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30年の空白――オスカー俳優が明かした、スピルバーグとの意外な過去

Movie Walker 9月15日(木)14時32分配信

「スティーヴン・スピルバーグという素晴らしい物語を語れる人と一緒に仕事ができて、本当に光栄です」。これは、今年3月に行われた第88回アカデミー賞で助演男優賞を受賞したマーク・ライランスのスピーチだ。

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ライランスはオスカーに輝いた『ブリッジ・オブ・スパイ』(16)に続き、最新作『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(9月17日公開)でも、再びスピルバーグとタッグを組んでいる。この度、作品のPRのために来日したライランスへのインタビューが実現。彼が語る裏話から、スピルバーグとのただならぬ信頼関係が見えてきた。

現在56歳のライランス。オスカー受賞で初めて彼のことを知ったという人も多いかもしれないが、トニー賞に3度輝くなど、舞台俳優としては名の知れた大ベテランだ。そんな彼が、児童文学が原作となっている『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』で、常に笑顔を絶やさない心優しき巨人=BFGとして、これまでとは一線を画す演技を披露している。

「僕は7メートル近い巨人を演じていて、相棒となる少女・ソフィーとはサイズにかなりの違いがある。ソフィー視点のシーンでは、僕は大きな足場の上で演技しなければいけなかったんだ。2人が通じ合っているか、確かめながら撮影する必要があって大変だったね」。

リアルな演技を得意としているライランスにとって、エンタメ色が強い本作では、モーションキャプチャーなど初モノづくしの撮影となった。「モーションキャプチャーは、制約が少なくて自由に演技ができるから非常に楽しい経験だった。ただ撮影用の服がダサいから、現場にスカーレット・ヨハンソンみたいな美人が遊びに来なくてよかったよ。あまり見られたくない姿だからね(笑)」。

『ブリッジ・オブ・スパイ』とは正反対ともいえるファンタジックな世界観で、心から楽しんで演じたライランスだが、その裏ではスピルバーグへの過去の不義理を今でも悔やんでいるようだった。

「86年のことだ。スティーヴンが監督した『太陽の帝国』(87)の出演オファーを断ったことがあるんだよ。一度はOKしたんだけど、それと同時に以前から仕事をしてみたかった舞台演出家が声をかけてくれてね…。どっちも出演したかったから、それは悩みに悩んだよ」。

判断に迷ったライランスがとった行動は、かなり意外なものだ。「“易経”という中国の歴史ある占いに頼ったんだ。易経は物事がどう変わるのかを教えてくれるんだけど、僕が占ってみたら、舞台の仕事を受ければ、その先には“コミュニティが待っている”という結果が出た。当時の僕は何かのグループの一員になりたいという気持ちが強くて、それが役者になった理由でもあったから、舞台を選んだんだ」。

ライランスは、スピルバーグには悪いことをした、といった様子で声のトーンを落とし、「でも、その舞台で今の妻にも出会えたから、そういう運命だったんだろうね」と懐かしむように振り返っていた。

「スティーヴンには『もしあの時イエスと言ってくれたら、きっと今日まで沢山の作品を一緒に作れたのに…』と言われるんだ」と語るライランスだが、その空白の30年間を埋めるかのように、ここ数年でスピルバーグ作品に4本(待機作を含む)立て続けに出演している。スピルバーグと仕事を共にする日々が続いているライランスは、彼をどう評価しているのだろうか。

「例えば、ポール・トーマス・アンダーソンやギャスパー・ノエといった素晴らしいフィルムメイカーがいるよね。彼らは『観客が俺のところに来い!』っていうタイプの作家だと思うんだ。それに対してスティーヴンは、自分の好きな物語を見つけると『みんなに届けたい』という思いが強いんだ」。

やはり、ライランスにとっても、スピルバーグは特別な存在のようだ。「多くの人に物語を届けるには、その物語の本質は何か、多くの人が理解するために何をするべきかなど、いろいろと考えなくてはならない。スティーヴンはそんな困難を乗り越えて、最終的にはたくさんの人に理解されつつも、物語の持っている価値をまったく下げない映画を作ってしまうんだよ」。

「僕はスティーヴンの提案が大好きだし、彼も僕の演技を楽しもうとする姿勢を好いてくているんだと思う。とにかく馬が合うんだよ(笑)」とスピルバーグの話をする時は、終始穏やかな笑顔が浮かべていたライランス。その笑顔は、30年間の空白を埋めることができた、という安堵の表情なのかもしれない。【取材・文/トライワークス】

最終更新:9月15日(木)14時32分

Movie Walker