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【漢字トリビア】「梨」の成り立ち物語

TOKYO FM+ 9月16日(金)12時0分配信

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「梨」。暑さが残るこの時期に、喉をうるおす果物です。今回は「梨」に込められた物語を紹介します。

「利用する」の「利」の下に「木」と書く「梨」。
「利」という字は穀物を表す「のぎへん(禾)」に、刃物を表す「りっとう」を組み合わせたものです。
穀物を刃物で切り取ることから「もうけ」「りえき」という意味をもち、その刃が鋭くスムースに切れることから「鋭利」「便利」という使い方もします。
この「利」という字がもつ意味から連想して、歯切れよく手軽に食べやすく、お通じが良くなる果物ということで「梨」という字が出来たという説があります。
ちなみに「ナシ」という和名の語源は、果実の中身が白い「中白(ナカシロ)」から「ナシ」に、また、芯に近い中の部分がお酢のように酸っぱいことから「中酢(ナカス)」、それがが転じて「ナシ」になったなど、諸説あるようです。

「梨」は、古くから人々に愛され続けてきた果物。
日本では、登呂遺跡などから炭化した梨の種が見つかっており、米や麦といった五穀の助けとなる果樹のひとつとして、積極的に植えることが推奨されました。
その結果、江戸時代末期には百五十種以上の品種が作られ、広く親しまれるようになりました。
「江戸者の梨を食うよう」という表現がありますが、これは、サクサクと歯切れよくさっぱりとした梨を江戸っ子気質になぞらえた、言い得て妙のたとえです。
中国では、三国時代・魏の初代皇帝・曹丕(そうひ)が、梨に関してこう記しています。
「甘きこと蜜の如く、脆き(もろき)こと浚(こおり)の如し」
果物のことを水菓子と呼びますが、この文章からは、しゃりしゃりとした梨の食感が伝わってきます。

ではここで、もう一度「梨」という字を感じてみてください。

山で見つけた、黄金色の果実。
いにしえの人は、自然の恵みを手のひらでしっかり受け止めます。
さわやかな音をたてて味わえば、甘さとみずみずしさが、からだいっぱいに染み渡る。
それは、大地の実りをまるごと取り入れる至福のとき。
いにしえの人たちが感じた素朴なよろこびを取り戻すため、ほどよく冷やした今年の梨を、じっくり味わう秋の訪れです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『植物の漢字語源辞典』(加納喜光/著 東京堂出版)
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『果物・種実 新・食品事典(6) 』(河野友美/編 真珠書院)

(TOKYO FMの番組「感じて、漢字の世界」2016年9月10日放送より)

最終更新:9月16日(金)12時0分

TOKYO FM+