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【白洲信哉 旅と美】篝火広がる幻想世界(京都市左京区)

産経新聞 9月16日(金)10時15分配信

 毎年8月24日、お地蔵様の縁日に、地蔵菩薩を里にお迎えする「地蔵盆」の素朴な信仰が京都市北部の広河原(同市左京区)に残っている。

 行事は1週間ほどだが、高さ約20メートルもある柱「トロギ」の先端、逆円錐(えんすい)形の籠「モジ」に目がけてたいまつを放り投げる松上げは、山奥にもかかわらず、大勢の観光客でにぎわっていた。

 日が暮れて、一帯に「地松」と呼ばれる約1千本の篝火(かがりび)がともされると、天には星、地は一面、篝火の海で、山村は幻想的な世界と化した。太鼓や鉦(かね)の音を合図に、各自作製のたいまつ「放り上げ松」が籠に入るか否か、一投一投大きなため息が漏れる。

 すると、大きな放物線を描いた火の固まりが籠に入り拍手喝采。幾つかのそれが続くと、籠の火の勢いは増し、大たいまつに。トロギを支えていた藤のつるを切り、大きな音を立てて倒れると、フィナーレの「つっこみ」を迎える。

 僕は十数年ぶり2度目のことだったが、広河原松上げ保存会の新谷久利会長をはじめ、厳しいおきてに守られた男衆の心意気に、火の神である愛宕信仰のお札「火迺要慎(ひのようじん)」の原点を見る思いがした。

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【プロフィル】白洲信哉

 しらす・しんや 文筆家。昭和40年生まれ、東京都出身。日本文化の普及に努め、展覧会など文化イベントの制作にも携わる。平成25年から骨董(こっとう)・古美術の月刊誌『目の眼』編集長。

最終更新:9月16日(金)10時15分

産経新聞