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クレカ、Suica、FeliCa――「Apple Pay」日本上陸前に知っておきたいこと

ITmedia Mobile 9/15(木) 10:20配信

 9月7日(米国時間)に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたAppleのスペシャルイベントにおいて「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」「Apple Watch Series 2」の3製品が発表され、さらに「Apple Pay」の日本国内参入が表明されている。実際の日本国内でのスタートは10月となるが、本稿では「Apple Pay利用を見込んだiPhone 7のバイヤーズガイド」として、サービス開始前に理解しておきたいことをまとめた。

【iPhone 6sやSEでもApple Payは使える?】

●Apple Payのスタートは10月末か

 Apple Payの日本でのサービス開始は冒頭のように10月とされているが、恐らく10月最終週くらいになると見込んでいる。

 その理由は2つある。まず、カード発行会社側との諸条件がまだ最終確定していないこと。そして今回のサービスインで目玉となる「Suica」対応について、最終的な機能の調整とテストに時間がかかることが予測されるため。

 Appleは日本でのサービスインのタイミングでiOSアップデートを行う予定だが、この配信タイミングが10月24日の週あたりだと考える。Suica機能を利用するための「Suicaアプリ」がどのような形で提供されるかはまだ不明だが、恐らくこのタイミングで利用可能になるだろう。そのため、現在のiPhone 7の予約状況をみるに、カラーによって、特にジェットブラックは最初の1カ月ほどは入手が困難になると予想されるが、慌てず10月後半くらいまでに入手できていれば問題ないだろう。

●Apple Payで利用できるクレジットカード

 対応するクレジットカードは、原稿執筆時点でAEON(イオン)、オリコ、クレディセゾン、JCB、トヨタファイナンス、ビューカード、三井住友カード、三菱UFJニコス、UCカードの各カード会社、そしてNTTドコモが発行する「dカード」、KDDIの「au WALLETクレジットカード」、ソフトバンクの「ソフトバンクカード」の各キャリアのクレジットカードとなる。

 これらカードはApple Payに登録することで、オンラインやアプリ内での支払い、そして店頭での「(非接触通信による)かざして支払い」に対応する。後者のかざして支払いでは、iDまたはQUICPayのいずれかの決済に対応し、これに対応する店舗であればどこでも利用できる。ただし、どの会社のカードがiDとQUICPayのいずれに対応するかは登録時点で一意に決定されるため、ユーザーが後で選択することはできない。主な対応は下記のようになる。UCカードを除けば、三井住友系のiDとJCB系のQUICPayに主に分かれると考えていいだろう。

・iD……NTTドコモ(dカード)、ソフトバンク(ソフトバンクカード)、イオン、三井住友カード
・QUICPay……KDDI(au WALLETクレジットカード)、オリコ、クレディセゾン、JCB、トヨタファイナンス、ビューカード、三菱UFJニコス

 注意点としては、支払いで対応可能な国際カードブランドとして「VISA」が含まれていないことが挙げられる。オンラインやアプリ内での決済の場合はAmerican Express、MasterCard、JCBのいずれかのカードブランドを利用することになるが、この場合はApple Payが決済カードとして利用できない点に注意したい。

 特に発行時のカードブランドで「MasterCard」と「VISA」のいずれかを選択可能な場合、現時点ではMasterCardで発行したカードしか利用できないため、後ほど説明する「SuicaへのApple Payでのオンラインチャージ」ができない可能性がある。VISA中心でカードを運用しているユーザーは注意したほうがいいだろう。

 一方で、店頭での非接触通信による対面決済ではiDまたはQUICPayのネットワークが利用されるため、VISAカードでは決済できないような制限はないと思われる。

●Suica対応にみるAppleとJR東日本の関係

 iPhone 7でのSuica利用については林信行氏のレポートもあるので詳細は割愛したい。基本的には物理的なSuicaカードをiPhoneへと吸い出す、または「Suicaアプリ」を使ってオンライン発行する形で「Wallet」アプリへとSuicaカードを登録する。

 前者については登録後にカードが無効化されるので注意したい。また、登録に際しては生年月日など個人情報の確認が行われるとのことなので、おそらく「記名式Suica」や定期券などが含まれたものに限定されると予想される。少なくともスキミングによるカード情報の抜き取りは難しいだろう。

