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「プログラミング教育」はICTを活用した新たな“学び”のシンボル

@IT 9月15日(木)12時13分配信

●特集:小学生の「プログラミング教育」その前に

政府の成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され、さまざまな議論を生んでいる。そもそも「プログラミング」とは何か、小学生に「プログラミング教育」を必修化する意味はあるのか、「プログラミング的思考」とは何なのか、親はどのように準備しておけばいいのか、小学生の教員は各教科にどのように取り入れればいいのか――本特集では、有識者へのインタビューなどで、これらの疑問を解きほぐしていく。

【その他の画像】小金井市立 前原小学校で年間20時間行うプログラミング授業のカリキュラム

今回は、プログラミング教育を積極的に実践している小金井市立 前原小学校 校長の松田孝氏に話を伺った。

●小学生は毎日学校に行くたびに過去にタイムスリップしている

 子どものプログラミング教育をめぐる動きでは、政府の新たな成長戦略で2020年度から小学校のプログラミング教育がスタートすることが2016年4月19日に発表されている。また総務省は、「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業を開始。その一環として、クラウドや地域人材を活用した、効果的・効率的なプログラミング教育の実施モデルの公募を5月27日に開始し、7月19日に選定結果を公開している。今回お話を伺った松田孝氏は、この選定を行う「プログラミング教育事業推進会議」の委員を務めている。

 松田氏は、2016年4月から小金井市立前原小学校に赴任し、タブレット端末などを積極的に活用したプログラミング授業を自ら実践している。前任校の多摩市立愛和小学校では、全児童にタブレット端末を配備し、1人1台体制を実現。2015年度には、3年生以上を対象として年間15時間のプログラミング授業を実施した実績がある。

 松田氏が、プログラミング授業に力を注いでいるのには、“小学校の教育を抜本的に変えていかなければならない”という強い思いがある。

 「コンピュータの登場で世の中の変化は速くなっている。最近ではドッグイヤーを超える速度で進歩を続けており、これに伴い社会環境のICT化も急速に進んでいます。しかし、小学校の教育現場は、100年前からほとんど変わっていないのが実情です。

 本来、学校は時代と技術を学ぶ最先端の場だったはずですが、いつの間にか100年前のまま取り残されてしまっています。これからAI(人工知能)研究がさらに進展し、IoT(Internet of Things)の活用が本格化すれば、教室の椅子や机、電灯など身の回りの全てのものにプログラミングされたマイコンが埋め込まれ、インターネットにつながり、ビッグデータとして活用されるようになります。

 そんな世の中で生きていく子どもたちにとって、“コンピュータサイエンス”と、それを本当の意味で理解するために必要な“プログラミング”は“学ぶべき内容”であり、子どもたちのキャリア形成・選択にとっても必要な“学び”だと考えます。しかし、子どもたちは毎日小学校に行くたびに100年前にタイムスリップしているのです。“小学校は、今変わらなければいけない”という危機感を抱いています」

 では、なぜ小学校の教育現場ではICT活用が進んでいないのか。それは、「従来の国語・算数・理科・社会など教科学習の完結性と完成度が極めて高いから。今さら授業の中でICTを使う必要はない、というのが教員たちの本音なのです」と松田氏は話す。

 このことを象徴的に表しているのが、2015年4月に総務省が実施した『タブレット端末の導入・拡張等に取り組んでいる自治体』に関する調査結果だ。この調査で、タブレット端末の導入・拡張に取り組んでいる自治体が少なかったのは東北地区。一方で、東北地区は、全国学力学習状況調査では優れた成績を残している。これについて松田氏は「従来型の教科学習がうまく機能していて、学力の高い地区ほど、ICT活用はそれほど進んでいない傾向が浮き彫りになりました」と分析する。

 「こうした『ICTを使う必要はない』と教員に思わせてしまっている状況を打破するには、新しい学びの“アメイジング(魅力的)な事実”をたくさん創り出すことが必要になります」

