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若年層の消費実態(4)-「高級ブランド離れ」「クルマ離れ」は本当か?

ZUU online 9月16日(金)19時0分配信

■要旨

本稿では、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の被服費や自動車関係費の変化を確認するとともに、社会背景の変化もあわせて、「高級ブランド離れ」や「クルマ離れ」の状況を考察した。

若年単身勤労者世帯では、男女とも被服費がバブル期の半分以下へ大幅減少していた。背景には、ファスト・ファッションの台頭や消費社会の成熟化により、過去より、お金をかけなくてもハイレベルな消費生活を楽しめるようになったこと、モノがあふれ物質的欲求が薄まった結果、「高級ブランド離れ」をしていることなどがあげられる。

「クルマ離れ」については、娯楽の増加やリスク回避志向の強まりなどからクルマに感じる魅力が弱まっていることを背景に、若い年代ほど運転免許保有率が低下し、「クルマ離れ」をしている様子がうかがえた。しかし、大都市の男性や一人暮らしの男性では「クルマ離れ」が進む一方、一人暮らしの女性ではクルマ利用は増えているなど、若者の間で温度差がある様子も確認できた。

■はじめに

「若年層の消費実態」第四弾の本稿では、ファッションや自動車の消費支出について見ていく。これまでと同様、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出のデータを用いて、現在の若者とバブル期の若者を対比するとともに、社会変化もあわせて考察する。

世間では、今の若者の「高級ブランド離れ」や「クルマ離れ」などが言われるが、実際はどうなっているのだろうか。

■ファッション費の変化

◆若年単身勤労者世帯の「被服及び履物」費の変化~男女ともバブル期の半分以下へ大幅減少

まず、ファッションに関わる支出について確認する。30歳未満の単身勤労者世帯の「被服及び履物」の支出額について、1989年のバブル期と2014年を比べると、男女とも大幅に減少している。

男性は1.1万円から5.4千円へ、女性は2.1万円から8.9千円へと、いずれも実額で半分以下に減少しており、物価を考慮した実質増減率は約6割も低下している。なお、個別品目の状況を見ると、ほぼ全ての品目で実質増減率が低下しており、30歳未満の単身勤労者世帯では、ファッションにかける費用が全体的に減少している。

今の若者は、おしゃれをしなくなったのだろうか。しかし、世間を見渡すと、特に男性は、ひと昔前より、身綺麗になった印象が強い。2000年代には都内で男性専門の百貨店も開店し、様々なメーカーから男性専用化粧品が発売されている。また、女性についても、おしゃれに気を使わなくなったという印象は薄いだろう。

「若年層の消費実態(3)~『アルコール離れ』・『外食離れ』は本当か?」(http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53147?site=nli)では、若年層の外食費が減った要因として、消費社会の変化の影響も指摘した。外食産業の多様化や価格下落の恩恵を受け、現在では、お金をかけなくても充実した外食を楽しめる環境にある。若者のファッション費の減少についても、近年の消費社会の変化について考慮する必要がある。

◆消費社会の変化~ファスト・ファッションの台頭、モノがあふれ物質的欲求が弱まり「高級ブランド離れ」か

前項で見た通り、今の若者ではバブル期と比べて被服費が大幅に減っている。若者のおしゃれ意識が変わったのだろうか。また、巷で言われるように、節約志向を背景とした「高級ブランド離れ」が原因なのだろうか。

バブル期では、欧米の高級ブランド品を持つことが、ある種のステータスであった。また、国内の百貨店でもDCブランドにも勢いがあった。消費社会は現在ほど成熟しておらず、良い物や流行の物、最新の物を手に入れるには、その分、高いお金を出す必要があった。裏を返すと、高い物は良い物という見方をされた時代でもあった。

