ここから本文です

渡辺謙、宮崎あおいと「生き方を共有したかった」リアルな父娘関係を生んだ距離感とは

クランクイン! 9/16(金) 6:50配信

 熱量の高い作品を世に送り出し続ける李相日監督が、吉田修一の原作を映画化した『怒り』が公開を迎える。主演を務めるのは、映画『許されざる者』でもタッグを組んだ名優・渡辺謙。李監督の現場は「しんどくて嫌なんだよ」と苦笑いを浮かべつつも「すごいものができるという確信が持てる」と絶大な信頼を置く。そんな渡辺に李作品の魅力や、父娘を演じた宮崎あおいとの現場での距離感などについて聞いた。

【関連】『怒り』ジャパンプレミア<フォトギャラリー>


 李監督の現場はハードで有名だ。これまでの作品のインタビューや取材でも多くのエピソードが語られているが「すごいなって思うのは、全くぶれず作品に対して正直なところ」と『許されざる者』以来となった再タッグでも李監督の変わらないスタンスに脱帽する。

 「例えばオープニングの新宿でのシーン。撮影できる時間は限られているけれど、自分が納得できる空気が成立しない限りは首を縦に振らない。それって監督自身も追い込まれるんです。しかも、こちらに何かを要求するのではなく、俳優が悩んでいることに一緒になって考えて悩むんです。だから僕らは監督が満足できるカットが撮れるまでやるのみなんです」。

 精神的にもタフさが要求される現場だと想像できるが「もちろんしんどいですよ。でもそういった監督の正直さに僕らはついていける。だから僕も妻夫木(聡)も、たとえ自分たちが悩んで悩みぬいた部分が、もし編集で落とされてしまったとしても、その悩んだことはきっと画のどこかに残っていると信じられるんです」と李監督の魅力を語る。

 本作でも「人は信じられるか」というテーマのもと、人間の深淵に迫る描写に圧倒される。「信じることって結局は自分の問題なんだよね。人を信じるって自分の心を開いて相手を受け入れることから始まる。でもそれが信じられなくなってしまったとき、心を開いてしまった自分に傷つく。そんな弱さって誰にでもあるから、より深く入り込んで火傷してしまったり……」。

 劇中、渡辺演じる洋平は、宮崎扮する愛子といびつな父娘関係を展開する。「愛子は少し人とは違う育ち方をした。そのことに洋平は苛みボタンの掛け違いが生じてしまっている。でもそのことに目を背け、蓋をして生きてきた男。自ずから能動的に動く人間ではない。だから愛子との関係でそういう雰囲気を醸し出さなければいけないんです」と役柄を説明。


 こうした関係性のため、宮崎には現場で普段とは違う距離感で接することをお願いしたという。「彼女はどちらかというとバッテリーだけつけて待機しているタイプ。でも今回は父と娘の距離感を発酵させたいと思っていたので、何もしなくてもいいから僕の近くにいてもらって、アイドリングしてもらっていました。その時間の共有が大事だと思ったんです。結構プライベートな話をしたし、今まで生きてきた自分の考えも話した。生き方を共有したかったんです」。

 そんな中で出来上がった洋平と愛子の父娘関係は妙にリアルだ。「だいたい父娘って誤解しているよね」と渡辺は語ると「そこまで腹を割って話したりさらけ出したりする父娘って少ないじゃないですか。『うちの娘はこうだ』『父親はこういう人だ』って理解しているつもりでも、意外と誤解している部分って多いですよね。そういう部分もリアルだと思う」。

 さらに「男親と娘って結局、違う生き物なんです。子供として守らなければいけないという気持ちがある一方で、やっと託せる男が出来たと、重い荷を下ろせるという思いもどこかにある。特にこの作品の愛子は少し特殊な部分があるので、父親としてもずっと不安で生きて来た。そんな思いから解放されるという安堵感はどこかにある。でもそういう感情を持ってしまうっていうのもとても人間的だよね」と続ける。

 観終わったあと、何とも言えない重い感情が胸に去来する本作。「観た人それぞれに色々な思いが渦巻く作品。心に抱えている憤りやくすぶっているものが、どういう方向に向かうのか、もう一度火が付くのか……。そんなところを感じとってもらいたいですね」と作品に内在するメッセージを語ってくれた。(取材・文・写真:磯部正和)

 『怒り』は9月17日公開。

最終更新:9/16(金) 6:50

クランクイン!

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

失うことで不完全さの中に美を見出した芸術家
画家のアリッサ・モンクスは、未知のもの、予想しえないもの、そして酷いものにでさえ、美とインスピレーションを見出します。彼女は詩的で個人的な語りで、自身が芸術家として、そして人間として成長する中で、人生、絵の具、キャンバスがどう関わりあってきたかを描きます。 [new]