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日銀、財務省、金融庁の「三すくみ」…マイナス金利めぐる複雑な“胸中”

産経新聞 9月16日(金)10時5分配信

 日銀の「マイナス金利政策」をめぐって日銀と財務省、金融庁が「三すくみ」の状態に陥っている。日銀は2%物価目標に向けてマイナス金利を強化(深掘り)したい考えだが、金融庁は「銀行の収益悪化が貸し付け余力の低下につながる」と懸念。財務省は超低金利を生かして40年物国債を増発するが、政府から際限なく財政出動を求められるのを恐れている。3者の利害は複雑化しつつある。

 ■マイナス金利で「3000億円減益」

 金融庁は7月下旬、3メガバンクグループの平成29年3月期決算で「マイナス金利は3000億円程度の減益要因になる」との調査結果をまとめた。金融庁は3メガに対し、金利収入▽デリバティブ(金融派生商品)取引▽運用商品の販売などリテール取引-について影響を聞き取り調査した。

 日銀は今年2月、民間の銀行から預かるお金の一部に事実上0.1%の手数料を課すマイナス金利政策を導入。市場金利は日銀の予想よりも急低下(国債価格は急上昇)し、銀行は預金金利(費用)より貸出金利(収益)の下げ幅を大きくせざるを得なかった。

 この結果、貸出金利と預金金利の差である「利ざや」の縮小などから、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は1550億円、三井住友FGは750億~760億円、みずほFGは610億円の減益要因になると試算。今後、日銀がマイナス金利幅を深掘りした場合、金利収入面のみで400億~600億円損失が上積みされるという。

 これまで金融庁は3メガにマイナス金利政策への協力を求めていたが、「副作用は予想以上に大きい」と判断し、慎重姿勢に転じたようだ。

 3メガもマイナス金利への拒否反応は強い。三菱UFJの平野信行社長は4月、公の場でマイナス金利に苦言。全国銀行協会の国部毅会長(三井住友銀行頭取)も7月の記者会見で、「効果の検証が先決」と深掘りを牽制(けんせい)した。金融庁の“威光”を盾に、マイナス金利を撤回させたいとの本音もうかがえる。

 ■金融仲介機能「阻害しない」

 金融庁の懸念に異を唱えるのが日銀だ。こうした試算について、日銀の黒田東彦総裁は、8月中旬の産経新聞のインタビューで、「今年度は利ざや縮小の影響を受けるかもしれないが、日本の金融機関は、リーマン・ショックの影響が(欧米の金融機関より)相対的に小さく、収益が極端に悪化するとは思っていない」と持論を展開。お金の出し手と借り手の資金の流れを円滑にする「金融仲介機能」は損なわれないとの見方を示した。

 その背景には、日銀が大規模金融緩和を始めた25年度以降、「メガバンクを中心に金融機関の業績を円安・株高で後押ししてきた」(日銀関係者)との自負がある。28年3月期の大手銀行5グループの最終利益の合計は前期比5.4%減の2兆6195億円。市場金利が低下する中、2年連続の減益を余儀なくされたが、それでも2兆円台の最終利益は過去10年間では比較的高い水準だ。

 東京証券取引所などに上場する地方銀行84社(持ち株会社を含む)の最終利益の合計は前期比8.0%増の1兆1940億円。比較可能な21年3月期以降で最高益となり、3年連続で1兆円を超えた。

 マイナス金利政策の影響を年間を通して受ける29年3月期の大手銀5グループの最終利益予想は前期比5.3%減の2兆4800億円と3年連続で前期を下回る見通しだが、2兆円を上回る。

 「マイナス金利の深掘りも、(国債購入の)『量』の拡大もまだ十分可能」

 黒田総裁は5日、東京都内で講演し、マイナス金利幅の引き下げは可能との認識を強くにじませた。

 それでも市場が「疑問符」を付けているのは、財務省のスタンスを読みにくいことがある。

 ■評価?警戒?

 「それなりの効果はあった」

 麻生太郎財務相は、マイナス金利導入から半年の8月15日の記者会見で、日銀をこう擁護した。

 麻生氏は会見で副作用に触れつつ、「(金融機関の)資金調達コストは下がり、保有国債は評価益が出ている。良い面が出てきたのは間違いない」と指摘。政府・日銀が一体となってデフレ対策に取り組んでいく考えも改めて示した。

 報道陣から「金融庁の方向性は少しずれている印象だが」と問われても、「あなたの感想にすぎない」とけむに巻いた。

 マイナス金利は財務省の国債発行に好影響を及ぼし、借金の利払い費圧縮にもつながる。

 実際、財務省は超長期の国債である40年債を4000億円増発する方針。日銀による大規模な金融緩和とマイナス金利による超低金利の環境を生かす狙いがある。

 また、マイナス金利の結果、予算計上されている利払い費を圧縮でき、その分を補正予算の財源に回すこともできた。

 外資系証券の試算では、日銀がマイナス金利を3年間継続した場合、利払い費を計5兆円強節約できるという。

 ただ、財務省にも懸念はある。超低金利環境が続けば、政府から「打ち出の小づち」のように財政出動を求められる危険性が高まるからだ。

 日銀の緩和策はいずれ終了する。そのとき、財政健全化の見通しが立っていなければ、金利は急騰(価格は急落)して利払い費が一気に膨らんでしまう。

 さらに、マイナス金利が深掘りされれば、金融機関の一段の収益悪化が意識され、銀行株を中心に日経平均株価が上昇しにくくなるのも懸念材料だ。

 黒田総裁も5日の講演で、「金融機能の持続性に対する不安をもたらし、経済活動に悪影響を及ぼす可能性には留意する必要がある」と認めた。

 日銀、財務省、金融庁の三すくみの状態は解消できるのか。20~21日の金融政策決定会合でまとめる「総括的な検証」が試金石となりそうだ。(藤原章裕)

最終更新:9月16日(金)10時5分

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