 小学校にも着実にICT化の波は広がりつつある。現在、ほとんどの小学校にパソコン教室が設置され、授業の中でICTを利用する学校も増えてきてはいる。それでも松田氏は、「パソコン教室が設置されているといっても、教室自体が離れた場所にあることが多く、お絵描きや『調べ学習』に使われている程度。また授業の中でタブレット端末などを使う場合も、視聴覚教材として便利に使っているだけです。これでは、今までの授業と何ら変わりません」と指摘する。

●小学校にプログラミング授業とタブレット導入が必要な理由

 小学校でのプログラミング教育導入への機運が高まる一方で、それに否定的な意見が多く挙がっているのも事実だ。

小学生全員がプログラミングを学ぶ必要があるのか

 例えば、「そもそも、小学生全員がプログラミングを学ぶ必要があるのか」「プログラマーになりたい子どもだけがプログラミング教室や塾に通えばいいのではないか」という意見がある。これについて松田氏は「小学校のプログラミング授業はプログラマーを育てるものではありません。これは、音楽や図工の授業も同じことで、小学生全員を音楽家や芸術家に育てるわけではないですよね。そして、プログラミングが子どもたちのキャリア形成・選択にとっても必要な学びとなっている理由は、先に述べた通りです」とあらためて必要性を訴える。

 「教室や塾に通わせると、教育費が多く掛かってしまいます。その上、教室や塾はまだまだ東京や大阪など大都市に集中している。“機会均等”という意味で、やはり公立の小学校で必修化されるというのは全然違うでしょう」

プログラミング教育はどんな論理的な思考力の育成に役立つのか

 「プログラミング教育は論理的な思考力を養うのに役立つ」という文脈で、「国語・算数など従来の教科でも論理的な思考力や判断力を育んできたのではないか」という疑問を持つ人も多い。

 これについて松田氏は、「それだけではうまくいっていないのが現実です。だからこそ、『プログラミング教育』の必要性が叫ばれているのではないでしょうか。プログラミング教育は、従来教科の“形成的評価の場”として、重要な役割を担うことになるはずです。プログラミングの授業を通じて、論理的な思考力が育っているのかどうかを検証できる。そして、この結果を各教科での授業に生かすという相互作用の中で、効果的に論理的な思考力を育むことができます」と持論を展開する。

アクティブラーニングをしたかったらプログラミング授業

 今後の学習指導要領には「アクティブラーニング」(能動的学習)を学習・指導方法として取り入れることが決まっているが、このアクティブラーニングについても、プログラミングの授業が効果的であると松田氏は話す。

 「今後は、今まで以上に積極的な“課題解決”の意欲と能力が求められます。ここにこそ、プログラミング授業が、アクティブラーニングとなって、子どもたちの資質・能力を育むのに十分に役立つゆえんがあると思います。プログラミング教育やICTが嫌いな教員にも『アクティブラーニング』は人気のバズワードですが、それを実践したかったら、基本的に「知識の伝達」となっている従来教科の枠組みではムリでしょう。教員のみならず子どもも、その枠組みに慣れてしまっていて、“アクティブ”という感覚が分からない。今の“勉強”のままでは、アクティブになれるはずがないのです。

 ところが、プログラミングの授業は、とにかく楽しい。いってしまえば、“ゲーム”、“遊び”です。遊びは主体的な“学び”の感覚を呼び起こしてくれます。プログラミングの授業がなぜ楽しいかというと、東京大学 大学総合教育研究センターの藤本徹氏がいうように、楽観性、生産性、ストーリー性、ソーシャル性というゲーミフィケーションの4つの要素を含んでいるからです。楽しい授業は、子どもの集中力や意欲を高め、主体的に学習参加する姿勢を培うことができます」

なぜ、授業でタブレットを使う必要があるのか

 松田氏が実践しているプログラミングの授業では、1人1台のタブレット環境が必須だ。子どもたち1人1人が、タブレット端末の画面を触って、さまざまな機能を駆使しながら、プログラミングを通してコンピュータサイエンスについて学んでいく。

