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「シン・ゴジラ」大ヒットの要因、映画製作委員会の功罪

ZUU online 9/17(土) 9:10配信

映画「シン・ゴジラ」が大ヒットした要因の一つに、ゴジラの権利を持つ東宝の単独製作という点が指摘されている。東宝はなぜ製作委員会方式ではなく、今や珍しくなった単独製作を行ったのだろうか。

■今や当たり前になった「製作委員会」方式

映画製作は、かつては映画会社が自ら製作費を負担し、プロデュースから配給までを手掛けていたが、1980年代以降、出版社、テレビ局、広告代理店、商社など映画業界以外の様々な会社が映画製作に進出した。

だが映画ビジネスはまさに水ものであり、製作費をかけても必ずしも作品がヒットするとは限らない。一社単独で映画を作っていた時代には、多額の製作費をかけた大作が興行的に失敗したことで、その会社の存続自体が危ぶまれるということもあった。こうした中で登場してきたのが「製作委員会」方式だ。

■まずはリスク回避が目的

映画製作のファイナンス上最も重要なことは製作費の回収だ。利益を出す前にまずは製作費をまかわなくてはならない。

だが近年は映画製作費は年々上昇している一方、その製作費に見合った興行成績は必ずしも約束されていない。水ものである映画製作にかけられる予算は単独社では限りがある。そこで考えられたのが、複数社で製作費を分担してファイナンス上のリスクを分散し、より安全で安定した予算と利益の確保ができるのが製作委員会だ。

東宝はかつて、製作費のリスクを避けるために製作本数を抑えていた時期があった。だが製作委員会方式によって映画製作費用が手当てができるようになってからは、製作本数もバリエーションも増え、安定して利益を出せるようになった。

■実の狙いは権利の確保

製作委員会の狙いのもう一つの側面は、製作した映画にまつわる権利を独占的に確保することだ。メディアの多様化に伴って、映画というコンテンツの価値は急速に高まった。映画は映画館で上映したのち、DVDの販売や放送、原作本の販売、キャラクタービジネスなどすそ野の広いビジネスとなった。

製作委員会に参加した会社はそれぞれの主業において幅広い業種が製作委員会に参加するのは、このような利益を独占することにある。配給会社の配給権、出版社による原作本の出版権、テレビ局の放送権、DVDソフトなどの販売権、各種のプロモーションに活用できるキャラクタービジネスなどだ。

製作費を出資することで独占的な権利を得る製作委員会各社は利益を最大化するために、自社の媒体を使い、ヒットに向けてプロモーションをかけていく。出版社は原作本を宣伝し、テレビ局はCMや情報番組を放送し、新聞社も記事や広告に紙面を割く。もちろん、配給会社は映画館での予告編上映などを積極的に行う。そのような相乗効果で映画のヒットの確率を高めようとする。

■「永遠の0」の事例

例えば2013年に大ヒットした「永遠の0」では以下のような19社もの企業が製作委員会に名を連ねた。

東宝、アミューズ、アミューズソフトエンタテインメント、電通、ROBOT、白組、阿部秀司事務所、ジェイ・ストーム、太田出版、講談社、双葉社、朝日新聞、日本経済新聞社、KDDI、TOKYO FM、日本出版販売、GyaO!、中日新聞社、西日本新聞社

これらの企業は単に出資しているだけではない。原作の出版から公開後の二次使用まで、「永遠の0」というコンテンツに関わる企業が製作に参加している。

製作委員会の記載は概して出資額に順じており基本的には筆頭にくるのが最大出資者、いわゆる製作幹事社であることがほとんどである。

多くの場合参加する広告代理店はまさにメディアミックを担当するとともに、広告以外のコンテンツ・ビジネスを狙ってのことである(ここで興味深いのは、TV局が出資していないこと、主題歌を歌うのサザンオールスターズや主演の岡田准一の所属会社、レコード会社などコンテンツの内容にかかわる会社までが参加していることなどが挙げられる)。

■製作委員会にもある欠点

製作委員会方式が大作、いわゆる大ヒットを確約しなければならないブロックバスターの製作に採用されるケースが大半であることから、そのネガティブな面が指摘されることがある。たとえばこういうものだ。

・各出資社のチェック(特に監督や脚本、俳優など)が入るので、最大公約数の観客を意識した安全パイの作品になってしまう
・テレビ局が製作参加している場合は、地上波テレビ放映を前提とした安全な表現に留まってしまう
・各メディア企業が参加するので、認知度の高い人気原作の企画ばかりが優先され、オリジナルの企画は通りにくい

こうした指摘は一部では間違ってはいない。特に最近は原作本の映像化やTVドラマの映画版が非常に多いのがそれを物語っている。これらはある程度ヒットが確実で、出資も権利もその妥当性が判断しやすいからだ。

しかし実態としてはそれがすべてとも言えない。企画立案から参加企業を募り、各社間の役割分担から権利調整は主に幹事会社が行う。参加企業も当然途中段階でのチェックは行うが、基本的には最初に幹事会社が提示した参加条件が優先されるのが実態だろう。

■ハリウッドでは映画製作は投資

たとえばハリウッドでは、映画専門のファンドや投資会社が存在する。これらは企画はもちろん、キャストや脚本に口も出し、映画の結末も何パターンかつくり、スニークプレビュー(完成前の一般向け調査)の結果をもとによりヒットする映画に変えていく。「カネも出すが口も出す」というやつだ。

日本と違って、監督に編集権がないことが大半で、ヒットを確実にするため、言い換えれば投資へのリターンを最大化するために編集権は企画を立てたスタジオが持つことが大半である。

またファンドや投資会社がクリエイティブ領域にまで口を出すことも珍しくない。これらは映画ビジネスは純粋に投資と位置づけられているからだ。一方、日本の製作委員会は映画への投資というよりも、コンテンツの権利の確保という側面が強いと言える。

■「口を出す」会社が少なければいいのか?

今までゴジラシリーズは東宝単独で製作されてきた(ハリウッド版を除く)。シン・ゴジラもこの前例にならったとも言えるが、10億円を超えるといわれている。邦画として、また東宝作品としても非常に高額の製作費をかけることは大きなリスクともいえるだろう。

そのようなリスクを取ってでも単独製作した理由としては、ゴジラが東宝、さらには邦画を代表するコンテンツであることから、東宝は前例にならって単独製作したことが考えられる。

単独製作の大きな利点は、多くの出資会社の意見を汲み取る必要がないことであり、企画・製作・クリエイティブをすべて東宝のみでコントロールできたことだったことが挙げられる。

そのコントロールが最も効いた要素は、アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズを手掛けている庵野秀明氏を脚本・総監督に起用したことであり、彼の起用を決断した東宝のエグゼクティブプロデューサー山内章弘氏の功績だろう。

作家性が強く、カルト的な人気がある庵野秀明という稀有な才能を持つ監督に依頼することは、作品が一般受けするものにならないと思われる可能性もある。その点で合議が必要な製作委員会方式ではなく、複数社の意向を汲む必要がない単独製作であったことはプラスの要因になったことは確かだろう。

庵野氏は撮影前に、「この映画は珍しく東宝がお金を出してくれた。それを無駄なく使いたい」とスタッフに語ったとも言われている。東宝が庵野氏に賭けたのに対し、庵野氏もクオリティの高い作品を作り上げることでそれにこたえた。

公開4日間で興収10億円を超える大ヒットを記録したという「シン・ゴジラ」は、「単独製作」一点張りというリスクをとったことでは東宝は興業的にも、批評的にも大きなリターンを得ることができたと言える。(ZUU online 編集部)

最終更新:9/17(土) 9:10

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