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PGA最少「58」のスイングがスライサーを救う

日刊スポーツ 9月15日(木)11時59分配信

 今年、数々の記録を打ち立てているMLBマーリンズのイチロー。オリックス時代に振り子打法と呼ばれた変則スイングを矯正されていたら、今の活躍はなかったかもしれない、とはよく聞く話だ。

 最近PGAでも、ある変則スイングの選手が偉業を成し遂げた。8月のトラベラーズ選手権最終日。1イーグル、10バーディーの「58」(パー70)。PGAツアー、史上最少ストロークである。この記録を打ち立てたのは、48歳の決して派手とは言えないベテラン選手だった。

 ジム・フューリク。今年のライダーカップの副主将にも選出された、だれもが認める実力者だ。

 彼のスイングは控えめに言っても特異だ。テークバックの際、腰の高さから突如ヘッドを垂直に振り上げ、ダウンスイングでは背中側から回すように振り下ろしてくる。このトップで8の字を描くループスイングは、1度見たら忘れることのできない個性的なスイングだ。

 そんなフューリクはメジャー優勝経験こそあるもののプレースタイルに派手さはなく、タイガー・ウッズやミケルソンのようないわゆるスター選手ではない。

「ジム・フューリクってどんな選手?」と聞けば、多くの人がこう答えるだろう。

「変則スイングのベテラン選手」

 彼の武器は、ツアー随一と言われるショットの正確性だ。史上最少ストローク「58」を記録したラウンドでは、パーオン率100%を記録した。ドライバーは平均280ヤードと、PGAツアーでは”飛ばない”部類に入るが、フェアウエーキープ率、パーオン率のランキングでは常に上位に名を連ねる。

●レッスンの巨匠が提唱する変則スイング

 どうしてのフューリクの変則スイングは正確性が高いのか。それを説明できるのが、近年デビッド・レッドベターによって提唱された「Aスイング」と呼ばれるスイング理論だ。

 レッドベターといえば「ザ・アスレチックスイング」という、スイングの構造をシステマチックに解説をしたレッスン書籍が一世を風靡(ふうび)した、レッスン界のレジェンドである。今回彼が発表した「Aスイング」は、それとは異なる。「Aスイング」のAは「alternative」の頭文字で代替という意味だ。アマチュアの上達に主眼を置き、現状のスイングに代わるシンプルな上達法として提唱されている。

 「Aスイング」が目指すのは再現性と正確性だ。腕の動きを極力排除し、体の動きでクラブをコントロールするシンプルなスイング理論である。

 私が招請したレッスンイベントで、レッドベターはAスイングをわかりやすく表現するために「ジム・フューリクのようなスイング」と説明をしていた。初めてその話を聞いたときに今までのレッドベター理論とは大きな違いがあったので戸惑った覚えがある。しかし、クラブヘッドが回転しにくい大型ヘッドが主流になった現代にマッチしたオートマチックでシンプルなスイング理論ともいえる。

●「Aスイング」はカットスライスを矯正する

 スイングで気を付けるべきポイントもシンプルだ。

 テークバックでクラブをアップライトに上げるのだ。左腕が地面と平行になる直前でシャフトが地面と垂直から前傾角度の間に納まるようにバックスイングを行う。ヘッドが飛球線をなぞるように上がっていくので、通常のプレーンよりはかなりアウトサイドに引かれる。そして、そのままトップまでクラブを上げると、下ろすべきポイントは1点しかなくなる。目いっぱい、腕を自分から見て時計の針と反対方向にねじりながら上げているので、自然とインサイドからクラブが下りてくるのだ。

 プロやスイングコーチたちが目指すのは、常にスイングプレーンを外れないスイングだ。しかしこのオンプレーンスイング、逆に言うとアウトサイドにもインサイドにも外れてしまう可能性が高い。反復練習の量が少ないアマチュアともなれば、そのリスクは大きくなる。

 しかし、「Aスイング」のように極端なまでにシャフトを立てながらアウトサイドにクラブを上げれば、インサイドからしか下ろすことができない状態を作ることができる。アマチュアの大半がアウトサイドインのカットスライサーだと言われているが、これを強制的に修正することができるのだ。

●レッドベターのメッセージ

 一見、変則的で万人に合うようには見えないループスイングだが、スライスに悩むアマチュアは試す価値が大いにある。極端な動きだからこそ、逆に安定しているといえるからだ。

 Aスイングの要素を取り入れるために、まずはテークバックでクラブヘッドを飛球線上に上げ、シャフトを立てる動きを試してみることをお薦めする。このとき手元を外に上げるのではなく、肩の上下の回転を意識してテークバックを行うのがポイントだ。

 かつて「アスレチックスイング」を提唱し、レッスンの基礎を作り上げたレッドベター。そして彼が、60歳を超えて提唱した「Aスイング」。

 ともすれば、まったく違ったアプローチに見えるが、無駄を省くことで、上達を促すというレッドベターの信念は変わることがない。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

最終更新:9月15日(木)12時37分

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