 一般に、Apple Payは内蔵のセキュアエレメント(SE)にカード情報を保存し、決済時にはTouch IDに指を載せて「指紋認証」を行うことで支払いが行われるようになっている。必ず生体認証を通すことがセキュリティ上における強みだとAppleは説明しており、すでに諸外国で展開されているApple Payならびに、今回の国内ローンチでのiDとQUICPay利用においてはTouch IDによる認証が必須となる。

 これは多少処理時間のかかっても問題のない店舗決済ではいいが、駅での改札通過など、処理時間が短いことが望ましいケースでは処理上のボトルネックとなってしまう。実際、非接触式のクレジットカードで改札通過が可能なロンドンの地下鉄の例では、改札にiPhoneを“かざす前”にTouch ID認証を済ませておくことが推奨されている。

 そこでSuicaの場合、「Express」と呼ばれるモードが用意され、ここにカードを1枚指定しておくことで、通常のおサイフケータイと同様に「タッチ&ゴー」でiPhoneを読み取り機にかざすだけですぐに改札が通過できるようになっている。

 これは物販も同様とみられ、Suicaだけ例外的に最優先で処理が行われるようだ。このほか、Suicaに関してはさまざまな優遇措置が設けられており、マップアプリとの連携で「目的地までの移動に現在のSuica残高では足りない場合にチャージするよう警告メッセージを出す」という機能が用意されている。

 また、従来のApple Payの仕組みではなかった「特急券やグリーン券のApple Payを使ったオンライン購入」なども用意され、ほぼ「モバイルSuica」に近い機能が盛り込まれるようだ。NFC機能やセキュアエレメントのサードパーティーへの開放の話や、仏Orangeが「Orange Cash」サービスの提供で交渉に苦戦していたことを考慮すれば、JR東日本と「Suica」はかなりAppleに優遇されているといっていいかもしれない。

 JR東日本への優遇という意味では、手数料の取り扱いも気になるポイントだ。モバイルSuicaを使っているユーザーならご存じだと思うが、ビューカード以外での利用には年会費として1030円が徴収されるようになっている。関係者の話によれば、JR東日本は国内イシュアとの交渉でカード決済の手数料率が通常よりも低くなっているという。

 また、SuicaカードのJR東日本券売機でのクレジットカードによるチャージや、海外のインバウンド客に対する国外発行カードの制限がある理由について、決済手数料の個別交渉が必要な点を挙げている。つまり、それだけ決済手数料に対する姿勢がシビアというわけだ。

 今回、iPhoneユーザーにはSuicaアプリが提供されてApple Payでのオンラインチャージが可能になるという話だが、もしモバイルSuicaのように年会費の別途徴収がなければ、イシュアとの交渉で手数料の特別な条件を得たか、あるいはJR東日本側がAppleに対して何らかの譲歩を行った可能性がある。これだけを見ても、AppleとJR東日本は互いにかなり譲り合って提携を進めていた様子がうかがえる。

●Type-A/BとFeliCa排他制御の謎

 筆者が一連の現地からの報道を聞いて気になったのがここだ。説明によれば、通常の海外のApple Payで利用されている「Type-A/B」と、今回日本で利用される「FeliCa(Type-F)」は排他仕様となっており、地域設定を日本に設定した場合は後者、それ以外に設定した場合は前者が選択され、それぞれの仕組みを利用できるようになるという。

 つまり、日本のユーザーが海外でApple Payによる「タップ&ペイ」を利用する場合は設定を切り替える必要があり、逆に外国人が日本でサービスを利用する場合にも同様というわけだ。ただ、現状で挙げられている国内イシュア(カード発行会社)は海外でType-A/B利用を想定したサービスを提供しておらず、海外ユーザーに至っては日本にiPhone 7を持ち込んでもiDやQUICPayのサービスを利用できない。

 iD、QUICPay、Suicaは全てFeliCaベースのサービスであり、iPhone 7に内蔵されたNFCのアンテナはFeliCaのセキュアエレメントへと誘導されればいい。地域設定を日本外に設定すると、これがType-A/Bのセキュアエレメントへと接続されることになる。基本的には日本国内ではFeliCaしか利用しないので、大多数のユーザーはこれで問題ないのだが、なぜわざわざ排他仕様にするのかが疑問だ。