 「今までの授業のやり方に加えて、少しだけタブレットを使うだけでいい」「タブレットはあくまでも教科書の補助的なもの」という意見もあるが、松田氏は「それでは足りない。プログラミングを通してタブレット、つまりコンピュータの機能を本当に生かす使い方を知ることで、子どものさまざまな能力の伸ばし方に気付くことができます。タブレットの導入に批判的な方も、まずは使ってみてから意見してほしい」と力を込める。

 松田氏は、ノートPCでもタブレットでも、コンピュータ端末を授業に取り入れる利点を大きく「アシスティブ」(補助的)、「アダプティブ」(個人に適応性がある)、「アクティブ」(共有できる)という3つに分けて説明する。

 「端末があると“アシスティブ”で効率的です。今の子どもたちは聴覚から受け取った情報を自分の中で再構築するのが難しくなっています。視覚に訴えるのがすごく効果的です。また何かやった後のレスポンスが速く、うまくいかなくても、すぐに何度でもやり直せます」

 「端末は“アダプティブ”でもあります。アプリによって1人1人にさまざまな辞書や地球儀が与えられているようなものです。加えて、自分で調べたいことを調べられる。動画教材を見るにしても、大画面に映して皆で見ることに加えて、自分の端末でも同じ動画教材を再生することで、自分が分からなかったところで、停止させてメモを残せます。1人1人の理解に応じて学びを構築できるのです。

 そして、自分が作ったものを友達や教員とすぐに“共有できる”。比較・検討ができることは、子どもの学習意欲をとても喚起します。また、親とも共有ができるので、親はすぐに子どもの学習成果を見ることができる。子どもと会話が増えて、一緒に考えることもできるようになります。今までの学校の学びは家庭の学びと断絶していたが、もっとシームレスになるのです。

 これらの要素が相乗的に掛け合わさって、すごく楽しい魅力的な学びを創ることができます。学校は自分で学び、みんなで学ぶ場です。ICTを活用した新たな学びのシンボルこそが『プログラミング教育』。100年変わらない小学校の教育現場を変えていくきっかけになればと思っています」

●小学校でプログラミング教育を成功させるためのポイントと実践事例

 文部科学省が2016年6月16日に公開した「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」によると、プログラミング教育を実際にどう取り入れていくかは、現場に任されている。高校では「情報」の教師、中学校では「技術・家庭」の教師がいるのに対し、1人の担任がほぼ全ての授業を実施する小学校では、誰がその役割を担うかがはっきりしない。

 また「議論の取りまとめ」には、「プログラミング教育を行う単元を教育課程に位置付けていくに当たっては、総合的な学習の時間においてプログラミングを体験しながら社会における役割を理解し、それを軸としながら、各教科等における多様なプログラミング教育につなげていくことが効果的である」としながらも「環境整備や指導体制の実情等に応じた、柔軟な対応が検討されることが望ましい」として、「総合的な学習の時間と教科学習の双方で実施したり、教科学習のみで実施したり、総合的な学習の時間のみで実施したりするなど、柔軟な在り方が考えられる」と記載されている。

 小学校の教員は、具体的にどのように授業を進めていけばいいのだろうか。松田氏は、2016年度、小金井市立前原小学校で実際に進めているプログラミング授業のカリキュラムを具体例として紹介してくれた。

プログラミングを学ぶツールの系統図をまとめる

 松田氏はカリキュラムの作成に当たって、まずはプログラミングを学ぶツールの系統図をまとめた。低学年から高学年までを横軸に、STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)を意識して「サイエンス」「テクノロジー」「エンジニアリング」という言語の特性を縦軸にして、ツールを体系化。これを基に授業の内容や目的に応じたツールを活用しているという。