しかし、1990年代以降、日本の消費社会は進化してきた。洋服については、近年、ファスト・ファッションが台頭している。なお、ファスト・ファッションとは、ファスト・フードにならって使われ始めた言葉である。最新の流行デザインだが低価格に抑えられた衣料品のことであり、短いサイクルで世界的に大量生産・販売される。

例えば、2000年頃にユニクロでは、当時の市場価格が5千円程度であったフリース・ジャケットを半値以下で提供し、かつ、高品質であったため大きな話題となった。また、同時期にスペインのZARA、2000年代に入ってからスウェーデンのH&Mなど、近年、海外のファスト・ファッション・メーカーが相次いで日本に上陸している。

よって、現在は、安価で高品質な衣料品があふれており、お金をかけなくても流行のファッションを楽しむことができる。このような変化により、バブル期に見られたような良い物は高い、高い物は良いという価値観が薄まり、若者ではファスト・ファッションを上手く利用し、「高級ブランド離れ」もすることで、ファッションにかける費用が大幅に低下しているという見方ができるのではないだろうか。また、今の若者は、景気低迷による節約志向もあるかもしれないが、安価で高品質、最新のモノがあふれる中で育ってきたため、過去と比べて物質的な欲求が弱まっている可能性もある。

以上より、ファッション費の大幅減少は、若者がおしゃれをしなくなったわけではなく、消費社会の成熟化により、過去よりお金をかけなくてもハイレベルな消費生活を楽しめるようになったこと、価値観の変化により「高級ブランド」に対する欲求や憧れが薄れたことが影響していると考えられる。

■クルマ関係費の変化

◆若年単身勤労者世帯の「自動車関係費」の変化~男性は減少傾向、女性は増加傾向、薄まる性差

次に、自動車関係の支出について確認する。30歳未満の単身勤労者世帯の「自動車関係費」について、1989年のバブル期と2014年を比べると、男性は1.8万円から7.3千円へと半額以下に減少する一方、女性は4.9千円から1.4万円へ大幅に増加している。その結果、2014年の「自動車関係費」は、30歳未満の単身勤労者世帯では男女逆転している。

なお、「若年層の消費実態(1)~収入が増えても、消費は抑える今の若者たち」(http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53061?site=nli)でも触れた通り、総務省「全国消費実態調査」では単身勤労者世帯の集計世帯数が減少傾向にある。よって、特に自動車など、高額で購入頻度の低い品目の変化を読み取るには、当該年度だけでなく過去からの傾向にも留意する必要がある。

1989年から2014年までの30歳未満の単身勤労者世帯の「自動車関係費」の推移を見ると、実質増減率は、男性では2009年までは横ばい・減少傾向で推移し、2014年で大幅に低下している。女性では上昇傾向だが、2014年で著しく上昇している。

これは「自動車関係費」の内訳の多くを占める「自動車等購入」において、2014年では男性は0円である一方、女性は7.3千円であることが大きく影響している。また、同様に「自動車関係費」の内訳の多くを占める「自動車等維持」については、2014年では男性は7.3千円、女性は6.3千円であり、男性の方が多い。なお、「自動車等維持」は、1989年以降、男性は減少する一方、女性は増加しており、男女差は縮小傾向にある。また、30歳未満の単身勤労者世帯の自動車保有台数の変化を見ると、男性では減少し、女性では増加した結果、男女差が縮小している。

集計世帯数の問題から、2014年の「自動車関係費」の男女逆転については、次回の調査もあわせて傾向を読み取る必要があるが、自動車関連の支出については、男性はおおむね減少傾向、女性は増加傾向にあるようだ。

つまり、一人暮らしの若者では、男性は「クルマ離れ」の傾向があるが、女性は「クルマ離れ」をしておらず、むしろクルマ利用は増えている。その結果、男女のクルマの利用状況は近づいている。

