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映画「怒り」渡辺謙 信じることの困難と尊さ

産経新聞 9月16日(金)17時5分配信

 李相日監督(42)の新作「怒り」が17日、全国公開される。「悪人」(平成22年)と同じく、吉田修一の同名小説を映画化。自分の愛する人は殺人犯なのか-。信じることの困難と尊さをテーマとした重厚な作品だ。千葉編で漁港職員の洋平を演じた渡辺謙(56)は「さまざまな関係性が濃密に描かれた、ある種の純愛映画だ」と語る。(岡本耕治)

 夫婦殺害事件から1年。容疑者は顔を整形し、依然、逃亡中。ある日、千葉の愛子(宮崎あおい)の元に田代(松山ケンイチ)が、東京で働くゲイの優馬(妻夫木聡)の前には直人(綾野剛)が、沖縄の女子高生、泉(広瀬すず)には田中(森山未來)と名乗る3人の身元不詳の男がそれぞれ現れる。彼らは殺人犯なのか。人々の心はわき上がる疑惑に揺れ…。

 千葉編で、家出した娘の愛子が東京の風俗店にいることを突き止めた洋平は愛子をしかることもせず、黙って連れ帰る。

 「どこかでボタンが掛け違ったままの親子。田代が現れ、洋平は心配すると同時に、これで娘から解放されるという思いもある。父娘って難しいな、と思いながら演じた」と語る。

 李監督作品は「許されざる者」(25年)に次いで2本目。その演出について、「演技ではなく、本当に悩み、苦しむことを要求される。李監督にも“答え”はなく、何かが見つかるまで、悩みながら一緒に穴を掘る感じ」と、苦笑交じりに語る。渡辺をはじめ、出演者たちが探し当てた一つ一つの演技が、見る者の心に深く突き刺さる。

 家に戻った愛子は、漁港で働く田代と暮らし始める。洋平は娘の幸せを願うが、田代の素性に疑いを持つ。優馬も直人の行動に疑問を抱き、泉が信頼を寄せる田中の言動もどこか怪しい。疑惑が彼らの心をむしばんでいき、築き上げた関係が崩れていく。

 「相手が何も変わらないのに信じたり疑ったりするのは、結局、自分の心の問題。信じ切れれば楽だけど、それが揺らぐのが人間だし、だからこそ苦しい」

 愛子役の宮崎について、「困難な役を覚悟を持って演じた。指名手配のポスターの前に愛子が立つ場面が印象的。子供と思っていた愛子が既に女となり、自分の手を離れていたことを洋平が思い知る。僕の中に複雑な感情を呼び起こしてくれた演技だった」と高く評価。松山や妻夫木、綾野、森山らに対しても「1人きりの場面でも相手への思いがきちんと伝わってくる。それぞれの関係性がきちんと表現されている」と称賛する。

 「インセプション」(2010年)などハリウッドでの活躍が続く渡辺は日本映画について、「俳優は1人では育てない。李監督のような人材が映画を撮り続けられる状況であってほしい」と願いを語った。

最終更新:9月16日(金)17時5分

産経新聞