 「低学年の間は、PETSやGlicode、図にはないですが、『ルビィのぼうけん』やコンピュータサイエンスアンプラグドを導入として使うのもいい。

 中学年向けには、ScratchJr(幼児向けScratch)からScratchへと移行します。ScratchやPyonkee(iPadで動くScratch移植版)などScratchベース&ライクなものから小学生に大人気のMinecraftに移行することもできます。

 高学年になったら、ロボット制御。ScratchライクなTickleを使ってBB-8やドローンを動かしたり、Studuino(スタディーノ)でアーテックのロボットを動かしたり、レゴ マインドストーム EV3や、(発売されたら)ソニーのKoovを使ったりするのがいいと思います。

 低学年でコンピュータサイエンスアンプラグドなど、アナログの体験から入り、中学年でバーチャル世界、つまりコンピュータでのプログラミングを学ぶ。そして、最後に高学年でロボットを通して現実とのつながりを意識させます。リアルの世界にまた帰ってくる体験が、すごく大事な学びです」

 また、低学年から高学年に向けて、「サイエンス」「テクノロジー」「エンジニアリング」と進みながら、コンピュータサイエンスへの理解を深めていくことが極めて重要だと松田氏は述べる。

 「Viscuitは全学年で学ぶべきです。Viscuit開発者である原田先生の『コンピュータとは何か、つまりコンピュータサイエンスを分かってもらうためにViscuitを作った』という姿勢に共感しています。Viscuitは数字を使わないし、シミュレーションもできて面白い。Scratchは手続き型で、Viscuitは宣言型で命令の仕方が全然違います。手続き型で作ったプログラムと同じことをViscuitでも作らせることで、命令の仕方の違いから、子どもたちは大きな衝撃を受けるでしょう。そこから『コンピュータへの命令、つまりプログラムにはいろいろなものがある』『コンピュータに命令するとは、どういうことなのか』ということを考えてもらいたいですね」

 また松田氏は、Code.orgのCode StudioやCodeMonkeyなどのチュートリアル型コンテンツを使うことも、プログラミングの学習に位置付けている。

 「Code Studioにはアンプラグドのレッスンもありますし、プログラミングの構造理解に役立ちます。CodeMonkeyなどはコーディングのトレーニングに役立つでしょう」

 このように各ツールやコンテンツを位置付けておけば、教員は、自分たちの学校の環境によって使えるものと使えないものがあっても、使えるものの中でプログラミング授業の効果を把握しやすくなるという。

年間20時間のカリキュラムでプログラミングの授業を実践

 このようなツールの位置付けをもって、具体的にどのようなカリキュラムを作成するのか。松田氏は、前任校での経験を踏まえて、前原小学校では2016年度、3年生以上の「総合的な学習の時間」で年間20時間のカリキュラムを作成してプログラミングの授業を進めている。

 「せっかくのプログラミング授業を、2、3時間で済ますだけではもったいない。取り扱うツールの操作理解で終わってしまう。2017年度は35時間行いたいと思っています。また、プログラミング学習の本をなぞらせるだけでは、コンピューテーショナルシンキングは育たないでしょう。

 1学期は『導入』フェーズとして、『プログラミングと生活』をテーマに、BB-8のダンスから入って、高学年の生徒はTickle(中学年はScratchJr)に触れ、Code.orgやViscuitを使ってプログラミングの面白さを知ってもらう。3~6年生10クラス中の1クラス分6時間は私が授業をして、その様子・展開を教員に見て覚えてもらい、そこから各教員にもやってもらいました。

 夏休みは『Why!? プログラミング』を見ることを宿題にしています。2学期は、『展開』フェーズとして、ScratchやMinecraftを活用しながら、プログラミングの習熟度を高めていきます。3学期の『発展』フェーズでは、LEGOのEV3やアーテックを使ってロボット制御にトライし、プログラミングの便利さと豊かさを理解してもらいます」