◆自動車運転免許保有率の変化~若年男女で保有率は低下、女性より男性で低下幅が大きい

「クルマ離れ」については、自動車運転免許保有率でも状況を確認したい。得られるデータの制約上、2001年と2015年の自動車運転免許保有率の比較になるが、自動車運転免許保有率は、男女とも年齢が若いほど低下しており、女性より男性で低下幅が大きい。2015年でも全ての年齢階級で女性より男性の方が運転免許保有率は高いが、男女差は縮小している。

よって、自動車運転免許保有率の変化からは、若い年代ほど「クルマ離れ」の傾向が見られ、その傾向は女性より男性で強い様子がうかがえる。

◆業界団体による「クルマ離れ」の考察~リスク回避志向の強まりのほか、ネットの普及によるライフスタイルの変化やクルマ以外の魅力的な娯楽の増加などによって相対的にクルマへの関心が低下

若者の「クルマ離れ」については、一般社団法人日本自動車工業会「2008年度乗用車市場動向調査~クルマ市場におけるエントリー世代のクルマ意識~」における考察もある。

同調査によれば、若者に運転免許取得意向や自動車購入意向を尋ねると、大都市に住む男性で「クルマ離れ」が進んでいる様子が見られるものの、女性や地方居住者では購入意向が高く、昔と同水準だそうだ。しかし、「買いたい」という強い購入意欲があるわけではなく、購入予定時期の先延ばしも見られ、実際の購入には結びつきにくい状況のようだ。

強い購入意欲が湧かない原因については、クルマに対する負担が効用を上回っているためとしている。その背景として、今の若者は景気低迷の中で育ち、保守的な価値観を持っているため、事故などのリスクを懸念する姿勢が強いこと、また、ゲームや携帯電話、パソコンの普及により、屋内で過ごすことが多い上、移動せずとも、いつでも友人とコミュニケーションを取れる環境にあることで、結果的にクルマの使用機会が減っているとしている。さらに、モノがあふれ、クルマ以外にも周囲に魅力的な商品・サービスも増えたことで、相対的にクルマの魅力が低下したと言う。

以上の総務省「全国消費実態調査」の30歳未満の単身勤労者世帯の自動車関係費の変化と自動車運転免許保有率の変化、業界団体の考察を合わせると、若者の「クルマ離れ」は大都市に住む男性や一人暮らしの男性で進む一方、一人暮らしの女性ではクルマ利用が増えており、若者の間でも温度差がある。しかし、娯楽の増加やリスク回避志向の強まりなどからクルマに感じる魅力は全体的に低下することで、運転免許保有率は下がり、若者の「クルマ離れ」と言われることにつながっているようだ。

■おわりに

本稿では、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の被服費と自動車関係費の変化を確認するとともに、消費社会の変化もあわせて考察した。

1989年のバブル期と比べて2014年では、男女とも被服費が大幅に減少している。景気低迷による節約志向もあるかもしれないが、ファスト・ファッションの台頭などにより、現在では、安価で高品質な衣料品が増え、お金を出さずとも最新の流行を楽しめる状況にある。また、モノがあふれ成熟した消費社会で生まれ育ってきたために、バブル期に見られたような高いモノ=良いモノという価値観は薄れ、物質的欲求も弱まっている可能性もある。

これらを背景に、今の若者では、ひと昔前よりも少額でもハイレベルな消費生活を楽しめるようになっている。さらに、「高級ブランド」への憧れも薄れ、「高級ブランド離れ」をすることで、ファッションにかける費用が大幅に低下しているという見方ができる。

「クルマ離れ」については、娯楽の増加やリスク回避志向の強まりなどからクルマに感じる魅力が弱まっていることを背景に、若い年代ほど運転免許保有率が低下し、「クルマ離れ」をしている様子がうかがえる。しかし、細かく状況を見ると、大都市の男性や一人暮らしの男性では「クルマ離れ」が進む一方、一人暮らしの女性ではクルマ利用は増えているなど、若者の間で温度差がある様子も確認できた。

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

最終更新:9月16日(金)19時0分

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