業事業主に対して、その実施に要した費用の一部を助成する助成金制度も導入した。

さらに、安倍首相は働き方改革を「最大のチャレンジ」と位置づけ、今年の8月3日に発足した第3次安倍再改造内閣に「働き方改革担当相」を新設し、そのもとに「働き方改革実現会議」を開き、年度内をめどに実行計画をまとめて行く方針を固めた。

8月26日には2017年度に働き方改革を推進するために、特別会計を含めて877億円を計上しており、最近では来年度から、退社から次の出社までに一定の休息時間を保障する「インターバル規制」の導入に取り組む中小企業に対して助成金を支給する方針を固めた。

企業の対応も手早い。トヨタ自動車は今年の6月にほぼすべての総合職社員を対象に週1日、2時間だけ出社すれば、それ以外は自宅等社外で働ける在宅勤務を導入することを発表した。また多くの企業で時間外勤務ゼロ運動や積立休暇制度、リフレッシュ休暇等の措置など長時間労働を減らすための措置が実施されている。

今なぜ働き改革が急速に進んでいるだろうか。本稿ではその理由を明確にしたい(*1)。

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(*1)本稿では、金明中(2016)「曲がり角の韓国経済第11回 労働者を優先した働き方改革を」東洋経済日報2016年9月2日を一部引用している。
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■働き方改革が急速に進んでいる三つの理由

◆人口及び労働力人口の減少

日本政府が最近、働き方改革を進めている一つ目の理由として、日本の人口、特に労働力人口が継続して減少していることが挙げられる。

2016年1月1日現在の日本の人口は1億2,682万人で、ピーク時の2008年12月の1億2,810万人に比べて128万人も減少した。また、労働力人口も1998年末の6,793万人から2015年末には6,598万人まで減少している。さらに、労働力人口を15~64歳に限定すると状況はより深刻である。全人口に占める15~64歳年齢階層の割合は1920年の58.3%から1992年には69.9%まで上昇したが、その後は減り続け、2015年には60.8%で1955年の水準(61.2%)まで減少した。

一方、同期間における65歳以上人口の割合は5.3%から26.3%に大きく増加した。全人口に占める15~64歳年齢階層の割合の減少は、生産活動に参加できる人口、つまり生産可能人口の縮小を意味する。日本では1996年から15~64歳の人口が減少し始めており、さらに2012年からはその減少幅が大きくなり、毎年80万人以上の生産可能人口が減っている状況である。

このように少子高齢化が進行し、労働力人口が減少している中で、企業は労働力を確保するために、既存の男性正規職労働者を中心とする採用戦略から脱皮し、女性、高齢者、外国人などより多様な人材に目を向く必要性が生じた。

しかしながら、既存の働き方は、急な配置転換や転勤、サービス残業や仕事が終わってからの上司や同僚との飲会等に耐えられる男性正規職労働者に向いており、育児や家事を主に分担している女性、フルタイム仕事よりはパートタイム仕事を希望する高齢者、日本の企業文化に慣れておらず、長時間勤務に抵抗感がある外国人労働者を活用するためには限界があった。

そこで、将来の労働力を確保し、成長戦略を実施するためには同じ場所で社員皆が長時間働く既存の働き方を全面的に修正し、社員一人一人の状況に合わせたより多様な働き方の実現が要求されることになった。

◆長時間労働の慣習を改善する必要性

働き方改革を推進している二つ目の理由としては日本の長時間労働がなかなか改善されていない点が挙げられる。

2015年に政府が発表した「「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命」では、「長期的な視点に立った総合的な少子化対策を進めつつ、当面の供給制約への対応という観点からは、労働生産性の向上により稼ぐ力を高めていくことが必要である。その際、何よりもまず重要なことは、長時間労働の是正と働き方改革を進めていくことが、一人一人が潜在力を最大限に発揮していくことにつながっていくとの考え方である。

長時間労働の是正と働き方改革は、労働の「質」を高めることによる稼ぐ力の向上に加え、育児や介護等と仕事の両立促進により、これまで労働市場に参加できなかった女性の更なる社会進出の後押しにもつながり、質と量の両面から経済成長に大きな効果をもたらす。加えて、少子化対策についてもその根幹とも言える効果が期待されるとともに、地方活性化等の鍵ともなるものであり、幅広い観点から日本全体の稼ぐ力の向上につながっていくのである。

そうした意識を我が国 全体で共有し、醸成していくことが重要である。…(中略)…長時間労働の是正等を通じて女性が活躍しやすい職場づくりに意欲的に取り組む企業ほど「選ばれる」社会環境を作り出していくため、各企業の労働時間の状況等の「見える化」を徹底的に進めていく。」と明記されており、長時間労働を改善する必要性を強調している(*2)。

日本の労働者一人当たりの総実労働時間等の推移を示しており、パートタイム労働者を含めた労働者一人当たりの平均総実労働時間は1994年の1,910時間から2013年には1,746時間に大きく減少していることが分かる。

しかしながら、パートタイム労働者を除いた一般労働者(フルタイム労働者)だけの平均総実労働時間をみると、2013年に2,018時間で1994年の2,036時間と大きく変わっていない。つまり、日本の最近の労働時間の減少はパートタイム労働者を含めた非正規職の増加に影響を受けた可能性が高く、実際に正規職の労働時間は大きく変化していない。