 カリキュラムの最後でロボット制御に取り組むのは、バーチャルの世界だけで完結したくなかったという松田氏の強い思いの表れだ。

 「バーチャルの世界では、バグを除けば、“もの”をプログラミングで思い通りに動かせます。しかしロボットが動くリアルの世界では、床の摩擦など物理的要因により、必ずしもプログラミングした通りに動かせるとは限りません。子どもたちはロボット制御を学ぶことで、プログラミングと現実社会を結び付けて、『リアルの本質って何なんだろう』と考えるようになります。

 ロボット制御によって、生活の中でプログラミングがどんな役割を担うのかを体感させることも重要です。『現実社会をより良くしようとしたときに、こうやってプログラミングしたらいいのでは』という“問題”の切り取り方のイメージを膨らませる。その発想の部分を含めてコンピュータサイエンスへの理解を深めていくことができるのではないでしょうか」

プログラミングの考え方を各教科の学習でどのように生かすか

 現在、松田氏が実践しているプログラミング授業は、「総合的な学習の時間」でのカリキュラムだが、「議論の取りまとめ」にあるようにプログラミングの考え方を各教科に取り入れていくことはできるのだろうか。松田氏は、「プログラミングの考え方を各教科の学習で活用できるかどうかは、教員のアイデア次第」と言い切る。

 また、プログラミングの授業を行うことで、授業の内容や方法を含め、教育システムを再検討するきっかけとなるという。

 「例えばプログラミングでは、小数点やマイナス、座標の概念が当たり前のように出てきます。通常これらの概念は、低学年の生徒は習わない。早い段階から高度な算数の知識を身に付けることができる。つまり、従来のカリキュラムに収まり切らない状況が生まれるのです」

 松田氏は事例を紹介しながら、各教科でプログラミングを活用するヒントを示してくれた。

 「国語では、絵本などの物語を読ませて、そこからイメージを膨らませて、Viscuitで動く絵本を作るという教え方が考えられます。絵本の中のキャラクターがどう動くのか、子どもたちの創造力を養うことができるでしょう。また算数では、Scratchを使って四角形を描いてもらい、4辺の長さと面積の関係性を体感させることができるでしょう」

 社会では、Minecraftを使って、日本の各地域に適した家(例えば、沖縄など台風の多い地域は平屋で、豪雪地帯は2階建てになっているなど)を建ててもらうことで、各地の気候風土を学ぶことができます。図工では、ストローで作るロボット『Strawbees』を『Quirkbot』のプログラミングで動かすといった授業も可能です。

 このようなアイデアを自分で思い付くには、やはり各プログラミングツールやタブレットの特性を知っておいた方がいいでしょう」

●「小学校の先生」は、データサイエンティストでありファシリテーターであれ

 このように具体的な施策を提示する中で、松田氏は教員に対して「マインドセットを変革する必要がある」と指摘する。

 「『従来の授業はクソゲーだという危機意識を持ちませんか』と挑発的なメッセージを出しても、ぴんと来ない教員が多い。先にお話しした通り、従来の国語・算数・理科・社会など教科学習の完結性と完成度が極めて高いことが原因でしょう。プログラミング教育という、新しいものが入ってくることに対する違和感や抵抗感が強いように思います」

 では、松田氏が考える今後あるべき「小学校の先生」とは、どのような人材なのだろうか。

 「教員は、モビリティやソーシャル、ビッグデータ、クラウドといった第3のプラットフォームを意識してICTを使いこなし、データサイエンティストになるべきです。どこにでも持ち運べて、情報の共有もしやすいタブレット端末を使えば、テストの成績や学習履歴などがビッグデータとしてクラウドに蓄積されやすくなる。そうすれば、子ども1人1人の得意・苦手科目や学習傾向を分析・把握しやすくなります。

 そして極論をいえば、教員は教科の内容を教えなくてもいいと思っています。データ分析に加え、授業ではテレビの教育番組や動画教材、タブレットアプリなどを活用し、教員は子どもたちが学習している様子を“観察”しながら、クラス全体で学び合う大きなテーマを作っていく。これは、まさにソーシャルであり、アクティブラーニングです。教員に求められる役割は、ファシリテーターなのです。

