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フランスで「パン離れ」 職人らが原点回帰

朝日新聞デジタル 9月16日(金)21時39分配信

【モードな街角】

 フランスの国民食といえば「パン」。とりわけ棒状のバゲットはフランスの食文化の象徴でもあり、一番人気。その年間消費量は70億本といわれる。しかし同時に、国民の“パン離れ”が年々進んでいるのも事実だ。

【写真】8月末、パリ郊外のヴィトリー・シュール=セーヌで開催された収穫祭

 長い歴史のなかで、食卓におけるパンの位置づけは変わった。前世紀まで、パンは多くの人にとって空腹を満たす主食そのものだったが、今ではメインの料理を引き立てる「付け合わせ」に。「少ししか食べないからこそ、良いものを」という意識も芽生えた。20世紀初頭には1人あたり1日約1キロも食していたが、ついに120グラムまで減少したという。

 その原因は食習慣の変化や、食の多様化にあるといわれるが、戦後の工業化によってもたらされたパンの低価格化、品質の低下も追い打ちをかけたはずだ。1993年に発令されたパンに関する法律「デクレ・パン」は、危機を察したパン職人らの働きかけによって発案されたものだ。

 これにより、製造過程で一切冷凍せず、添加物を使用しない「パン ド トラディション フランセーズ(フランスの伝統パン、通称トラディション)」が誕生した。このパンは、1ユーロ前後(約115円)で売られている廉価版のバゲットより少々割高のバゲットを指す場合が多い。外観だけでなく、歯ごたえや風味に優れ、フランス産パンのイメージ向上やパン屋の職業を守る役割を果たしている。

 最近、パンのなかで再び人気を集めているのは、昔ながらの丸い形状の「ブール」。ルヴァン種を用いた伝統的な製法で時間をかけて発酵させることで、風味豊かで日持ちのするパンに仕上がる。さらに原料となる麦も在来種で有機栽培、石臼びきのものを使用。土地に根づいた種を土地の人々が作り続けるための在来種保存も兼ねた運動は、ブルターニュ地方やフランス南西部のペイザン・ブーランジェ(小麦栽培から製パン、販売まで一貫して行う職人)を中心に、パリなど都市部の新世代のパン職人からも支持を集めている。

 昨年刊行されたジュヌヴィエーヴ・ホフマンによる本『Histoires de Pains』は、そのような職人らの「原点回帰」の動きをとらえた1冊だ。3年の歳月をかけて約50人の関係者を取材。豊富な写真や文章を通じて、古くて新しいパン作りの感触を伝えてくれる。

 在来種・有機栽培の麦を使ったブールは、1キロあたり約9ユーロ(約1千円)と、トラディションに比べて2~3倍の値段。ずっしりと重たい丸パンは、いにしえの貧しい食卓を連想させるという。けれど標準化された麦や工業生産のパンと比べて、どちらが本当の豊かさを連想させるだろう? ブールの素朴で複雑な味をかみしめると、そんな問いが浮かんでくる。

(文 ライター・田村有紀 / 朝日新聞デジタル「&w」)

朝日新聞社

最終更新:9月16日(金)21時43分

朝日新聞デジタル

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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