日本政府は長時間労働に対する対策として年次有給休暇の取得を奨励しているものの、有給休暇の取得率もあまり改善がみられない。2014年の労働者一人当たりの年次有給休暇の取得率は47.3%で、2004年の46.6%と比べて大きな差がなく低水準にあることが分かる。また、2014年の年次有給休暇の平均取得日数も8.8日で、2004年の8.6日と大きく変わっていない。

このように日本の有給休暇取得率や平均取得日数が改善されない理由としては、日本の祝日数が昔に比べて増えたことや、完全週休2日制(*3)が少しずつ定着することにより、労働者の休日数が平均的に増加したことが考えられるが、より根本的な理由は有給休暇が取れない又は取りづらいという職場環境にある。

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(*2)首相官邸(2015)「「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命」2015年6月30日
(*3)「週休2日制」と「完全週休2日制」を区分する必要がある。一般的に求人広告などに掲載されている「週休2日制」は、1ヶ月の間に週2日の休みがある週が1度以上あることである。一方、「完全週休2日制」は、毎週2日の休みがあることを表す。いずれにしても、どの曜日が休みになるかは企業次第であり、「完全週休2日制」と表記されていても、企業によっては平日の2日が休みになっている可能性もある。
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厚生労働省が2014年に実施した調査(*4)によると、回答者の68.3%5か有給休暇の取得に対して「ためらいを感じる」と答えており、その最も大きな理由(複数回答)として、「みんなに迷惑がかかると感じるから」を挙げた。

また、「職場の雰囲気で取得しづらいから(30.7%)」や「上司がいい顔をしないから(15.3%)」を有給休暇の取得にためらいを感じる理由として挙げるなど、多くの労働者が職場の雰囲気や上司・仲間の視線を意識して有給休暇を使用していないことが分かる。

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(*4)厚生省(2014)「時間等の設定の改善を通じた「仕事と生活の調和」の現及び特別な休暇制度の普及促進にする意識調査)」
(*5)「ためらいを感じる」(24.8%)と「ややためらいを感じる」(43.5%)の合計
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◆ダイバーシティー(多様性)マネジメントの推進と生産性向上

働き方改革を推進している三つ目の理由としては、日本政府が奨励しているダイバーシティー(多様性)マネジメントや生産性向上が働き方改革と直接的に繋がっている点が挙げられる。

ダイバーシティー(多様性)マネジメントとは、個人の性別や人種、国籍などの違いにこだわらずに優秀な人材を活用する企業経営方式である。実際、最近は経済のグロバール化が進むことにより、様々な環境に対応できる多様な人材の必要性が高まっている。

OECD加盟国の労働者一人当たりの平均年間労働時間と労働生産性の関係を示しており、両者の間には負の相関があることが確認できる。例えば、ルクセンブルクの場合、労働者一人当たりの平均年間労働時は1,509時間で短いものの、労働生産性は138,909ドルで最も高い水準を維持している。一方、メキシコや韓国の場合、労働時間は長いのに労働生産性は低い水準に留まっている。

日本は既過去と比べて労働時間は短くなったものの、労働生産性は他の国と比べてまだ低い。例えば、2014年における日本の労働生産性(就業者一人当たり名目付加価値)(*6)は、72,994ドルで、OECD平均87,155ドルより低く、OECD加盟国の中でも21位に留まっている(*7)。不要な残業や休日勤務などが労働生産性を低くした原因である可能性が高く、日本政府は働き方の改革を推進することにより多様な人材を活用することで生産性を引き上げることを目指している。

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(*6)労働生産性 = GDP / (就業者数×労働時間)、購買力平価(PPP)により換算
(*7)公益財団法人日本生産性本部(2015)『日本の生産性の動向2015年版』
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■おわりに

7月の参院選での勝利で、長期政権への礎をさらに固めた安倍首相は果敢な労働改革を実施しており、日本政府や多くの日本企業もこれに同調し速いスピードで改革が進もうとしている。

働き方改革は、非正規労働者の処遇改善、長時間労働の是正、ワーク・ライフ・バランスの実現、多様な人材が労働市場で活躍できることを目指しているものの、企業の立場からは大きな負担になることもあるだろう。また、労働の柔軟性や生産性を高める政策が同時に実施されることにより既存の正規労働者の雇用安定性は弱まる一方、労働強度は高まる可能性が高い。

働き方改革が生産性向上や経済成長だけを優先にすると、労働者の生活の質はより悪化する恐れが高い。そこで、働き方改革がマクロ的な数値を引き上げることを優先にするより、労働者の健康や生活の満足度を優先的に考慮して実施されることを望むところである。それこそが働き方改革による弊害を最小化し、より住みやすい社会の構築に繋がる「真の働き方改革」であるだろう(*8)。

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(*8)金明中(2016)「曲がり角の韓国経済第11回 労働者を優先した働き方改革を」東洋経済日報2016年9月2日を引用・修正。
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■参考文献

・金明中(2016)「曲がり角の韓国経済第11回 労働者を優先した働き方改革を」東洋経済日報2016年9月2日
・厚生省(2014)「時間等の設定の改善を通じた「仕事と生活の調和」の現及び特別な休暇制度の普及促進にする意識調査)」
・厚生労働省「就労条件総合調査:結果の概要」各年度
・厚生労働省「毎月勤労統計調査」
・公益財団法人日本生産性本部(2015)『日本の生産性の動向2015年版』
・首相官邸(2015)「「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命」2015年6月30日

金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

最終更新:9/15(木) 18:50

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