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「日本人の心を示したい」 米ヒューストン・バレエの加治屋百合子「蝶々夫人」出演

産経新聞 9月16日(金)16時7分配信

 米国を代表するバレエ団、ヒューストン・バレエでプリンシパル(最高位ダンサー)を務める加治屋百合子が、今月に始まったばかりの新シーズンで充実の舞台を披露している。22日から上演されるプッチーニ作曲の「蝶々夫人」ではヒロインを演じ、ひたむきな愛を貫いた日本人女性の魂を描き出す。

 加治屋が所属するヒューストン・バレエは8日、20世紀の米バレエ界に偉大な功績を残したバレエダンサーで振付家のバランシン、ロビンズ、フォーサイスの名作を集めて開幕した。加治屋はオープニング公演の最初の演目に主役として登場。高度な技術を開拓しながらバレエの古典的な美を探究したバランシンの「テーマとバリエーション」を踊り、地元紙のヒューストン・プレスは洗練を極めた演技を高く評価した。

 「ヒューストン・バレエには優れたダンサーが集まり、素晴らしい劇場とスタジオなどの施設が充実しています。どれだけリハーサルを積んでも、実際の舞台に上がると、いつも新しい発見があります。ヒューストン・バレエでは、すべての出演者が本番の舞台で十分に準備をし、入念にチェックを行うことができます。一緒に踊るパートナーとの関係も含め、実際の舞台で伝えたいことをいかに伝えるかを幕が開く瞬間まで追い求めています」

 そう語る加治屋は6月、昨シーズンのクライマックスを飾った新制作の「ジゼル」でタイトルロールを演じ、新しい境地に踏み出している。加治屋にとってジゼル役は、世界の登竜門であるスイスのローザンヌ国際バレエコンクールで入賞した際も、ニューヨークに本拠を置く名門、アメリカン・バレエ・シアターで日本人初のソリストとなった折も、自身を成長させてきた大切な役柄だ。

 6月の公演では通常はカットされていた場面や音楽などを復活して上演した。村娘のジゼルが恋するアルブレヒト公爵に裏切られて狂乱する場面や、亡霊となりながらも愛する者を救おうとするクライマックスなどで、登場人物の揺れ動く心が精妙に描き出されて深い感動を呼んだ。

 「シーンの一つ一つが丹念に描かれ、これまで耳にしなかった音楽の中にも深い思いが細かに表されていました。『ジゼル』は定番中の定番で新しい表現を求めていくのは勇気のいることでしたが、物語の真実と向き合うことができました」と振り返る。

 婚約者のいるアルブレヒトがジゼルをどう思っているかは相手役の踊り手に任され、加治屋もそれを知らずに演じたという。

 「冷たい拒否の目を向けられ、そこから実際の出来事のように物語が生まれていきました。振付にも徐々に絶望へと揺れ動くジゼルの心が確かに存在し、生身の女性として本当に胸が張り裂けそうでした」

 22日からはプッチーニのオペラをバレエとした「蝶々夫人」の公演が始まる。加治屋はピンカートンの帰還を待ちわび、悲劇の幕切れに決然と臨み、純愛を貫く日本人女性を演じる。

 「ヒューストン・バレエの芸術監督、スタントン・ウェルチが振付家として世界的な評価を受けた名作です。美しい音楽は魅力にあふれ、長大で華麗なシーンでは技術的に最高度のものが要求されますが、演じることが何よりも重要だと思います。日本人であることを前面に押し出すのではなく、日本の文化を愛し、日本人の心を理解していることを大切にしたいと思います」

 米国で暮らして初めて日本人であることに目覚め、誇りを感じるようになったと語り、言葉を続ける。

 「日本人であることの誇りは日本に帰国する度に強くなります。日本人であることを見つけた場所で、日本人の美しい心を示したいと考えています」

最終更新:9月16日(金)16時7分

産経新聞