 従来までの“先生”の姿はそこにはありません。そもそも教員には、『自分が教えなければならない』という強迫観念がありますが、ファシリテーターに徹した方が、教員にとっても楽しい授業になるはずです」

 よく「プログラミングを必修化したら授業の準備に時間がかかり小学校の先生が大変だ」といわれるが、そもそもITの力で従来の授業の仕方を大きく変えることで、教員の労力を削減できるというわけだ。子どもたちに知識を理解させるために、プリントを作って、印刷して、配って、やらせて、回収して、円付けして、採点する。これらはタブレットを導入するだけでも、大きな労力削減となる。

 「例えば、漢字の書き取りプリントや都道府県フラッシュカードなどは作成が大変ですが、その代わりができるタブレット端末やアプリはもうあるわけです」

 端末の導入に関しては初期コストが掛かるが、松田氏は、「もうBYOD(Bring Your Own Device)で、生徒に端末を持ち込んでもらうのでいいのではないでしょうか。行政には、セキュリティや負荷分散など含めて無線LANなどの通信インフラを整えてほしい」と提案する。

 ソフトウェア面でも教育システムの導入にはコストが掛かりそうだが、これについては「がっちりと固められたシステムよりも、各学校や教員が自由に選べた方が面白い。IT技術の変化は速いので、ツールもより良いものがすぐに現われるでしょう。行政がクラウド上に教育ツールのアプリやコンテンツのプラットフォームを作って、自由に追加・選択できるようになることを期待しています」と話した。

 こういったプラットフォームの整備や、アプリの拡充には、今後ITエンジニアの力が必要となっていくことが予想される。松田氏からITエンジニアにもメッセージをもらった。「学校のプログラミング授業を助けてほしいですね。自宅の近くにある小学校の先生とプログラミング授業や学校のITインフラについて話したり、働き掛けたりするなど、専門家として貢献できることがあるはずです。『チームティーチング』を行う場合も、授業を展開するのは主に学校の教員が行い、ITエンジニアの方にはテクニカルサポートに入っていただくのが理想の姿だと思います」

 松田氏は、インタビューの最後に、これからプログラミング授業に取り組む教員たちに向けてもメッセージを送ってくれた。

 「小学校の教育は、子どもたちの未来に責任を持っています。しかしその未来は、遠い先ではなく“今”にあります。『プログラミング教育』は、2020年の必修化が検討されていますが、教員はそれを待つのではなく、今から積極的に取り組んでほしい。現代社会は変化するスピードがものすごく速いため、2020年には『プログラミング』に代わる新しい課題が生まれているでしょう。既に多くの学校に『パソコン教室』があるので、タブレットみたいに自由度が高くはなくても、やれることがあるはずです。やれるところから徐々に試してみてはいかがでしょうか。

 テクノロジーを積極的に活用した教育実践を推進していくことで、小学校教育は大きく変わることができると確信しています。その象徴こそが、プログラミングの授業なのです」

●次回は、「プログラミング教育必修化の本質を考えるシンポジウム」

 今回お話を伺った松田氏の取り組みは、学校現場ではとても先進的なIT活用事例といえるだろう。松田氏も「完全に異端ですよね」と自認している通り、ICT活用が進まない学校の教員から見れば、なかなか自分事化するのは難しいかもしれない。

 とはいえ、プログラミング教育を既に実践しているのは、前原小学校だけではない。まだ時間数は少ないが、実験的に取り組み始め、課題も含めて今後のプログラミング教育を現実のものとして検討している小学校もある。2016年8月27日に開催された「プログラミング教育必修化の本質を考えるシンポジウム」では、4校の取り組みが紹介されたので、次回は、この模様をお届けしよう。

最終更新:9月15日(木)12時13分

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