 日本のおサイフケータイではNFCコントローラーにFeliCaのセキュアエレメントと、Type-A/Bのセキュアエレメント(たいていはSIMカード)が並列でぶら下がる形態となっており、“かざした”読み取り機が要求するサービスに応じて、いずれかのセキュアエレメント内の適切なアプリケーションを自動的に呼び出すようになっている。

 つまり、本来の実装ではわざわざソフトウェア的なスイッチでユーザーが手動で切り替える必要はない。それにもかかわらずこのような仕組みにしたのは、「Touch IDによる認証(日本のおサイフケータイでは必要ない)」か「SuicaのExpressモード」など、iPhone 7ならではの特殊事情があると推察する。このあたりは追って検証していきたい。

 また、海外版iPhone 7では「日本のFeliCaサービスが利用できない」という部分も気になる。現在、NFCの(Type-A/B/F全対応の)コントローラーチップにFeliCa SEが載る形態が増えてきており、恐らくコスト的理由から日本と海外で端末を作り分けるメリットはほとんどない。

 特に大量調達が可能なAppleなら追加コストがほとんど吸収できるので、なおさらだろう。恐らく、国内外のモデルでハードウェア的な仕様の違いはなく、ソフトウェア的に(事故がないように)海外端末ではFeliCa SEの利用を停止しているのだと考える。これは、実際に製品が発売されれば恒例となっているiFixitの分解レポートのほか、実際に海外で端末を購入したユーザーが、日本でのApple Payサービス開始後に国内に持ち込んで実際にテストをすることで判明すると思う。

●制限付きのFeliCa搭載でもiPhone 7は“買い”か

 「海外で端末を購入してくるユーザー」「海外でApple Payを使いたいユーザー」「日本へのインバウンド需要」という3つのポイントからみると残念な部分もあるiPhone 7だが、ほとんどのユーザーは国内の多くの場所で「タップ&ペイ」による買い物が利用でき、便利に感じる場面が多いはずだ。さらに、筆者が事前に関係者に聞いていた範囲で「2017年まで難しい」といわれていた「公共交通での利用」が2016年10月にサービスインすることのインパクトも大きい。

 「防水対応」「FeliCaサービスの利用可能」という2点で、これまでiPhoneを避けていたユーザーの一部は、これを機会にiPhoneを利用するようになる可能性がある。ただ、シェアが極端にiPhoneに偏ることはなく、あくまで「FeliCaインフラの利用の裾野が広がる」程度に考えている。

 大都市圏で交通系ICカードを使わない人は少ないと思うが、これまで「おサイフケータイ」の利用の裾野はあまり広がってこなかった。「操作の煩雑さ」と「利用開始のハードルの高さ」が原因だと考えているが、もしAppleがiPhoneでこの現状を打破できるのであれば、カード利用中心だったユーザーに「スマートフォンでNFCサービスを利用する」ことの便利さをあらためて認識してもらえるのではないかと思う。

 「モバイルSuica」はその典型だが、ガラケー時代の操作体系にビューカード以外での年会費徴収、さらに機種変更時の移行の手間など、いろいろハードルが存在する。もしJR東日本が「Suicaアプリ」の提供を機に、Appleとの提携で使い勝手を大きく改善するのであれば、カードからスマートフォンへと移行してくるユーザーも増えるだろう。もともとiPhoneユーザーで「ICカード利用」が中心だった場合も、iPhone 7発売を機にカードを手放すようになるかもしれない。

 恐らく、iPhone 7はこうしたユーザーがよりモバイルへと移行するための最初の一歩だ。Type-A/BとFeliCaの排他利用という残念なポイントも、今後のソフトウェア更新や2017年以降の新機種登場で改善されるかもしれない。

 現状では日本国内にType-A/BのNFC決済が可能な場所がほとんどなく、AppleがType-A/Bでの国内ローンチを断念した原因の1つとみられているが、2017年や2018年以降にはインフラ整備のめどもある程度立ち、そのときにこの排他問題もあらためて解決すると予想する。

 インバウンド需要における海外からの旅行客の国内でのサービス利用も、同じタイミングで可能になると思われる。その頃には2~3年周期の買い換えサイクルが再び到来し、ユーザーはあらためて国内外両対応となったiPhoneを手に、世界中を端末1つで渡り歩ける時代が来るのだろう。

最終更新:9/15(木) 10:20

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