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【安藤政明の一筆両断】女性の社会進出を阻む仕組み

産経新聞 9月15日(木)7時55分配信

 来年の税制改正で、配偶者控除の見直しが検討されています。配偶者控除とは、配偶者を扶養する者に対し、税金負担を優遇する制度です。専業主婦が当たり前だった昭和36年につくられました。50年以上前の制度が今も当たり前のように生きているのです。

 当時の感覚として、「独身男性」と「妻を扶養する男性」を比較し、どうしても世帯をもつ者の生活が厳しくなることに着目したわけです。救済策として、妻を扶養する男性の税金を優遇する仕組みがつくられました。当時は合理性があったといえるでしょう。

 しかし、時代は変わりました。現在は「配偶者を扶養する者」と「共稼ぎ夫婦」の比較から、さまざまな検討がなされるようになっています。労働力人口の減少などの背景もあり、女性の社会進出が推進されるべき重要な施策の一つになっています。それなのに、専業主婦や、収入年間103万円未満のパート主婦でいた方が、税法上優遇されるわけです。

 そのため、女性の社会進出を抑制する要因になっているという話になるわけです。

 「専業主婦等」の優遇は、税制だけではありません。公務員や企業などに勤務する者に扶養される配偶者は、健康保険料や国民年金保険料も負担ゼロです。負担ゼロで医療サービスを受け、負担ゼロで老後の年金も受給できます。ところが、被扶養者としての「地位」を捨てて社会進出すれば、税の他に健康保険料や年金保険料も負担しなければならないのです。医療年金分野の優遇措置は、配偶者控除よりも、はるかに影響が大きい優遇措置だといえます。

 ところで、被扶養配偶者は税金や社会保険料などの負担をしませんが、国家としてお金がかからないということではありません。では、被扶養配偶者の医療費や将来支給される年金原資は、誰が負担しているのでしょうか。「私は扶養されているから、主人が負担している」という人がいますが、これは大きな誤解です。「主人」は、配偶者を扶養していない他の者と比較して、全く同じ水準の保険料しか負担していません。ということは、「主人」の他、働いている他の多くの国民がみんなでお金を出し合って負担しているのです。別の視点から言えば、共稼ぎ夫婦は、よその被扶養配偶者の保険料分まで負担させられているということになります。

 さらに、共稼ぎ夫婦はそれぞれの所得に応じて税を負担しますが、配偶者を扶養する者の税負担は、配偶者控除によって優遇されているのです。

 働いている女性の多くの方が、配偶者控除だけでなく、健康保険や年金の扶養制度にも大きな不満を持っています。それも当然のことでしょう。女性の社会進出を想定しない時代の仕組みが、何も変わらず立ちはだかるのですから。

 日本は、少子高齢化という大きな問題を抱えています。これが、労働力人口の減少問題にもつながるのですが、一方で少子化対策とのバランスも重要です。税負担の優遇対象は、配偶者を扶養する者ではなく、出産育児支援のためにシフトする必要があります。被扶養者として社会全体で負担すべき対象は、原則として子供だということになります。大人でも、就労不能の障碍(害)者や高齢者は、社会的な保護対象となるでしょう。しかし、他の者に扶養されている一般の大人については、扶養している者が負担すべきであり、他の国民に負担させるべきではありません。

 配偶者控除見直しは、女性の社会進出を抑制するという視点から検討されていますが、本来は「公平な負担」という視点から検討すべき問題だと考えます。

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【プロフィル】安藤政明

 あんどう・まさあき 昭和42年、鹿児島市生まれ。熊本県立済々黌高、西南学院大、中央大卒。平成10年に安藤社会保険労務士事務所開設。武道と神社参拝、そして日本を愛する労働法専門家として経営側の立場で雇用問題に取り組んできた。労働判例研究会、リスク法務実務研究会主宰。社労士会労働紛争解決センターあっせん委員。警固神社清掃奉仕団団長。

最終更新:9月15日(木)7時55分

産経新聞