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米国企業がこぞって起債する「カンガルー債」とは?

ZUU online 9月17日(土)19時40分配信

世界的な低金利は投資家にとっては悩みの種だが、社債を発行する企業にとってはありがたい話だ。近頃は海外企業が豪ドル建てで起債する「カンガルー債」と呼ばれる社債が注目を集めている。

アップルが2015年に円換算で2000億円規模のカンガルー債を発行したのち、インテルやコカ・コーラなど世界的な米国企業が続々とカンガルー債を発行している。豪ドル建ての債券を保有している日本人投資家も多いが、なぜ米国企業がいまカンガルー債を発行するのか。豪州市場の魅力と見通しを解説してこう。

■そもそもカンガルー債とはなにか?

カンガルー債とは、海外の発行体(外国企業や外国政府)が豪州市場で豪州の投資家向けに豪ドル建てで発行する債券を指す。

豪ドル建てで発行されるため、原則的に豪州の投資家は為替変動リスクを気にすることなく海外の発行体が発行する債券に投資できるというメリットがある。また、債券の発行体は資金調達の手段を多様化できるなどのメリットがある。

ちなみに、海外の発行体が日本人投資家向けに円建てで発行する債券のことをサムライ債といい、人民元建てで発行する債券のことをパンダ債という。海外の発行体が現地通貨建てで発行する債券には債券が発行される国を連想させるような名称がつけられていることが多いのが特徴となっている。

■豪州市場で起債する魅力とは?

元々、人口約2300万人の豪州の社債市場の規模は大きくなく、その市場の小ささや不透明感を不安視して海外企業による起債もほとんどなかった。ではなぜ、いまになってアップルやインテルなどの世界的な大企業がカンガルー債を発行したのか。

理由の1つ目は豪ドル建てで資金調達を行うことで資金調達コストの低下につながるからだ。現在、豪ドルと米ドルのクロス・カレンシー・ベーシス・スワップのスプレッドが約1年ぶりの高水準をつけている。このスプレッドが高いほど外貨で受け取った資金を米ドルに転換するコストが安くなる。そのため、米国企業はカンガルー債を発行することで安いコストで米ドルを調達できるのである。

文章にすると非常にわかりにくいため、簡単な式にしてみよう。クロス・カレンシー・ベーシスとは、異なる通貨の変動金利を交換する取引のことで、こちらが相手に金利も支払うかわりに、相手からも金利を受け取ることができる。

◯米ドル調達側が支払う金利=米ドル調達側が支払う金利-米ドル調達側が受け取る金利+スプレッド

つまり、スプレッドが高くなるほど受け取る金利が高くなるため、米ドル調達側(米国企業)の資金調達コストが下がるのだ。逆に、スプレッドが低下してしまうと資金調達コストが上がることになる。

理由の2つ目は為替市場で豪ドルが対米ドルで反転する動きを見せていることだ。豪ドルは資源価格の下落などを受けて過去数年下落基調が続いていたが、今年1月に底を打って反転の兆しを見せている。2016年1月の安値水準から対米ドルで10%程度上昇しており、豪ドル高米ドル安は豪ドル建てで調達した資金を米ドルにする際に米国企業にとって有利となるため、現在の豪ドル高は米国企業にとっては非常に好都合なのだ。

理由の3つ目は豪州の巨額の年金マネーである。他の先進国と比べると人口が少ないとはいえ、豪州の年金市場は世界で5番目に大きく、同国の年金基金は約1兆5000億ドルという巨額の資金を保有している。この巨額の年金マネーの投資需要は豪州市場の魅力の1つであり、資金調達先を多様化させたい米国企業にとってもカンガルー債を発行する1つの根拠であると考えられる。

■豪ドル見通し「対円で下落、円高へ」3つの理由

豪ドルの見通しについて語るのであれば、対ドルと対円の両方の視点で語る必要があるだろう。

現在、豪ドルは対ドルで下落基調から上昇基調へとトレンド転換を迎えている段階だ。一方、対円ではレンジ状態となっている。これは豪ドルが対ドルで上昇しているのと同様に、円も対ドルで上昇して円高になっているからである。今後の見通しとしては、豪ドルは対円では下落し円高になる可能性が高いと考える。理由は大きく3つだ。

理由の1つ目は世界経済の先行き不透明感が強く、日銀による追加緩和に限界論も出始めている現状では円が買われやすい状況が続く可能性が高いからだ。アベノミクスが始まったころのようにやすやすと円安になるとは考えづらく、円が100円近辺で推移を続けるか更に円高になる可能性も十分ある。

理由の2つ目は豪中銀が政策金利を引き下げる方向で政策運営すると考えられるからだ。2016年9月6日に豪中銀は政策金利を据え置いたが、従来から低いインフレ率には懸念を示しており低インフレを根拠に政策金利を引き下げる可能性は十分考えられる。

利下げによる住宅価格の上昇も懸念されるが、住宅供給は堅調に推移すると見込まれており、住宅価格の上昇余地は大きくないと考えられるため利下げを妨げる要因にはなりにくいと思われる。米国が利上げを模索している一方、豪州が利下げをすれば豪ドル下落の要因になりえる。

理由の3つ目は資源価格の上昇スピードに陰りが見え始めたことだ。資源国である豪州の通貨である豪ドルは資源価格に影響を受けやすい。資源価格の下落は豪ドル安の要因となるが、原油価格はなかなか50ドルの壁を突破できず、資源価格の回復も足踏み状態で、豪ドルを押し上げる要因にはなりにくいと考える。

豪ドル建ての金融商品を保有している投資家は為替相場の行方に十分注意を払うことが求められるだろう。(アナリスト 樟葉空)

最終更新:9月17日(土)19時40分

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